行商団
駅ビルを出て、例のバリケード内を少し歩く。
しばらくすると、白いテントとホロをかぶったトラックが数台見えてきた。
「あれが行商団か。…何だろう、失礼を承知で言うんだが、意外に小規模なんだな。」
「今回は荷も少ないですし、我々は本隊ではありませんから。カシラの率いる本隊は、今頃海沿いに旅をしているハズです。」
カシラってのが行商団のボスか?
…それにしても、海か。
今まで出会った怪物は、言ってもまだ戦えるサイズだったけど…海とかヤバいんじゃないか?
クジラとかサメとかの怪物が出てきたら、まともに相手できる自信が無いんだが…。
ミノがテントに近づき、その場にいた行商人と話すと、俺達はテント内へと招かれた。
入るとすぐに、朝出会ったウルテが声をかけてくる。
「これはこれは、ノブさん。行商団のテントに何かご用がおありですかな?」
「ウルテさん、先程はどうも。少し入り用な物がありまして、ミノさんに聞いたらこちらで扱っているとの事だったので。」
「そうでしたか。…ミノ、しっかりご案内しなさい。」
ミノが返事をすると、ウルテさんはテントから出て行ってしまった。
「それで…ノブさん、まずはガソリンがご入り用でしたね?ノブさんのカブに満タンのガソリンとなると…ウチでは7ナットになりますが、よろしいですか?」
「ああ、それでお願いします。…それにしても、このご時世でガソリンなんてどうやって手に入れるんだ?あ、もちろん答えられない話ならかまわないんだけど。」
「ご存知無いですか?海には体内でガソリンに似た液体を生成する怪物がいるんですよ。そいつらを狩って、少し手を加えて販売しているんです。」
何その怪物、知らないで出会って銃とか使ってたら大爆発しちゃうんじゃないの?
…やっぱり海怖い。
「ノブさん、あとは火薬と金属部品と言ってましたよね?何をするつもりなんですか?」
チョウチョが当然の疑問を投げかけてきた。
そういえば話して無かったか。
「ベータに武器を作ってもらうんだよ。アプリを使って作れるんだそうだ。」
「武器ですか?火薬を使うということは、爆発物でしょうか?」
ミノの疑問にベータが答える。
「いいえ、今回サイゴーさまにオーダーされたのは、連射、又は範囲攻撃が可能な銃器と弾薬です。」
ベータの返答にミノが、…いや。
テント内にいた行商人達が、一斉にこちらを向いた。
「…ソルティというのは、そんなことまで出来るんですか?過去の遺物を修理して使うとかでは無く、一から銃を製作すると?」
「設計図のデータは一通りございますので。もちろん有り合わせの物で製作しますので、耐久性や命中精度はそれなりのモノになりますが。」
ベータの言葉にミノが興奮して俺に詰め寄って来る。
「ノブさん、いや、ノブ殿っ!お願いがあります!」
「な…なんだよ突然、顔が近いっ!!」
ちょ!年頃の女性が男相手に、はしたない事しちゃダメでしょ!
…ましてや相手は童貞ですよ!
「ベータにお願いして、銃や弾薬の設計図を融通してもらえないだろうか!?もちろん相応のナットは払わせてもらう!」
…どっかで聞いたようなセリフを…。
ミノって興奮すると、すぐコレな人なのか…?
…あれ?銃ってこの世界じゃあコストが高いとかで、需要が少ないんじゃなかったっけ?
まあ、それは一旦置いとくとして…。
「ベータ、それって出来るのか?」
「紙と書くものがあれば幾らでも。この世界ではもう何処から文句を言われることも無いでしょうしね。」
ワッ!!と歓声に包まれるテント内。
辺りの行商人達は肩を抱き合って喜んでいるみたいだ。
…あっれ〜?
「ちょいと、チョウチョさん。…話が違うんじゃないかい?」
「いやいやいや!前に話したのは事実ですよ!?まさかベータちゃんが弾薬まで作れるとか知りませんでしたし!」
改めて話を聞いてみると、どうもこういう話らしい。
今の世界じゃあ銃の修理は出来ても、新たに弾薬を作る技術が無かった。
外国じゃあ分からないが、ここは元・日本。
元々国内では流通の少なかった物だし、仕方が無い話なんだろう。
過去に何人か弾薬の製作を試みた人もいたらしいが、精度に問題があったらしく暴発。
貴重な銃は壊れ、試し撃ちした人もそれなりの怪我を負い…。
そんなこんなで弾薬製作は業界内ではタブーとなったそうな。
「そういう事でしたら、弾薬製作に必要になりそうな機材の設計図もお譲りしますよ。」
ベータの提案にミノが満面の笑みを浮かべて答える。
「おお!それは有り難い!…これで行商団に銃器を配備できるし、行商先の村や町にも卸すことが出来るようになります。きっと怪物の被害も減らせるハズです!」
やっぱ銃とか無いと接近戦メインになるもんなぁ。
行商団も命がけだったんだろう。
行商人の一人から紙束とボールペンを渡されたベータは、凄い勢いで設計図を量産し始めた。
なんて言うか、3Dプリンターが立体物を作ってる時みたいな、正確な動きだ。
「…とりあえず、仕組みが単純な銃器を五つと、共通で使用できる弾薬の設計図、それと製作機材の設計図です。不明点があれば私にお尋ね下さい。」
そう言って書き上げた紙束をミノに手渡すベータ。
その紙束を、両手で受け取り胸に抱きしめるミノ。
「…確かに受け取りました。必ず作ってみせます!…そうだ、礼金をお渡しします、少しお待ち下さい。」
そう言ってミノはテントから出て行く。
俺達は用意された椅子に座り、食堂でも飲んだお茶みたいな飲み物を飲んで待つ。
「…ベータちゃん、後で私にも武器の設計図くれませんか?…私も自分で作ってみたいんで。」
「サイゴーさまがよろしいのでしたら、私は構いませんよ?」
…少し考えた後、何を思ったかチョウチョは俺に顔を近づけて、ジッと瞳を見つめてくる。
「なっ…チョウチョ!?」
「ノブさん、私にも、設計図下さい。」
あ…この女。
さっきの俺とミノのやり取りを見て、変な事学びやがったな。
「…わかったから、離れなさい!俺が恥ずかしいから!!」
「やった!私でもやってみるモンですね!」
ちくしょう…チョウチョなんかにしてやられたのが悔しい…。
残念女子なのに…、女子力低子なのに…。
…まあ言ってる俺は童貞野郎なんだけどな…。
そんなアホなやり取りをしていると、テントの入り口からミノが入って来た。
後ろにはウルテと、見知らぬオッサンを連れている。
「ノブさん、銃器と弾薬の設計図を譲ってくれたとは本当ですか!?」
「ああはい、ベータ…ウチのソルティが出来るって言うんで、やってもらいました。」
興奮気味のウルテの後ろから、オッサンが話に入ってくる。
「うむ…、ヒューマノイドとはそんな事まで出来たのか。今後の探索時には重点的に探さなければな。…申し遅れた、私はこの第三行商団を率いている、団長のハチノスだ。ノブ殿、今後ともお見知り置きを。」
おっさんは団長でした。




