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なづけてなづけて2

 足りない分の食料やらを買い足していたら、あっという間に夕方になっていた。

 行商団からウルテ、タン、ミノがアエオンに同行することになったらしい。


 当初俺はアエオンには戻らないつもりだったが、ベータによるとハードタンク本社はアエオンの方角らしく、同行するならカブごと行商団のトラックに乗せてくれると言うので、俺も同行させてもらうことにした。


 アエオン行きのトラックは2台。

 1台はウルテとタンが、もう1台はミノが運転し、俺達は荷台に乗り込んだ。

 出発がこの時間だと夜とか大丈夫なのかと聞いたら、ライトも点くしトラックのスピードなら怪物は追いつけないから平気らしい。


 エキの村の入り口で手続きをしていると、クニサダに声をかけられた。


「たしか…サイゴーだったか?もう出発するのか。」


「ああ、世話になったな。…そういえば、泉の件はどうなった?」


「…その件なんだが、少しいいか?」


 クニサダが声をひそめるようにして話す。


「お前と話した翌日、村の者数名を泉に向かわせた。泉には確かに埋められて首の無い死体があったよ…四つな。」


「…四つ!?」


 略奪者は五人いたはずだ。

 一つ足りない!?


「…マズいことになるかもしれんな。生き残りがアジトにたどり着いていたら、ファミリーの奴らの事だ、報復に村や町を襲撃するかもしれない…。」


 …完全に俺の弱腰が招いた結果だ…。

 …もし、本当にアエオンやエキが襲撃されたら…。


「…まあ、生き残った奴も手傷は負っているハズだ。アジトに辿り着く前に怪物に食われてる可能性だってある。…だが、用心にこした事はない。アエオンに行くなら代表者に伝えておいてくれ。」


「…分かった。」


 確かに、怪我をしたまま一人で帰り着ける程、この世界は甘く無い。

 …だが、楽観視もできない。


 心に不安を残したまま、俺達はエキの村を立った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「う〜ん、やっぱりシンプルにチョウチョスペシャルでしょうかねぇ?」


 流石はチョウチョ、空気が読めない女だ。

 と言うかまだそんな事悩んでたのか?


「…普通にマシンガンじゃダメなのか?」


「…ノブさんはロマンってのが分かってないです!この銃は今現在この世に一つしか無い、まごう事無き専用装備なんですよ!?専用装備なのに名前が無いなんて、そんなの有り得ません!!」


 何のこだわりなんだよソレは…。

 別に武器の名前なんか、俺はどうでも良いんだが。


「サイゴーさまは、ショットガンに命名なさらないのですか?」


「…ベータまで毒されたのか?いいだろ別に、名前なんて。」


「そんなことはございません。私はヒューマノイドですが、ベータという名前をいただいた時、確かに喜びの感情を感じました。」


 そんなもんか?

 …そこまで言われたらしょうがないか…。


「ん〜、…じゃあベータショットで。」


「…ノブさん、本当に命名苦手なんですね…。」


「チョウチョさま、そんな事はございません!!私の名前を冠していただけるとは…至福の極みでございます!!」


 …良いじゃんね?ベータショット。

 まあ俺が呼ぶ事はそうそう無いだろうがな。


 そんなやり取りを運転席で聞いていたのか、ミノが口を挟んできた。


「チョウチョさん、その銃に名前をつけるなら、『バタフライ』とかいかがですか?」


「バタフライ?…どういった意味なんですか?」


 …マジかこいつ、自分の名前の意味も知らんのか…?

 ミノも同じ事を思ったようだ。


「え、えっと…チョウチョを異国の言葉で『バタフライ』と言うらしいんですが…、ご存知ありませんでしたか?…あれ?チョウチョさんの名前って、あの空飛ぶ虫のチョウチョですよね?」


「えぇ!?私の名前って虫の名前なんですか!?何ですかソレ!?全然知りませんでしたよ!?」


 本当に知らなかったのか!

 この様子だと、他のアエオンの町の連中も知らないのか?


「えっと、あの、チョウチョというのはヒラヒラと優雅に空を飛ぶ、大変模様の美しい虫だと聞いています。昔はコレクターもいたらしいですよ?」


 ミノがフォローしているが…、あの取り乱し様では…。


「そうなんですか?じゃあ気に入りました!この子の名前は『バタフライ』にします!」


 …。

 …切り替えの早い女だ…。

 …いや、今回のは『美しい虫』ってのが効いてるな?

 なんか段々コイツの思考が分かるようになってきてしまった…。


「…そういえば、チョウチョはアエオン出身じゃ無いんだよな?なんで他の奴らと同じで虫の名前なんだ?」


「…今、さらっと衝撃的な事を言いました?…何ですか?アエオンの人達ってみんな虫の名前なんですか?」


「そうだぞ?ヤスデもダニもノミも、みんな虫の名前だ。」


「…うわ〜…。」


 おお、引いてる引いてる。


「…そういえばノブさんにはまだ言ってませんでしたっけ?私のおばあちゃんは、ウチの店長の妹なんですよ。おばあちゃんは別の村に嫁いで、私のおかあさんを産んだんです。」


「…ヤスデじいさんの妹…。」


「…あ、なんとなく考えてる事分かりました。お察しの通り、同じ喋り方です。」


 …チャラいなぁ〜、バアちゃん。

 

「そういえば、ノブさんは滞在が短かったから気がつかなかったでしょが…、アエオンのお年寄りって、みんな喋り方が店長みたいなんですよ?理由は分かりませんが…。」


 そっちの方が衝撃的だわ!!

 チャラい喋り方の老人達…。

 何じゃソレ、おじいちゃんっ子だった俺でもあんまり会いたく無い。


 俺達を乗せたトラックは、件の泉に差し掛かっていた。

 この時の俺は、怪物達はトラックに追いつけないという話を聞いて、若干気を抜いてしまっていた。

 

「!!ノブ殿!辺りの様子が、何か変です!!」


 運転席のミノが叫んだ次の瞬間、破れたホロの隙間から強烈な光が差し込んだ。


『そこのトラック共!死にたくなきゃあ止まりやがれ!!』


 誰かの声が聞こえたのを合図に、トラックの周りから幾つものエンジン音が聞こえてくる。


「…ああ…、ノブ殿、すいません!…囲まれました。」


 震える声で、絞り出すようにミノがそう言った。

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