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隣村へ

「おはようございます。サイゴーさま、あと30分程で日の出の時刻です。」


 ソルティは時間通りに起こしてくれた。

 しかも朝食の準備も出来ていた。

 肉入りのスープと、携帯食料を使ったと思われる粥のようなものが段ボール箱の上で湯気をあげていた。


 手早く朝食を済ませると、身支度を整えて鉄塔へ出発する。

 地下からの脱出に多少手間取ったが、ソルティにウインチが内蔵されていたのが有難かった。


 そして驚いた事に、地上に出たソルティの奴、カブと並走しやがった。

 流石にフルスロットルならカブの方が早いみたいだが、ソルティは下半身のタイヤ一つで、一輪車のように上手にバランスをとって走っていた。

 そのおかげで、特にスピードを落とすこともなく、順調に鉄塔まで行くことができた。


 鉄塔周辺には、まだダニ達の姿は無い。

 そういえばダニに今日の分の獲物もやる約束をしていたのを思い出し、面倒くさいなぁと思いながらも近くをうろついていたネックレスを2匹仕留めておいた。

 …少しは用意しておかないと、ガソリンくれないかもしれないしな。


 狩りでもソルティが大活躍だった。


 俺は鉄柵の内側で待機。

 ソルティが獲物を引き付けて鉄塔まで誘導してくるので、俺がトドメを刺す。

 まるで接待のようだ。

 …俺はネトゲの姫か。


 三匹目でも狩ろうかと考えていると、聞き覚えのある排気音が近づいてくるのが聞こえた。

 もう見慣れたトラックは、俺を見つけると傍まで寄ってきて停車した。


「…お前って奴は、どうして会う度に変な状況になってるんだ…。」


「…?ああ、ソルティのことか。」


「始めまして。わたくしはハードタンク社製ヒューマノイド『ソルティ』です。」



「…こりゃあぶったまげる位の掘り出しモンだな。こんな新品みたいなロボット見た事が無ぇぞ。」


 まあ新品なんですけどね。

 なんて内心思ってたら…。


「…なんですかこの子は…!!」


 聞き覚えのある声に目をやると、トラックの助手席から意外な人が降りて来る。


「すごい…!動いてるソルティなんて初めて見ましたよ!!なんでこんな物が平然と稼動してるんですか!?」


 声の主はチョウチョだった。

 …すげぇ興奮してるな。

 やっぱ修理とかする技術者には、ソルティってとんでもない代物なのかしら。


「こいつは谷底で見つけたんだ。つーかなんでチョウチョがいるんだ?」


「ノブさんがまだこの辺りをウロウロしてたって聞いたので、何か面白いものでも見つけたかなぁと…思ったんですけど。流石に予想の斜め上を行きましたね…。」


「ああ、そういやサイゴーはアエオンに来た次の日には、あの地下駐車場を見つけたんだもんな。そう言われるとなんか納得しちまうなぁ。」


「納得しないで下さいよダニさん!これはある意味トラック何十台よりも凄い発見なんですから!…でもあの谷は店長があらかた探索しつくしたと聞いていたのですが…。」


「またしても地下室を見つけてな。ソルティはそこで見つけたんだ。」


「…谷底まで行けたって事は、お前が言ってた強敵は倒したんだな?」


「あ、そうだった!心配かけちゃったけど、なんとかなったよ。」


「そうか!無事で何よりだ!チョウチョの奴なんかお前の話をしたら顔が真っ青になっちまってなぁ…。」


「ちょ…!だ、だって心配じゃないですか!ノブさんって何かヒョロっとしてるし、怪物とも戦い慣れてないみたいでしたし…。」


 ダニだけじゃなくチョウチョも心配してくれてたのか。

 …俺って何気に、良い人に恵まれたなぁ。

 こんな世界だけど。


「そういえば、お前が倒した強敵ってのは一体どんな奴だったんだ?」


「え〜と、なんて言ったっけな…?なんか2cm位あるハエみたいな奴なんだけど…。」


『…。』


 え?なんで黙る二人とも?


「…強敵ってお前…黒鬼蠅なんか倒すのに何日もかかってたのか…。」


「…私、心配して損しました…。」


「ちょ!何その反応!!とんでもない強敵だったんだぞ!?小さい体で動きも素早いし…。」


「そりゃあ動きは速いが、黒鬼蠅くらいならウチのガキでも一人で狩れるぞ?」


「…やっぱり、ノブさんは一人で街の外に出ない方が良い気がします…。」


 な…!?サイコキネシスのPSI持ちを、子供が狩るだと…!?


「…この世界の子供って、強いんだな…。…ちなみに、サイコキネシスで飛ばしてくる石とかは、普通はどうやって対策するんだ?」


「?何言ってるんだお前?」


「?」


 その後、よく話を聞いてみたら、普通の黒鬼蠅?はサイコキネシスなんか使わないらしく、やはり俺が出会った個体が突然変異か何かでPSIを取得した、特殊な個体だったらしい。


「なんだ…マジで普通の黒鬼蠅と死闘を繰り広げてたのかと思っちまったぜ。」


「いやいや、逆にそんな珍しい個体だったなんてビックリだよ。俺はてっきりあんな化物がアッチこっちにいるんだとばかり…。」


「ノブさん、PSI持ちの個体を相手にして良く勝てましたね…。ご存知ないみたいですけど、PSIってかなり凶悪な能力なんですよ?普通はPSI持ちが生まれたら、その種族の長として君臨する位の優位個体なんですから。」


 …チョウチョさんが何気に衝撃的なことを言ったな…。


 PSI持ちってそんな扱いなの?

 じゃあ俺も王様?…王様だ〜れだ?俺!!


「ダニさま、チョウチョさま。サイゴーさまは少々混乱しているご様子ですので、先にご用件を済ませてしまいませんか?」


「おう、そうだったな。とりあえず携行缶にガソリン入れて持って来てやったぞ。こんだけあれば隣村までは持つだろ。」


 そう言って赤い携行缶を荷台から下ろすダニ。


「ああ、本当に助かったよ。…今日の分の獲物、ちょっと少ないけど遠慮なく持っていってくれ。」


 ダニがトラックにネックレスを積み込んでいる間に、カブにガソリンを移した。

 カラになった携行缶をダニに返そうとしていると、チョウチョに話しかけられる。


「ノブさん、この後は隣村に行かれるんですよね?お邪魔じゃなければ私も同行させていただいても良いですか?」


「?何か隣村に用事でもできたのか?帰りは送れるかわかんないぞ?」


「例のトラックの修理で、幾つか足りない部品が出てきまして。あ、帰りはアエオン行きの行商団に同行させてもらうつもりなんで、心配しないで下さい。」


 …そう言えば、ヤスデじいちゃんに行商団呼んで来いって言われてたんだっけ。


「…ノブさん…、行商団の件、すっかり忘れてましたね…?」


「…。よし!乗っけてってやるか!」


 こうして、隣村までの旅路は少々にぎやかなモノになるのだった。

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