放るアウト
俺達は早々と夕食を終え、食後の雑談をしていた。
今夜の夕食の味に何か覚えがあるなぁと思ったら、先日食べきれなかったケツ…ネックレスの丸焼きを再利用したものだったらしい。
驚いたことに、チョウチョが再調理したソレは、割と食べられる味になっていた。
ちなみに、俺は前世でコンビニや外食に頼っていたので料理はまるでできない。
…この世界で生活するには、調理スキルの上達も重要になりそうだなぁ…。
「…そんでノブ、明日には出発すんのか?」
「ああ、長い事世話になっちまって悪かったな。」
「そんな事は気にしなくていいんだけどよ。行き先は決まったのか?」
「あ〜、特にあても無い旅だからなぁ。…とりあえず、じいさんと出会った崖の下にでも行ってみようと思ってるくらいかな。」
「…あの谷に行くんですか?装備は整えたとはいえ、ノブさんお一人では危険じゃないでしょうか?」
「いや…、ノブなら逆にアリかもな。チョウチョは知らねぇだろうが、コイツと会って帰ってくるまで、寝てる時以外一切襲われなかったからな。…全く、どうやってんだか…。」
「まぁ…その…企業秘密という事で…。」
俺は露骨にお茶を濁したが、じいちゃんは無理に追求することは無かった。
「そんじゃあ…谷を挟んで丁度アエオンと対角線に、小さな村がある。カブでもとばせば1日で着くんだが、よく行商団が宿場に使うんで交易が盛んな場所だ。そんなトコなら何か面白い話でも転がってるんじゃねえか?」
「ほう…そんな場所が…。それじゃあ谷を探索したら、その村にでも行ってみようかな。」
「ついでと言っちゃあアレなんだが、村に着いたら行商団にアエオンに寄るように伝えといてくれよ。トラックの方は修理がまだだが、先に売り払う契約を済ませときたいんでな。」
…これじゃあまるでおつかいクエストだな。
まあいいか。どうせついでだし、じいちゃんには泊めてもらった恩もあるし。
「おじさん、谷に行った後はもうアエオンには戻らないの?」
珍しくノミが話に入ってきた。
…まぁ色々あったが、同じ屋根の下で生活したからな。
「大丈夫だよ。用事が無くても、またふらっと顔を見に来るさ。」
「あ、そーいうのじゃ無くて。旅先で古いゲーム機を見つけたら、壊れててもいいんで持って来てくれる?おじさん古いゲームに詳しいみたいだし。」
こっちに目線も合わさずに、ミニテ○リスをしながらノミが言う。
…この糞ガキ…。
その後お開きとなり、みんなは部屋へ戻っていった。
俺はリビングに布を敷いて寝転がっていた。
…いや、別にノミの部屋で寝ればいいんだが、ピコピコ五月蝿いんだもん…。
明日の旅立ちの準備を終え、日記を付け忘れた昨日の分も書いて、ステータスチェックの為に千里眼をかける。
【西郷信人】
(ノブ)(おじさん)
人間 25歳
生命力/11
力/7
体力/6
知力/6
敏捷/5
運/5
PSI/クレヤボヤンス
〈西郷くんへ〉
なんか今日デートしてた?童貞とか言っといてやるじゃん!
まあ生活基盤を築くのを優先するのは良いけど、あくまで君の仕事は目的の女性を見つけ出し、子を生して人類を繁栄させることだからね。それを忘れないように!
それでは、楽しい終末を!
…神様、このメッセージの口調なんとかならないっすか…?
初めて会った時は、もっと偉そうというか、多少の威厳があったのに…。
寝よう…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
アエオン屋上にてカブにまたがる俺。
昨日まで着っぱなしだったスーツはバックパックの一番下にしまった。
今の俺は地下駐車場で見つけたジーパンと黒のポロシャツ。
じいちゃんから貰ったバイク用プロテクターを上から着けている。
カブと一緒にハーフタイプのヘルメットも譲り受けた。
荷物は斜めがけの通勤バッグと、昨日購入したバックパック。
通勤バッグの中にはスリングショット。
バックパックの横にはシャベルが括り付けてある。
見送りはヤスデじいちゃんとチョウチョ、ノミに自警団の連中。
…まあ俺がアエオンの町で知り合った連中だな。
「カブの方は整備もしてあるから、ちょっとやそっとじゃ壊れないだろ。ガソリンも一応満タンに入れてあるが…まぁ所詮カブのタンクだから過信はすんなよ。」
「ノブさん…無理は禁物ですよ!身の危険を感じたら、逃げ帰って来たっていいんです!…誰も笑ったりしませんから。」
「ちょ…それフラグ立っちゃうから!」
「サイゴー…こんな危険な時代にあてもない旅だなんて、自殺志願としか思えんが…。この町にとってはお前は恩人だからな。…死んだら墓は建ててやる。」
「その時は、墓に酒でも持って行って、また宴会しようや!」
ダニとカマキリが不吉な事を言いやがる…。
「…そうならないように気をつけるよ。それじゃあ、もう行くな!」
俺はカブのエンジンをかけ、走り出す。
…さっきまで黙りこくっていたノミが、追いかけるように走り出した。
「…ノブおじさ〜ん!!」
カブを走らせたまま、振り返る。
「…ゲーム忘れないでね〜!!」
…転びそうになった。
なんとか体勢を立て直し、そのまま走り続けた。
「…不思議な奴だ。ふらっと現れて、町に大きな利益を残し、ふらっと去って行った。…何処から来て、何処へ行こうというのか?…ただ言えるのは、奴の長い旅路は、たった今、ここから始まるのだ。」
話しだした男に、皆の視線が集まる。
「…彼の試合が、今始まったのだ。…プレイボール!!」
…そう、まさかの展開だった。
キャッチャー(タガメ)が締めやがった。