登山
「…どうしてこうなった…。」
装甲バスの中で目が覚めた俺は、眼前の光景に頭が痛くなった。
…今回は二日酔いではない。
俺がベッドとして使っている座席の足元に転がる、青と緑と白の奴。
青いツナギはおなじみチョウチョ嬢。
本日は酒瓶を抱き枕に、豪快ないびきをかいて爆睡中だ。
緑のツナギは新顔のアシュラ嬢。
6本の腕を器用に使って、尻・ヘソ・鎖骨・頭を同時に掻く荒技を実行中だ。
…寝ながらな。
白いのことベータは、何故か毛布で簀巻き状態にされている。
…お前だけはまったく状況が分からない。
お前、夜中に一体何をしたんだ?
「おはようございます、サイゴーさま。…よろしければ、脱出を手伝っていただけますか?」
「おう、起きてたのかベータ。…そういえば寝ないんだったな、お前は。」
毛布に巻かれたロープをほどきながら、昨夜何があったのか聞いてみた。
「サイゴーさまが先にお休みになった後、しばらくチョウチョさまとアシュラさまとで騒いでおられたのですが…いざ寝るという事になりましたら、『ベータちゃんも一緒に寝よう!』と申されまして…。」
「…ああ、それで『自分は寝なくて大丈夫』って言ったら簀巻きにされて寝転がされたのか…。」
「左様でございます…。」
毛布から脱出したベータは、動きでも確認するように間接を動かしている。
…動作チェックに問題が無かったのか、緑に光る瞳を細めてどこかホッとした表情だ。
…ロボの割に感情表現豊かな奴だ。
「…じゃあ仕返しも兼ねて、コイツ等起こしてくれるか?…『最弱』でな。」
「…かしこまりました。」
更に目を細めたベータの両腕から、黒い棒が飛び出す。
…ベータはそれを、無言で二人に押し付けた。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
ベータの電撃で二人とも起きた。
文字通り、飛び起きた。
…寝た状態から、あんなジャンプできるもんなんだなぁ…。
「おはようございます、チョウチョさま、アシュラさま。」
「…あ…あ…、お…おひゃよう…ござ…。」
「ぐぁぁぁ…!な、何だ今のは…!?目から火花が出たぞっ!?」
朝から騒がしい奴等だ。
二人を起こし、ベータは外で朝食の準備を始める。
俺は俺でお湯を沸かしてコーヒーもどきを作る。
そうこうしているとチョウチョとアシュラがバスから降りて来た。
「…うう…、二日酔いと同じ位酷い目に遭いました…。」
「なんかビックリしたけど、体が軽い気がするぜ!アハハ!」
アシュラ、元気だなぁ…。
「そういえば、昨日の酒は二日酔いしなかったな。」
「ああ、ポンシュも合成酒だけど、悪酔いしないように割ってあるからな。…レシピはラクエンの町のトップシークレットだから言えねえけど。」
え、アレも合成酒なのか?
…アエオンで飲んだのとはえらい違いだ。
あれなら俺も美味しく楽しく飲める。
…ラクエンを出る時に仕入れとくのも手だな。
コーヒーもどきを飲み終えた頃、ベータに呼ばれた。
ベータが作ってくれた朝食を皆で食べる。
…しれっとした顔でアシュラも食ってるし。
「…昨日も思ったが、この『コメ』ってのは良いな。腹にたまるし料理と一緒に食うとスゲェ良いカンジだ。」
今日の朝食は米と何か知らない鳥の目玉焼き、あとベーコンっぽいのだったのだが、アシュラは気に入ったようだ。
…残念ながら醤油と味噌がまだ完成してないんだよなぁ…。
俺、目玉焼きには醤油派だし。
やっぱ朝食には味噌汁が欲しい。
食事が終わると、早速昨夜の依頼の話になった。
アシュラに案内されて付いて行くと、昨日の飯屋の前を通り過ぎ、商店街らしき場所を横切って、町の中心部に到着した。
「…あ〜、コレがスクラップ山だったのか…。昨日もうっすら見えてたけど、普通に遠くの山が見えてんのかと思ってたわ…。」
近くで見たスクラップの山は、想像以上に大きかった。
昔の人間も、よくもまあこんだけゴミを出したもんだ。
…まあそのおかげで、この町の人達は生活ができてるってんだから世の中は分からないもんだ。
「一応ここまでは案内したが、探索は任せる。俺も仕事があるんでな。…丸投げになっちまってスマン。」
「ああ、元からそのつもりだから問題無いぞ。仕事行ってこい。」
アシュラは日が落ちる頃になったらまた来ると言って仕事に向かった。
…さてと、早速始めるか。
「…サイゴーさま、千里眼を使用なさるのですね?それでしたら、一度山の頂上まで登られますか?」
「そうだな、俺もそのつもりだったんだ。」
「…そうですか。そうなると、私はここで待っていた方が良さそうですね。流石にこの足場ですと、私の下半身では足手まといでしょうから。」
そう言って自分の下半身を見るベータ。
ベータの下半身は人間と違って一輪車みたいになっている。
確かに登るのは大変そうだ。
「それじゃあ、私とノブさんで一度登ってみましょう。ベータちゃんは昼食の準備でもしていて下さいね。」
「…そうだな、それじゃあベータ、行ってくるわ。」
「お二人とも、お気をつけて。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
スクラップの山を登り始めて一時間。
思った以上に足場が悪く、なかなか先に進めない。
登っている途中で、幾つか山に開いた横穴を見かけた。
少し覗き込んでみたが、暗くて奥が見えなかった。
もし探索することになったら、明かりの準備が必要だろう。
…ベータが連れてこれれば楽なんだがなぁ…。
何度か小休憩を挟みながら、なんとか一番高い所に辿り着いた。
頂上からは下にあるラクエンの町や、下からは見えなかった山の裏側も良く見渡せる。
ここが普通の山だったら、ここらでランチなんだけどねぇ…。
流石にスクラップの上で食事ってのも嫌だよな。
「さて、お腹も空いてきましたし、チャチャっとやっちゃって下さい!」
「おう!チョウチョはちょっと待ってろ。」
そう言って、千里眼を使用する。
ターゲットは『腕が4本ある生物、もしくは遺体』だ。
…。
…あれ?何も見えない…。
あ〜、じゃあ下の方なのか。
どうしよう?麓の横穴にでも入ってみて、奥で千里眼を使ってみるか?
「…その様子だと、見つかりませんでしたか?」
「…ダメだわ、どうも下の方っぽいな。…折角登ったってのに…。」
「…ま、まあ仕方ないですよ!あ!じゃあバスのタイヤだけでも探して帰りましょうよ!」
チョウチョに言われてタイヤの事を思い出し、千里眼を使ったらアッサリと見つかった。
幾つか見つかったタイヤから帰り道で拾えそうな物を、俺とチョウチョで1本ずつ転がしながら下りた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おかえりなさいませ、サイゴーさま、チョウチョさま。思ったよりも時間がかかりましたね?」
「やっぱ足場が悪いと登りにくいな。ベータ、昼食の準備は出来てるか?」
「はい。本日のランチはサンドイッチになります。」
「…もうお腹ペコペコですよぉ。早く食べましょう?」
昼食のサンドイッチを口に運びながら、ベータに結果を報告する。
するとベータの方でもスクラップ山周辺を探索していたらしく、おあつらえ向きの横穴に心当たりがあると言う。
手早く昼食を済ませると、ベータの案内で件の横穴までやって来る。
…山の途中で見た穴よりも大分大きい穴だ。
見れば入り口も木材で補強されているし、これならば奥まで行っても多少安全かもしれない。
「…近くで見ると、もう横穴って言うよりダンジョンだな。…まさか怪物は出ないよな?町中だし…。」
「変な事言わないで下さいよぅ…、流石に大丈夫ですよ。…大丈夫ですよね?」
一応千里眼で調べたが、生物の反応は無い。
安全を確認すると、俺達はベータを先頭に横穴へと歩みを進めた。
…今更だが、これって今日中に帰れるのか?
なんだか不安だなぁ…。




