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ピッチャーフライ

 かつて人の文明があった、残骸の谷底。

 そこが、彼女の新しい縄張りだった。

 

 いつ、どこで発生したのかは、彼女自身も覚えていない。

 ただ最初に気付いた事は、『どうも自分は他の個体と比べて、強力な力を持って生まれたらしい』という事だった。


 彼女が強く思うと、近くの石が、ガラクタが、相手を貫いた。

 …この力は、他のどの兄弟も持っていないものだった。


 成虫になり、あても無く地上を飛び回っている時にこの谷を見つけた。

 腐った動物の死体や糞が転がった環境が気に入り、住みついた。

 たまに彼女を食料とみなして襲ってくる身の程知らずがいたが、彼女の特別な力の前になす術も無かった。


 そうして、何度か暗いのと明るいのを繰り返した。


 その日も彼女は、最近新たに殺した動物の死骸で食事をしていた。

 この頃、動物の死骸により執着するようになってきたのは、彼女自身は知りはしないが産卵のための準備が始まったことを意味していた。

 

 そんな彼女の頭上から突然、何かが落ちてくる気配がした。

 咄嗟に空中へ飛び上がり、落ちてきた何かを避ける。


 …落ちてきたのは、自分の体の何十倍もある岩だった。

 巨大な岩は、先程まで自分が捕食していた動物の死骸を押し潰し、砕けた。


 …彼女の決して優秀ではない頭でも、これが自分を狙った攻撃だと理解できた。

 だが、自分が襲われたことよりも。

 静かな食事の時間を台無しにされた事が彼女の怒りに火をつけた。

 自分の平穏な生活を壊そうとする、見えない襲撃者に彼女は激怒した。

 

 すぐさま崖上の気配を伺うが、彼女の索敵範囲はあまり広く無い。

 迷う事無く頭上の崖へと飛び上がる。


 彼女は自分が優秀な個体であることを知っていたし、能力に絶対の自信を持っていた。

 敵の姿をこの目に収めた瞬間に、確実に貫ける自信が。


 崖上に飛び出した彼女が見たのは、意外な光景だった。

 

 自分が最初からそこに飛び出してくると分かっていたかのように、正確に振り下ろされた何か。


 あまりにも想定外の光景。

 あまりにもあっけない最後だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 …あまりにもあっけない戦いだった。

 正直、俺はこれで戦いが終わると思って無かった。


 当初の予定では、シャベルでの一撃が避けられた後が本番だった。


 奴が俺に向かってサイコキネシスを放ってきたら、この日の為にフライパンを犠牲にして作った盾で一撃を耐える。

 その後、距離をとられる前にシャベルの追撃で仕留める手筈だった。

 範囲攻撃や連射のきかない奴のPSIなら、なんとか一撃を耐えれば隙ができる。

 今まで奴を観察してきた俺なら、千里眼を上手く使えば攻撃の挙動も察知できる。

 

 …とまあ、準備を重ねに重ねて実戦に臨んだわけなんだが…。


 まさか本当に一撃とは。

 しかも小手調べのつもりだった最初の一発で。


 奴がこっちに向かって来るのは、千里眼で察知していた。

 ギリギリで透視に切り替え、崖越しに見えた奴が飛び出す瞬間にタイミングを合わせてぶっ叩いた。


 …それが、こうも上手くいってしまうとは…。


 なんか何日もかけて準備をした俺が、すごい腰抜けみたいに思えてきた…。

 …俺、すげー格好悪い?


 いやいや、奴は間違いなく強敵だった。

 サイコキネシスによる遠距離攻撃に、逆にこちらが攻撃を当てるのが難しい小さな体。

 正攻法で挑んでいたら勝ち目は薄かった。


 完全な作戦勝ちだ。

 変に調子にのって、『アレ、俺って結構強くね?』なんて考えたら、きっと次に死ぬのは俺になる…、そういう世界なんだ、ここは。


「…そうだ!ステータスチェック!」


 今回の目的を思い出した俺は、自分に千里眼をかけた。

 その結果…。


【西郷信人】

(ノブ)(おじさん)

人間 25歳

生命力/12

力/7

体力/6

知力/6

敏捷/5

運/5


PSI/クレヤボヤンス

   サイコキネシス〈制限付き〉


〈西郷くんへ〉

新しいPSIゲットおめでとう!

こんな早くに手に入れられたのはラッキーだったね!

あ、でも手に入れたPSIには使用制限がつくから気をつけてね!

…それでは、楽しい終末を!


 …よっしゃ!GET!!

 この為に何日も頑張ったんだ!


 …ん?〈制限付き〉?

 …神様ヒントにも…どういうことなの?


 とりあえず物は試しと、近くにあった大岩にスリングショット用の鉄球をぶつけてみることにした。


 いつものようにサイコリングに意識を向けて、今回は『サイコキネシス』と念じる。


 …あれ?何もおこらない…。


 あ、そうか。

 クレヤボヤンスの時もそうだったけど、サイコキネシスと一言で言っても物を動かしたり、空中に浮かせたりと色々できるハズだ。

 俺は改めて鉄球を撃ち出すイメージで『念動力』と念じてみる。


 その瞬間、手の上に置かれた鉄球がものすごい勢いで弾き出され、大岩に激突した。

 あっけにとられながら、恐る恐る見に行ってみると、なんと大岩には穴だけが残されていた。


 …貫通しとるやんけ…。

 

 あまりの威力に唖然としてしまった。

 これは、不安だった攻撃面での大きな増強ができたのではないか。

 はやる気持ちをおさえ、サイコキネシスで他にどんなことができるのか検証は続く。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 …他に何もできませんでした。

 

 …いや〜、〈制限付き〉とか書いてあるから嫌な予感はしてたんだよなぁ〜。

 あの後、物を浮かせられないかとか、俺自身が空を飛べないかとか色々試したんだけど、どれも失敗に終わった。


 これはあくまで仮説なのだが、PSIを手に入れる際の『きっかけ』が重要なのかもしれない。


 例えば今回、サイコキネシスで『物体を弾丸のように飛ばす』攻撃を受けてきっかけを得た俺は、ハエを倒しても『物体を弾丸のように飛ばす』能力しか得られない。みたいな?


 確かに強力なPSIを手に入れたけれど、なんかいっぱい期待しちゃってたから正直ガッカリだわ…。

 …いあy、十分に強力なPSIなんだけどさ…。

 

 意気消沈してしまった俺は、カブに跨がり谷底へ向かう坂道を下った。

 もちろん、念のため千里眼をかけた後に。

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