サイゴーの晩餐
「…それじゃあソルティ、お前に何ができるのか説明してもらえるか?」
「回答します。対人コミュニケーションや家事全般、単純作業などは従来の仕様通り可能です。新たにダウンロードしたアプリケーションにより、所有者家族やその関係者を危険から守る護衛機能、ハードウェアの改造機能、怪我や病気の簡易治療機能、銃火器や弾薬の生産機能、戦闘と戦闘指南機能が新たに可能になりました。」
「…本当にチートだなぁ…。」
…もう全部ソルティ一人でいいんじゃないかな。
とりあえず凄い奴だってのは理解した。
…でもなぁ。
「ソルティってさ、喋り方がカタイっていうか…、もう少しなんとかならないか?」
「検索しています…。本社サーバに幾つかのアプリケーションが見つかりました。ダウンロードしますか?」
「え?は、はい。」
「ダウンロードしています…。新たにダウンロードしたパッチを同期します。新たにダウンロードしたアプリケーションより、『ヤングトーク2016』『ジョークBOX』をアクティブ状態で起動します…。」
また何かダウンロードしたよ…。
そのうち『zipでくれ』とか言ったりしてな…。
「…終わったッス。サイゴーちゃん、今後はこの喋り方が普通になるッスけど良いッスかね?」
「良くねーよ!いくらなんでも急に砕け過ぎだろ!…ヤスデじいちゃんかお前は!」
結局その後、手動でアプリケーションの最適化をしてくれとか言われて、その作業に小一時間かかってしまった…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハァ…、こんなもんでいいかなぁ。」
「お手数をおかけしてしまい申し訳ないです。」
「まあいいよ。…そういえばソルティは家事全般ができるって言ってたよな?料理もできるのか?」
「はい。あまり複雑なものは難しいですが、家庭料理の範疇だったらあらかた作れます。材料さえ手に入れば、味噌でも醤油でも再現してみせますよ。」
…味噌!醤油!!
よくある異世界転生モノだと再現が大変なアレか!
こいつぁ心強いぜ!
俺は終末の世界でも味噌汁が飲めるのか!
「…まあ材料は必要ですので、今すぐという訳にはいきませんが。とりあえず今有る材料で何かお作りしましょうか?」
「今有る材料でって…、たいしたモン無いぞ?」
俺のバックパックの中にある食料といえば、ネックレスの足が一本と何だかよく分からない固形食料が2〜3本、乾燥したトウモロコシが1袋、塩とよく分からない香辛料が少しずつ、あとは水くらいだ。
「…やってみましょう。少々お時間をいただきます。」
そう言って、ソルティは何やら作業を始めた。
俺が持ち手を曲げて盾にしてしまったフライパンを器用に使って何かを焼いているようだった。
途中から見るのに飽きてしまい、今日の分の日記とステータスチェックを済ませてしまった。
〈西郷くんへ〉
PSIを上手く使えているみたいだね。
それにしても西郷君はステータスが絶望的に低いね。
実は今救済処置を考えてます。
今後に期待しててね!
…それでは、楽しい終末を!
神様ヒントはこんな感じだった。
救済処置…?
…やっぱり俺のステータスは平均より低いのか…。
確かに、防具越しでサイコキネシスの直撃を受けて、生命力を半分削られたからな。
二発で死ねる。
…冷静になって考えると、急に恐ろしくなってきたぞ…。
そんなことを一人で考えていると、ソルティに声をかけられた。
「サイゴーさま、お食事の準備ができましたよ。」
呼ばれて振り返ると、細切り肉が薄い生地の様な物に包まれた料理が出来ていた。
…割と、良い香りだ。
「…なんか美味そうだな。いただきます。」
「お口にあえば良いのですが。」
早速手づかみで食べてみると、これがなかなかに美味だった。
焼きたての生地は噛み締めるとザクッと切れて、具材のカリッとした肉と相性抜群だった。
「…驚いたわ。美味いはコレ。」
「それは良かった。トウモロコシを使ってトルティーヤ風にしてみたのですが、何分材料不足だったもので。」
よくあんな材料で美味いもんが作れるもんだ。
ソルティがいれば食料事情はだいぶ改善されそうだ。
…まだ今後コイツをどうするかは考えてないんだけど。
食事を終えると少し眠気が襲って来たので、ソルティに日の出前に起こしてもらえるように頼んで横になった。
ちなみに、当たり前と言えばそうなのだが、ソルティは寝なくても大丈夫らしいので、俺が寝てる間は自由行動にしてもらった。
心地よい満腹感に包まれながら、俺はいつしか眠りに落ちていた。