虜
イヨマンテが集落から連れてきた人々はボディービルダー化していた。
…しかも、女性は副作用で男になったらしい。
「もちろんワタシも、男性化の副作用を抑えられないかとか、性別だけでも元に戻せないかとか色々と手はつくしてるのよ?自分の体を使って何度も臨床試験も行ったんだけど…今のところは、お手上げ状態ね…。」
「イヨマンテ様は尽力して下さっているが、当の本人であるワシ等はこれで納得しているんじゃよ。少なくとも飢えて死んだり、一方的な暴力に晒されることは少なくなったワケじゃしな。」
…本人達が良いのなら、まぁそれでいいか…。
この世界に俺のいた世界の倫理観をあてこむのも、なんか違う気がするし。
「…さてと、結構話し込んじゃったわね。アナタ達、今日は泊まっていきなさいよ。車があっても今から帰るんじゃあ、途中で暗くなっちゃうわよ?それに、この辺りによく出るゲリラゴリラって怪物は、暗い中で相手にするのはオススメできないし。」
「…野宿とはまた違った身の危険を感じるんだが…。」
とはいえ、俺も慣れない山道での移動(ゴリアテに乗って揺られているだけだが)で若干疲れた。
夕食もごちそうしてくれるというイヨマンテの申し出を、しぶしぶ受けることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さぁ、遠慮なく食べて頂戴!特に野菜は今日収穫したばかりだから瑞々しくってオススメよ!」
別室に招かれた俺達の前に出された料理は、色鮮やかで見た目にも実に美味しそうな物だった。
大根のような物とカラフルに光り輝く豆のスープ。
すさまじく食欲をそそる香りを放つ、じゃがバターみたいな物。
そして、皮がパリッと香ばしく焼きあがった、鶏肉?のソテー。
…これで、作ったのがイヨマンテじゃなかったら最高だったんだが。
「それはウチのバイオプラントで育ててるセクシャル大根と宝石豆のヘルシースープよ!こっちのは茹でたビオ蘭のクレイジーバター乗せで、メインは噛み付き鶏の病み付き焼きにしてみました~!」
フリルのついたピンク色のエプロンを身に着けた巨カマが、自信ありげに料理の説明をする。
…聞き慣れない食材が多々あったんだが、本当に大丈夫なのか…?
…グ○メ細胞が活性化したりしないだろうか?
くっ…しかし食欲に勝てそうもない…!
「…いただきます…。」
恐る恐る、スープを掬った匙を口へと運ぶと…。
「…!?…」
「…これ、馬鹿みたいに美味しいですよ!!」
「…こりゃあ驚いたな…。」
皆が絶賛するのも頷ける。
美味い。
色とりどりの豆は、一粒ごとに違った旨味を凝縮させたような味だ。
赤は肉のようなコッテリした脂の甘味が、水色のからは魚介独特の風味が。
…そんな多彩な旨味を、大根がやさしく受け止めている。
気が付けば俺は、夢中で料理をかきこんでいた。
チョウチョとオッサンも、必死になって手を動かしている。
…そして、俺達はあっという間に出された料理を完食してしまった。
…どれも絶品だった。
美味い上に新食感…まさかオカマに胃袋をつかまれるとは思いもしなかった…。
「…はい、お粗末様でした~。みんないっぱい食べてくれて嬉しいわぁ~。料理人冥利に尽きるわねぇ。」
「…お前、料理美味すぎだろ…。」
「?そうかしら?もともと嫌いじゃあ無かったけれど、みんなの栄養バランスとか考えながら作ってたら、なんだか上達しちゃったみたいねぇ。」
…くやしいが正直、ベータの料理よりも美味かった。
ベータが作る料理だって美味いんだが、あくまで俺も知っている味の延長線上のものだったからな…。
「…イヨマンテさま、後でお暇な時にレシピをご教授願えませんか…?」
「あら、もちろんOKよ!じゃあ後でお互いにレシピ交換しましょう!」
「あぁ~幸せだけどお腹がすごいことになってますよぅ…。」
レシピ交換って。
女子か。
それにひきかえ、チョウチョはブレないなぁ…。
…しかし唯一の女子が一番女子力低いって…。
「あ、そうだわチョウチョちゃん。だったら腹ごなしに温泉でも入ってきたらどうかしら?」
「「!?」」
不意にイヨマンテが放った言葉に反応したのは、俺とオッサンの二人だった。
「温泉まであるのか!?」
「ええ、ちょっと歩くんだけれど、裏の石階段を登った所にあるのよ。ラジウム温泉だから効能の方も中々の物なのよ。」
ラジウム温泉ってのが何なのかは知らんが、とにかく温泉があるらしい。
…こっちに来て、初の入浴チャンスだ。
これは絶対に入らなければ…!!
「…オンセンって何ですか?」
「チョウチョさま、温泉とは地中から湧き出した湯を用いた入浴施設でございます。」
「…ニュウヨク施設ってのは何をする所なんですか?」
「…すまんベータ、チョウチョの方についてってやってくれ…。」
「承知いたしました。」
…とにかく、今は温泉だ!
俺達は手早く食器の片付けを手伝い終えると、暗くなり始めた外へと飛び出したのだった。




