エキの村
日も傾いてきた頃、俺達はやっと隣村に到着した。
外見は倒壊したビルのようだ。
廃車になった車や瓦礫を積み上げて作られたバリケード沿いにカブを走らせ、門番が立つ村の入り口らしきところに着く。
「…こんな時間に、村に何の用だ?」
【クニサダ】
人間 31歳
生命力/21
力/18
体力/18
知力/19
敏捷/6
運/7
(遺伝子異常有り)
「隣町のアエオンから買出しに来ました。ヤスデ修理店の者です。」
「アエオンのヤスデ…ああ、腕の立つじいさんが店主の。…そっちのは?」
「旅をして回っている西郷だ。こっちのはソルティ。」
「お初にお目にかかります。ヒューマノイドのソルティと申します。」
「…こいつぁ驚いた。こんな美品のロボット始めて見たぞ。こいつは売り物か?」
「いや…、今のところは売るつもりは無いですけど…。」
「そうなのか?こんな掘り出し物なら好事家が大金を出すだろうに。」
…ソルティさん、貴方お高いそうですわよ?
そっとソルティに目線をやると…。
「…サイゴーさま、今までお世話になりました。どうかお体にお気をつけて…。」
「ウソウソ!冗談だよソルティ!」
「…これはこれは!サイゴーさまもお人が悪い!私すっかり騙されてしまいました!」
…ちょっとだけ心が揺れたのは、内緒にしとこう。
「…とりあえず、今日はもう時間も遅い。宿をとって、用事は明日済ませたらどうだ?」
「ええ、そうさせてもらいます。」
「あ、そうだった!ここに来る途中の泉で、略奪者に襲われたんですよ。返り討ちにしてやったんですけど、人数が多かったんで動けない様にして放置してきたんですが…。」
「あの泉か…!最近あそこは白場庭ファミリーの被害が多数報告されているんだ。そういうことなら明日の朝にでも人を派遣しよう。」
明日の朝か…。
…多分死んでるだろうな…。
案内されて建物の中へ入ってみると、見覚えのあるものが視界に入る。
あれって…、切符の券売機か?
ああ、そうか!なんか見た事があるような気がしたんだ!
この村、駅ビルだ!
案内されるままについて行く道すがら、古びた路線図を横切り、改札を通り過ぎた。
そうして到着したのは、朽ち果てた列車が並ぶ場所だった。
「コマガタの奥さん、客を連れて来たぞ。」
「おや、クニサダ。…ああ、いらっしゃいませ。お二人と…こりゃまた珍しいお客さんだわ。」
【コマガタ】
人間 45歳
生命力/15
力/6
体力/13
知力/15
敏捷/10
運/10
(遺伝子異常有り)
列車の先頭車両から顔を出したのは、この世界では割と恰幅の良い部類の女性だった。
よっぽどだったのか、物珍しそうにソルティを見つめている。
「お初にお目にかかります。ヒューマノイドのソルティと申します。」
「とりあえず明日の朝まで一泊お願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「部屋は空いてるから大丈夫だよ。ロボットはどちらかと一緒で、二部屋でいいかい?」
「ああ、俺と同室で良いです。」
「なら、4号車と5号車を使いな。バイクは盗まれないように、中に入れちまって良いからね。それと、食事がまだなら食堂で簡単な物は用意できるからね。」
案内してくれたクニサダという門番にお礼を言って、部屋に向かう。
ぼろっちいが、一車両丸々が個室とは。
なんとも贅沢な感じだ。
荷物だけ部屋に置いて、みんなで食堂へ行ってみることにした。
食堂車でもあるのかと思ったが、行ってみると車両外にテーブルと椅子が数個並べてあるだけだった。
席について少し待つと、さっきの女性が料理を運んでくる。
!!
米だ!て言うかおにぎりだ!
こっちの世界に来て初めて見た…!
「これはこの村の名物で、『エキベン』と呼ばれてる食べ物だよ。こいつがなかなか評判で、名も無い村が『エキの村』なんて呼ばれてるからね。味は保証するから食べてごらん。」
無言でかぶりつく俺。
…おお!ちゃんと米の味がする!!
少しばかりパサっとしてるか?でも間違いなく米だ!
中の具は塩で焼いた魚みたいな物と、野菜の塩漬けみたいな物だ。
ほー、いいじゃないか。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
最初は見慣れない食べ物に警戒していたチョウチョだったが、俺が夢中で食べている姿を見て警戒を解いたのか、一口かぶりつく。
「あ…美味しい!なんだかホッとする味ですね。塩味の効いた具との相性も良いです。」
「やっぱ米は日本人の心だよなぁ。DNAに刻み込まれてるんだろうな。」
俺の言葉に『こいつ何言ってんの?』みたいな顔をするチョウチョ。
…そうかい、別にいいんだ。
元から米の無い環境で育った人間には、米のありがたみは分からんのさ!
だからありがたみを噛み締めながら食べるもんね!
「お兄さん、米を知ってるんだねぇ。ここらじゃあんまり出回ってないハズなんだけど。」
「ああ…、昔俺が住んでた所でも主食が米だったもんでね。懐かしくてついがっついちゃったよ。」
「ふ〜ん…。米が主食とは、随分と裕福なところで育ったんだねぇ。」
あ、やっぱこっちの世界じゃ貴重品なのかな?
また変な事言っちゃったかもしれん。
でも久しぶりの米、美味かったなぁ…。
しばらくこの村を拠点にしても良いかもな。
俺達はしばらく雑談を交わした後、明日の予定を決めて部屋に帰った。




