車道ゲイト
今日もカブを走らせている。
運転は俺。
俺と荷台の間にじいちゃん。
荷台の箱の上には、食いきれなかったケ…肉が括り付けられている。
空は終末の世界とは思えない程晴れ渡っていたが、俺の心には若干の影が差していた。
走り続ける事2時間弱。
後ろに乗っていたじいちゃんが声を発した。
「そろそろ見えてくるぞ。…なんか全然怪物がいなかったな、お前メッチャ運良くね?」
道中、何度か千里眼を使って安全確認は行っている。
怪しい生物が徘徊しているのが見えた時は、そっと進行方向をズラして回避した。
…俺のPSIのことは、基本他人に話さないでおく事にした。
時代が時代だ、都合よく利用されるに決まっている。
「見えてくるって…まさかアレがじいさんの家か!?」
進行方向の遥か先に、建造物が見えてくる。
…巨大な、見覚えのある建造物が。
「…イ○ンや…。」
赤紫色の巨大な看板。
老朽化はしているが、屋上駐車場へのスロープも健在だった。
入り口や一階の窓は、廃材や木の板で塞がれている。
「…お前、字が読めるのか?けど残念でした!アレは『アエオン』って読むんだとよ。ようこそ、アエオンの町へ!」
…いやいやいや。
確かにアエオンと読めなくも無いが。
思いっきり隣にカタカナで『イ○ン』って書いてあるじゃねーか!
「入り口は屋上にあるんだ。あの坂道を登っていってくれ。」
言われるままにカブを走らせ、屋上の駐車場へと登っていく。
…スロープの所々に亀裂が走っていて、なんだか心臓に悪い…。
そして、駐車場の入り口まで来た所で。
「止まれ!!」
俺達は武装した集団に行く手を遮られた。
一瞬身構えたが…俺は現れた集団の奇抜なファッションに目を奪われた。
工事用の黄色いヘルメットに、ライダースジャケット、武器はつるはし。
はたまた中華鍋と思われる盾に、細長い鉄パイプの槍。
こっちには野球のキャッチャーが着けるマスクに、キャッチャーが着けるプロテクター、腕にはキャッチャーミット。
…お前だけ何でキャッチャー装備コンプしてんの?
「ここに何をしに来た!…お前、そのバイクは…!?」
カブを見て警戒を強める武装集団のリーダーと思われる男。
えい!千里眼!
【ダニ】
人間 22歳
生命力/18
力/19
体力/20
知力/17
敏捷/10
運/15
(状態:空腹)
(遺伝子異常有り)
…名前が…何だろう、モヤッっとする…。
害虫じゃねえか…。
これがこの世界のスタンダードな名前の付け方だとすると…キラキラネームどころの話じゃないなぁ…。
「ようダニ!今帰ったぜ〜!」
俺の後ろからじいちゃんが姿を現すと、張り詰めていた空気が一気に霧散した。
「ヤスデじいさん!あんまり帰りが遅いから死んだかと思ってたんだぞ!」
「いや〜、ちょっとドジって怪我しちまってな。コイツに助けてもらったんだ。」
「そうだったのか。ヤスデじいさん、彼の名は?」
「…あ〜、お前なんて名前なの?」
…じいちゃん、今更かよ…。
「…西郷です。」
「サイゴー!変な名前だな!アハハ!!」
…俺、一応命の恩人なハズなんだけどなぁ…。
俺が名乗ると、じいちゃんの話もあってか皆武器をおさめ、町へ入ることも許可してくれた。
「…そうか…そんな事が…。しかし、サイゴー…お前も中々にお人好しだな。このご時世に見知らぬ他人を助けるとか…。」
「いやぁ、まあなんと言うか。成り行きです。」
ここまでの話をしながら階段を下り、店内…というか町の中?に入った。
おお…やっぱイ○ンだわ…。
テナントが入ってた部分が居住スペースやら何かの店?みたいになってる。
床や天井が所々崩れてるけど、雨風を防ぐ分には問題無さそうだな。
フードコートの前を横切ると、スペースの半分くらいがテントや段ボールハウスで埋まっていた。
話を聞いてみると、ここには他の場所から流れてきた難民やらが住み着いているんだそうな。
…町の様子といえば…フードコートに行って気付いたんだけど。
生活している人々の多様性に驚いた。
手足が普通の倍くらいある人。
全身の皮膚がひび割れた地面みたいな人。
口が×字に割れた人。
中でも俺が驚いた町人ベスト3は…。
・頭が2個あり、それぞれが別々に話しているおっちゃん。
・額から人参を思わせるような角が生えた子供。しかも兄弟。
・服の上からでも分かる、オッパイが6個くらいあるダイナマイトボディーの女性。
これがキマイラボムが残した影響か…恐るべし。
通常の遺伝子を持った人はほぼいないらしいし、見た目には普通に見える人々も見えない部分で何かしらの遺伝子の異常をかかえているのだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、一行の足が止まった。
「おう少年、ここが俺ん家だ。助けてもらった礼もかねて、一泊くらいしてけよ。」
じいちゃんが一階テナントの一つを指差した。
シャッターは下りているが、一部分がくり抜かれて無理矢理扉が取り付けられている。
そのシャッターには赤いペンキだかスプレーだかで、『ヤスデ修理店』と書かれていた。
…まるで田舎のヤンキーにでも落書きされたみたいだなぁ…。
「…それじゃあヤスデじいさん、今日は疲れているだろうから、詳しい報告はまた明日にでも頼む。」
「心配かけちったなー。悪ぃなダニ。」
そう言うと、同行していた門番達は来た道を戻って行った。
扉を押し開き、入って行くじいちゃん。
俺も後に続く。
「…いらっしゃいませ、生憎ですが店長が外出中で…。」
「おう、帰ったぞチョウチョ。」
出迎えた若い娘が固まる。
「…この…。」
「え?」
「…この糞ジジイっ!スクラップ拾いに行ったまま一週間も戻らないから、どこかで死んじゃったかと思ったでしょうが!!」
チョウチョと呼ばれた娘は、カウンターに並んだ工具を次々に投げつけてくる。
じいちゃんは飛んでくるスパナやらハンマーを器用に避ける。
直撃しそうな時だけ少し体を逸らして避けているようだった。
…とても怪我をしているとは思えない動きだ。
じいちゃんの動きに驚いていると。
ゴスッという音とともに、側頭部に激痛が走った。
飛来した工具の一つが、よそ見してた俺の頭に直撃したのだ。
ざんねん!!
わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!!