車輪の宴
昨夜はなんか目が冴えちゃってよく寝れなかった。
…ベータがいらんことするからだ。
「顔色が優れませんね。体調が悪いのですか?」
そのベータが心配して声をかけてくる。
まあベータも悪気があっての行動では無いんだ。
…だから余計にたちが悪いんだがな。
「…いや、なんでもないんだ。体調は大丈夫だ。」
「…ふぁ〜…、…あ、おはようございます〜。」
俺達の話し声のせいか、チョウチョが起きた。
一応、俺の寝てるシートとチョウチョの寝てるシートとは荷物で区切ってあるんだけど、…それでも寝息が聞こえるんだよなぁ。
…あんなのを見た後に若い娘と一つの部屋で寝るとか、生殺しもいい所だ。
「頑張って今日中にラクエンに到着しますよ!」
「…ああ、メシを食ったら出発しよう。」
朝食にベータが焼いたパンケーキを食べ終わると、俺達を乗せた装甲バスは出発した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
特に大きな事件も無く、バスは進んでいる。
いつの間にか視界は見慣れた荒野から様相を変え、朽ちたアスファルトの道路と崩壊した建造物が多く見られるようになっていた。
「大分雰囲気が変わってきましたねぇ。町ももう近いかもしれませんよ〜。」
「…。」
「…?ノブさ〜ん?」
「サイゴーさま、チョウチョさまがお呼びですよ。」
…あ…。
いかん、寝てしまった。
「すまんチョウチョ、寝ちまってたみたいだ。」
「朝眠たそうでしたからねぇ。まぁ、仕方ないですか。…後で何か奢らせますからね!」
チョウチョに運転させといて寝ちまうとか、何様だ俺は。
…今日は本当にダメだな俺。
…あ、千里眼…!
…。
「チョウチョ、ベータ。…重ね重ねで悪いんだが…。」
「…まだ何かあるんですかぁ?」
「…敵襲だ!!」
鉄格子のはまった窓の外を見ると、何か黒い物が複数、こちらに向かって転がって来る所だった。
…何だアレは?
…タイヤか?
アスファルトの上を、複数のタイヤが転がって来る。
…うわっ!速い!?
タイヤ達は次々と装甲バスの前に集まって来る。
そしてそのスピードのまま、正面からバスに向かって突っ込んで来た…!
…。
「…ま、まあ正面からなら問題無いんだよな、装甲バスは。」
バスに突っ込んだタイヤ達は、カウキャッチャーによって次々に弾き飛ばされていく。
「な…なんなんですかねぇ、コイツ等。…そもそも生き物なんですかね?」
…ああ…、マジで今日の俺はダメだな…。
千里眼忘れてた…。
【ホイールイーター】
変異体 38歳
生命力/37
力/18
体力/21
知力/2
敏捷/31
運/7
(遺伝子異常有り)
「…え…?」
変異体。
確かダイノにも同じ表示が出てた。
「…コイツ等…、『元』人間なのか…?」
「…へ?」
「なんと!」
…バスに弾かれて転がっていたタイヤが起き上がり、初めてその側面を見せる。
本来ならホイールがあるはずのそこには、怒りの表情を浮かべた、人に似た顔がへばりついていた。
…気持ち悪っ!!
ヨコハ○タイヤかっ!!
「…あれはもう人ではありませんね。表情に理性のかけらも残っていません。」
「じゃあ殺っちゃいましょう!」
「…いや、アイツ等けっこうステータス高いぞ?」
早さはパールネックレスよりも上だし、生命力、体力も中々なもんだ。
相手にするのは骨が折れそうな相手だな。
「…よし!見なかった事にしよう!」
「…え〜…。」
「正面から来る奴はカウキャッチャーがあるから問題無いし…アイツ等頭が悪いから。多分複雑な攻撃は出来ないと思うぞ?」
驚きの知能2だ。
今まで見たステータスの中でも飛び抜けて低い。
…現に今も正面からの特攻は続いている。
「う〜ん…、本当にそれで大丈夫でしょうか?」
「確かに、現状のままなら問題ありませんね。このままラクエンへ向かいましょう。」
チョウチョは未だ不安なようだが、ベータの了解は得たのでOKだろう。
俺達はホイールイーターを『見なかった』事にして、町へと急ぐ事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日が落ちかかってきている。
…町はまだ見えない。
…そして…。
「…あ〜もう!!コイツ等いつまでついて来るんですか!?しつこすぎですよぅ!!」
…ホイールイーター達の襲撃は、未だ続いていた。
コイツ等知能は2のくせして執念だけは異常に強いみたいだ。
…こればっかりはステータスでは表示されないからなぁ…。
「…いくらなんでも、これは異常ではないでしょうか?傷もつかない相手に、無駄な体当たりを延々と繰り返すなど、知能以前に生物の本能として間違っている気がします。」
…ベータの言う事ももっともだ。
なんでコイツ等は無駄な体当たりを繰り返すんだ?
う〜ん…。
「…ダメだ分からん。…でも流石にもう町に着くだろうし、それまでの辛抱だろ?」
「…町までコイツ等を連れて行くんですか?」
『…。』
…そりゃマズいな…。
こんなの連れて行ったら、町に入れてもらえないかもしれん。
「…結局、なんとかするしかないのか…。」
「…しかし、どういたしましょう?タイヤが相手では私の攻撃は効き目が薄そうですし、一直線に向かって来るとはいえ銃では早すぎて狙いにくいでしょう。」
「…チョウチョ、爆弾は?」
「そう都合良く何個も無いですよぉ。あれは試しに作った、試作品みたいな物ですから…。」
…サイコキネシスで横っ面を狙ってみるか?
…この数を相手に?
…上手くいっても朝日を見る事になりそうだな…。
「あ。」
「…どうしたチョウチョ?」
「…町が見えてきちゃいました。」
ゲッ。
やばい、着いちゃったよ。
俺がどうしようかと焦っていると、不意に破裂音が聞こえた。
なんだ?と思っていると、またしても破裂音。
…その後も、破裂音は幾度となく聞こえ続けた。
「…あれ?心無しか、ホイールイーターが減ってきてませんか?」
…本当だ、明らかに先程までとは数が減っている。
…ん?じゃあ破裂音って…まさか…。
「…やばい!チョウチョ、ブレーキブレーキ!!」
「え?」
その直後、車体下部から強烈な破裂音が響き、錆び付いた車輪が悲鳴をあげる。
…バスはそのまま、コントロールを失った。




