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泉ピンチ

 ダニと別れた後、俺とチョウチョ、ソルティの三人(?)は、またまた谷まで戻って来た。


 思えばここ数日は、鉄塔と谷を行き来するだけの毎日だったなぁ…。

 しかし、それも今日で終わりだ。

 …なんかフラグっぽくなっちゃったけど、もうしばらくはこの谷に来ることもないだろう。

 

 隣村までは谷を迂回して行くのかと思っていたが、一度下まで下りて逆側の崖にある坂を上ったほうが早いとチョウチョに教えてもらったので、谷底まで下りて来た。


「ここが件の谷底ですか…、話には聞いていましたが文明の残骸がかなり残っているんですね…。」


「あれ?チョウチョは谷に来るの初めてなのか?」


「実はそうなんです。アエオンに難民として来てからは、こんなに街から離れるのも初めてですね。」


「それはそれは。チョウチョさま、ここは私が長年眠っていた、第二の故郷のような場所です。少々散らかっていてお恥ずかしいのですが、私が観光案内いたしましょうか?」


 …ソルティはたまにこういう事を言う。

 おそらくジョーク系アプリが悪さをしているんだと思うが…。


「…あ、ありがとうソルティ。でも眠ってたのならあまりこの場所には詳しく無いんじゃないの?」


「…ぶっちゃけて話しますと、世界がこのようになる前の地図データや観光案内データがサーバにありますので、何も知らなくてもご案内できます。」


「…お前はなんでもアリだなぁ…。」


 せっかくなので、しばらくソルティに案内させてみる事にした。

 俺も終末以前のここがどんな場所だったのか気になったのもあるんだが。


「この辺りは大手企業のオフィスが集まった、あまり観光には向かない場所でした。」


「…何で観光案内するとか言い出したの…?」


「あ、あそこにあった洋食店のオムライスが絶品だったそうです。残念ながら、170年ほど前に潰れてしまいましたが。」


「…今は物理的にも潰れてるしな。」


「そうだ、私の住んでいた部屋をご案内しましょうか?きっと兄弟たちも喜んで迎えてくれますよ。」


「お前以外起動してないし、ほとんど箱ごと潰れてただろ!」


「…お二人とも、もしかしてジョークはお嫌いですか?」


『…。』


 こいつ…チョウチョが合流してからこんな感じなんだよなぁ。

 まさかどこか壊れたのか?

 …まぁ見た目は新品だけど、古いロボットみたいだしなぁ…。


「…ソルティさん、もしかして何処か具合でも悪いんですか?」


「これは要らぬ心配をおかけしました。私は二人以上の人間がいる時に、会話が潤滑に進むよう、たわいもないジョークを言うようプログラムされています。」


「何だそのプログラムは…。プログラマーをどつきたい…。」


 つーか、プログラマー、ジョークのセンスが…。


「さて、名残惜しいですがそろそろ出口に到着します。お忘れ物はございませんか?」


「無ぇよ!」


「あ…ちょっとそこの店覗いて来ても良いですか?」


「有ったよ!何だよもう!」


 チョウチョは出口近くにあったカーディーラー跡に寄りたいらしい。

 一応千里眼で安全確認をしてやって、チョウチョとソルティは店の中へ。

 俺は暇だったので、外で荷物の整理をしていた。


 …そして一時間ほど経ち…。


「流石に車はありませんでしたけど、結構な数のパーツとナットがありました!」


 ホクホク顔でチョウチョは戻って来た。

 …そうか、ナット稼ごうと思ってたのに、すっかり忘れてた…。

 次の村で金が無くって野宿とかになったら嫌だったので、チョウチョを連れて更に30分ほど探索を延長し、俺は念願の金になりそうな物と幾らかのナットを手に入れることができた。


「カーディーラー跡に丁度良いレンチがあって助かったなぁ。これからはマイレンチとして旅に同行してもらおう。」


 これから金を産むレンチである。

 …チョウチョも何が良い金になるか詳しいので、ある意味金になる女か。

 …俺はヒモ野郎か。


「谷を出て少し進むと、小さなオアシスが有るらしいんです。そこで休憩にしましょう。」


「そうだなぁ、腹も減ったしな。」


 そうと決まればと、俺たちは上り坂を急ぎ、遂に谷の逆側へと出た。

 さらばだ谷!


 しばらくカブを走らせると、ちらほらと景色に緑色が増えてきた。

 こんなに草や木が生えているのを見るのは、こっちに来て初だ。

 

「あ!見えてきましたよ!」


「おお、あれが…。」


 ひときわ緑が濃い場所の中心に、キレイな泉が湧いていた。

 水が恐ろしく澄んでいて底が見えるのだが、泉の形はすり鉢状になっている様だ。

 …これ、クレーターか?

 おそらくだが、爆発があった場所から水が湧き出たのか?

 …なんか皮肉な感じだなぁ。


 丁度手持ちの水が無くなりかけていたので、泉の水を空になったペットボトルに補充している間に、ソルティは飯の準備を、チョウチョはカブの整備やら戦利品の整理やらをしていた。



 ソルティが用意した二人分の昼食(辛口のタコスっぽいものだった)を平らげ、少し食休みをいていた時。


 千里眼に反応有り。


 数は五人ほど、武器を持った人型。

 …泉の周辺にある緑地を突っ切って、こちらに向かって来るコースだった。

 二人にそのことを伝えると、急いで戦闘準備を済ませる。

 俺はカブを近くまで移動させ、残り少なくなった鉄球を数個、右手に握り込んだ。


 俺たちの前に現れたのは、まさに終末世界の申し子と言わんばかりの奴らだった。


「ヒャッハ〜!!俺たちは白場庭ファミリーの武装兵団だぁ!!命が惜しかったら荷物を全部置いていきな!…もちろんソッチの姉ちゃんも置いていってもらうがなぁ!!」


 …ヒャッハ〜って言っちゃったよコイツ。


 すげぇ…五人中三人もモヒカンがいるよ…。

 コイツら絶対、あのマンガの影響受けてるよなぁ…。

 この時代まで残ってたのか、マンガ恐るべし。

 どんな時代でも、娯楽って強いよなぁ。


「…おいおい、コイツびびって声も出ないみたいだぜぇ?とんだチキン野郎だぜぇ!」


「チョウチョ、今から起こる事は内緒な。」


 俺の手の中から、鉄球が飛び出してモヒカンに飛んでいく。


 もちろんサイコキネシスだ。

 モヒカンの胸部プロテクターを粉々に粉砕し、その勢いで体が宙を舞った。

 俺が全力で使うと貫通しちゃうから、威力は弱めにしてみた。

 …それでも宙を舞う姿に、呆気にとられる俺以外の奴ら。


「な…!コイツ、どっかに銃隠し持ってるぞ!?」


「クソ野郎が!卑怯だぞ!!」


 そんなこと言ってる間に、もう一人が空を舞う。

 こっちは連射が厳しいんだ、待ってやる義務も無いし。


「やっ、野郎共、一斉にかかれ!」


「既にあなた一人ですが、この場合の野郎共とは誰を指す言葉なのでしょうか?」


 横に目をやると、話すソルティの周りで二人倒れていた。

 …ソルティさん、その両手がバチバチ言ってるのは、また何かのアプリでしょうか?

 手首から黒い棒状の物が延びてるけど、そうなるとなんかメ○ロットみたいね君。

 

「な…、こ、こんなハズじゃあ…。」


「ハイハイわろすわろす。」


 最後の一人が宙に舞った。

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