蟲毒の観測者
あれから4日が経った。
俺は未だ鉄塔で寝泊まりをしている。
生命力は全快した。
…しかも最大値が若干上がっていた。
これはアレか?ダメージ→回復を繰り返すと最大値が上がるシステムなのだろうか?
ステータスの上昇条件が未だによく理解できん。
朝起きると金網の周りに集まった怪物をチクチク倒し、いくらか肉をいただいて、余った分は埋めて処理する。
俺がいない間に変なのが集まって来ちゃうと、帰って来てから困るからね。
それが終わると谷近くまで移動し、夕方まで奴の観察をする。
【黒鬼蠅】
虫 4週間
生命力/2
力/2
体力/3
知力/2
敏捷/15
運/10
PSI/サイコキネシス
全体的にステータスは低い。
それでも、その低さを補える程に強力なPSIだった。
自分でも観察を続けることに本当に意味が有るのかと少し不安になってきていたが、得るものはあった。
奴のPSI、サイコキネシスを使う所を目撃したのだ。
3日目の夕方近く、谷へ三匹の怪物が流れて来た。
姿形はコウモリによく似ていたが、ゆらゆら揺れる大きな頭が特徴的だった。
【ボブルヘッドバット】
動物 1歳
生命力/3
力/3
体力/5
知力/3
敏捷/17
運/4
そいつらは谷へ降りてくると、低空飛行しながら空中の小虫を直接口で捕らえて食べていた。
無論この三匹は、例のハエに迎撃されてその命を落とすのだが…。
その際に、俺は見た。
奴は小石をサイコキネシスで撃ち出し、一匹ずつ確実に仕留めていった。
そう、一匹ずつだ。
奴のサイコキネシスは、一度に複数の物体に使用できないのではないか?
できるのなら、最初からまとめて三つの小石を撃ち出すとか、散弾銃のように小石の雨を降らせる方が簡単に終わったはずだ。
まして、今回の敵は素早かった。
奴も三匹を相手では、決して楽な戦いじゃ無かっただろう。
その事実が、この仮説を後押しした。
対抗策は見えた。
そして…実はそろそろガソリンが心配だった。
カブってそもそも、満タンでどれくらい走れるんだ?
ということで、本日中には決着をつけようと、さっさと起きて集まった怪物を狩っていた。
最後の一匹にとどめを刺し、死体を回収しようとしていた時、遠くからこちらへ向かってくる車の音が聞こえた。
すぐさま千里眼を使用して確認すると、見覚えのあるトラックが一台、こちらに向かって一直線にやって来る。
トラックは鉄塔の前で止まり、何事かと見ていた俺に知った顔が声をかけてきた。
「…やっぱり、サイゴーじゃねえか。お前まだこんな所にいたのか?」
トラックの窓から顔を出したのは、アエオンの自警団、ダニだった。
ダニ達は狩りと、修理が終わったトラックの試運転を兼ねて鉄塔に来たらしい。
「それにしてもお前が出発して…3、4日経ったか?なんでまだこんなとこに?」
「…実は谷で強敵と遭遇してな。ちょっと訳ありで、これから一戦交えてくるところなんだ。」
「谷って…この先の谷か?あそこにそんな凶悪な怪物が?」
「ああ…、俺が行って倒せなかったら、しばらく近寄らない方が良いかもしれん。あ、でも防備を固めて大人数で攻めれば案外楽勝かも。」
「そんなにヤバい奴なのか?…場合によっては俺らも同行するか?」
「あ〜…、気持ちは嬉しいんだけど、訳ありなもんで…。」
今回の敵は俺が倒さなければならない。
そうしないとPSIが手に入らないかもしれないし。
ダニ達は納得していなかったが、なんとか一人で行くことを了承してもらった。
「あ、そうだ。ダニ達は狩りに来たって言ってたよな?丁度さっき集まってたのを狩ったとこだったんで、良かったら引き取ってくれないか?」
「良いのか?ありがたいが、結構数があるぞ?」
「どうせカブじゃ運びきれないから。そのかわりと言っては何だけど、ガソリンを少しだけ分けてもらえないか?」
「…お前、知らないのか?トラックの燃料は『ケーユ』だぞ。」
あ!そうか…。
結局一度アエオンに戻らないとダメなのかな…。
「…あ〜、分かったよ。お前、谷で目的の奴を倒したら、また鉄塔まで戻って来い。明日の朝、ガソリン持ってもう一回来てやるから。」
「え!?そんな、悪いよ…。」
「良いんだよ。狩りはお前のおかげで済んじまったし、さっきの話を聞いちまったら、お前の生死を確認せんことにはモヤモヤが残るだろ?」
ダニさん…、かっこええ男や…!
心配してくれる人がいるってのは嬉しいもんだなぁ…。
「あ、そのかわり明日の朝の分の獲物も譲ってくれ。」
ダニさんェ…。
その後、獲物の回収作業を手伝うと、ダニ達はアエオンへ帰っていった。
さて…色々あったが今日で終わらせよう。
俺はガソリンの少なくなったカブに乗り、決戦の地である谷に向かった。