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新たな旅立ち?

 …体験するのはこれで二度目だが、この世界の合成酒の二日酔いは慣れない。

 …もしかして、俺が寝ている間に誰かが頭を真っ二つに割っていったんじゃないだろうか?


 ベッドの上で一人格闘する事三時間。

 震える足取りで部屋を出ると、キッチンのテーブルにチョウチョが突っ伏していた。


「…チョウチョ、お前もか…。」


「…ああ、ノブさん…。…おはよぅござぁます…。」


 コップに水を入れて飲み干し、俺もテーブルに突っ伏す。


 …そのまま一時間程時が経ち。

 何とか会話ができる程度に回復した俺達は、昨日の事を思い出していた。


「…正直、四杯目位から記憶があやふやなんだが…。」


「…私は二杯目から全く記憶がありません…。」


 やっぱチョウチョは酒弱いんだな。

 飲まなきゃ良いのに…とは言えないか、昨日の状況は。


「…あ、ベータってどうしたんだ?」


「…ノブさんが起きて来る少し前に、店長と一緒に店の方に行きましたよ?…多分昨日の話の続きじゃないですかね…?」


 ああ、銃の製作方法を教えてるのか。

 …なら別に俺が顔を出す必要も無いか。


「…ノブさん達は、いつ頃までアエオンに?」


「…ああ、今日一日はのんびり過ごすつもりだ。あんまり長居すると出発する気が失せるんで、明日の朝には出るかな。」


「…そうですか。」


 それからしばらく黙っていたチョウチョだったが、急に椅子から立ち上がると部屋を出て行ってしまった。

 …短い旅だったけど、チョウチョの奴も別れを惜しんでくれているのかな。


 …なんて俺がおセンチになると思ったか?

 チョウチョがどんな奴なのかなんて、俺はもうとっくに理解してる。

 

 おおかたベータや装甲バス、俺が貸し出してるバタフライと別れるのが嫌なんだろう。

 …残念な話だが、残念ながらチョウチョは残念な娘なんだ。


 しばらく経ってから店先に顔を出してみると、ヤスデじいちゃんやベータと一緒に見覚えのある濃い顔が作業をしていた。


「…クマジさん、なんでじいちゃんの店に?」


「おお、ノブ殿!おはようございます!実はアエオンでお世話になるにあたり職を探していたところ、ヤスデ殿にスカウトされましてね。」


「昨日の宴会でスカウトしたんだぜ!長年車の整備士やってたって話だし、例のトラックの修理を手伝わせようと思ってよ!」


 ああ、商談は終わってても、まだトラックの修理は終わってなかったのか。

 

「おはようございます、サイゴーさま。こちらは既に銃の製造方法のレクチャーは終了しております。」


 流石に朝から何時間も空いたからね。

 ベータならその間に用事も済ませちゃうよな。


「お前の許可が出れば、この銃を量産して売り出そうと思ってるんだけど、どうよ?」


「…別に良いんじゃないか?あ、でも悪人の手には絶対渡らないようにしてくれよな。」


「ああ、その辺はベータと相談して考えてあるんだ。まあ任せろ!」


 ヤスデじいちゃんが自信有り気にそう言うので、その辺は一任する事にした。

 俺は体調が万全じゃ無いので、今日は部屋で休ませてもらう事にした。

 幸いな事に、買い出しは昨日のウチに済ませてあるしね。

 ベータが心配してくれたけど、明日には出発するので、今日はその準備かヤスデじいちゃんの手伝いでもしてるように言っておいた。


 部屋に戻り、ベッドに横になる。


 …ここ数日でいろんな事があった。

 久々に米やラーメンも食ったし、行商団の連中とも知り合った。

 ベータに銃を作ってもらった。

 懸念していたステータスの低さも、打開策が見つかった。

 …悪人とはいえ、人を手にかけた。


 この世界に来てから不安な要素は沢山あったけど、今は大分安定してきたんじゃなかろうか。

 サイコキネシスを入手し、ベータと出会い、移動手段も今や装甲バスだし。

 

 感慨に浸りながら、寝る前にステータスチェックをする。


【西郷信人】

(人間戦車)

人間 25歳

生命力/12

力/8(7+補正1)

体力/7

知力/7

敏捷/6

運/7(6+補正1)


ESP/クレヤボヤンス

   サイコキネシス〈制限付き〉


〈西郷くんへ〉

名前の下に表示されているのは、西郷君がよく呼ばれている名前だよ。

今回の一件で、アエオンの人間達が呼び始めたらしいよ!

…正直ちょっとダサイよねwww

…それでは、楽しい終末をwww


 …カードの件で少し見直してきていたんだが…。

 …もういいや、寝よう。


 …ちなみに、部屋の隅ではずっとノミがゲームをしている。

 俺が起きてから、寝るまでず〜っと。

 …無言で。

 …でも、俺は寝る。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝。

 ベッドから起きた俺は、身支度を整えると部屋を出た。

 店にはじいちゃんやチョウチョ、ノミの姿も無かった。

 しばらくして、テーブルの上にベータが残したメモを見つける。


(出発の準備をするので、先に装甲バスまで行っています。お目覚めになりましたら出発になりますので、装甲バスの所までご足労願います。)


 メモを読んだ俺は店を出て、屋上駐車場にあるアエオンの入口に向かった。



「おう、起きたかノブ。」


 ヤスデじいちゃんとノミ、ダニ達自警団と行商団が俺を迎えてくれた。


「悪いな、俺が一番最後になっちまったか?」


「別にいいさ。ベータの方は準備終わってるぞ?ママも積み込んだしな。」


 じいちゃんに言われて思い出した。

 準備って何してんだ?とか思ってたけど、教会のソルティ『ママ』を積み込んでたんだな。


「そうか…あれ?チョウチョはどうしたんだ?」


「アイツはベータと一緒に装甲バスの所に居るぞ。」


 …ベータや装甲バスとの別れを惜しんでるのか。


「俺達はここで失礼するよ。新しい難民も来たばかりだ、自警団が大人数でアエオンの外に出ちまうのはマズいからな。」


 そう言うダニに、少し青い顔で頷く自警団の連中。

 …もしかしてお前等か?俺の事を人間戦車呼ばわりしてるのは。


「…ああ、わかった。また世話になったな。それじゃあ行って来るわ。」


「ノブさん、我々も今日中には出発します。例の件でまたお会いしましょう。」


「ウルテさん、タンさん、ミノさん。宜しくお願いします。お元気で。」


「…ノブ、…頼んだぞ。」


 ヤスデじいちゃんの言葉に、振り返って答えた。


「大丈夫!必ずママは直して戻って来るよ!」



 装甲バスまで歩いて来ると、今度はベータがバスの乗り口で迎えてくれた。


「おはようございます、サイゴーさま。出発の準備は全て整っています。」


「そうか。よし、行くか!」


 …なんか忘れてるような…。

 …あれ?そう言えばチョウチョはどうした?


 そう思いながら辺りを見回していると、バスの扉がプシューっと音を立てて開いた。


「…何やってるんですかノブさん?早く乗って下さいよぉ。」


 …チョウチョが、運転席に座っている…。

 

「…え?…もしかして、お前も一緒に行く気なのか?」


「…え?そりゃあ行きますけど。」


「いやいやいや、可笑しいだろ。なんでお前も行くんだよ。」


「ノブさんはバスの運転したくないんですよね?私はベータちゃんやバタフライ、このバスとも離れたく無いですし。何も可笑しく無いですよ?」


「え…あ、お前、店の方はどうすんだよ?」


「ちゃんとクマジさんを店長に紹介しましたけど?」


 あ…お前!アレお前が引き合わせたのか!!

 …この女、やる事やってから飲み潰れてやがったのか…!


「店長にも長期休暇のお話はしてきました。むしろハードタンク本社で技術を盗んで来いって言われましたし。…ノブさん、乗らないなら置いて行っちゃいますよ?」


「俺のバスだっつーの!…ハァ…、分かったよ。もう勝手にしてくれ。」


 …なんか色々と面倒になってしまった。

 …まあ良いか。

 ハードタンク本社までの道中、運転でこき使ってやるさ。


 俺とベータが乗り込むと、再びプシューっと音を立てて扉が閉まり、走り始める。

 向かう先はハードタンク本社。

 まだ眠気の残った俺は、バスの座席で目を擦りながら、小さくなっていくアエオンの町を見つめていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「…行っちまったな。」


「ああ。あいつがいると騒がしくて飽きねえな。…なんか最後、俺の言いたい事は伝わらなかったカンジだったけど。」


「…そういやぁじいさん、気付いてたか?サイゴーの奴、帰ってきてからずっと『じいちゃん』なんて呼んでたぜ?」


「…俺は別に嫌じゃぁ無ぇがな。ノブもチョウチョも、俺からすりゃあ孫みたいなモンよ。」


「…思い出しちまった…。まさかチョウチョが一緒に行っちまうとはなぁ。…ここだけの話、少し気があったんだが…。」


「…そんなだからダメなんだよ、お前は。チョウチョは別にノブにゃあ興味無いだろ。アイツの周りに集まってくる機械にだな…。」


「…おじいちゃんも、お姉ちゃんのその辺は理解して無いんだね…。」


「…?どういう事だノミ?」


「チョウチョお姉ちゃんがいくら機械マニアだからって、なんとも思ってない男とは旅には出ないんじゃない?」


『…。』


「…おいタガメ、お前の原付貸せ。」


「…やめようぜ、ヤスデじいさん…。」

書き忘れてたの思い出したんで修正しました。(最後の会話のくだりです。)


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