終末はショッピングへ
翌朝。
…というよりほぼ昼。
俺は尋常じゃない二日酔いに襲われていた。
こめかみをノミで割られ、脳みそを直接モミモミされているような、凶悪な頭痛だ…。
二時間程のたうち回り、少し体調が治まってきたので店先まで顔を出してみると、チョウチョが機械をいじくっていた。
「…おはようございます、ノブさん。」
「…おっす。チョウチョも二日酔い、酷そうだな…。」
顔色はすこぶる悪い。
それでも機械をいじくっていると、少しは気分が紛らわせられるとチョウチョは話した。
「じいさんとノミは?」
「店長は早速トラックの修理に行ってます。細かい修理が必要なパーツは、店まで運んできて私が担当してます。ノミ君は部屋で、何処かから拾って来た端末みたいな物をいじってましたよ。」
「そうか。ちょっとノミのとこに顔出してから、買い物に出てくるけど…。」
「ああ、わかりました。今やってるのが終わったら、準備して待ってますね。」
「チョウチョも来るのか?忙しそうだし別に無理しなくていいぞ。」
「…ノブさん、失礼ですがお金は持ってるんですか?」
「…。」
「あんまり高額な物は買えませんけど、ノブさんのおかげで町の財政が潤いましたから。少しくらいは報酬として融通しますよ。」
「…すんませんがお願いします…。」
忘れていたが、俺は無一文だった。
…俺も何か金を稼ぐ方法を考えないとなぁ…。
そういえば、意識して無かったけど自然とチョウチョに対しての応対がラフになっていた。
…まあ、原因は間違いなく昨晩の残念っぷりを見たせいだろう…。
ノミの部屋にノックをして入ると、ワークベンチの上で作業をしていた。
「…う〜ん、意味がわからない…。」
「おっすノミ、何してんだ?」
「おじさん…。実は、例の地下駐車場で面白そうな物を拾ったんだけど、どうにも理解できなくて…。」
ノミが手の中でいじくっていた物を見て、思わず声が出た。
「うわ!懐かしいなぁ!俺も昔もってたわ。」
「…おじさんコレ何か知ってるの?」
「これは携帯ゲーム機というもんだ。画面の上から落ちてくるブロックを、繋げて消すんだよ。」
「…え?何のために?」
「え…?」
「繋げて消すと何があるの?」
「何って…その…楽しくない?」
「…。」
「…う〜んと、難しい意味なんて無いんだよ!ゲーム!遊びなの!!暇を持て余した200年前の人間達が作った物なんだから。」
「…200年前の人間って、やっぱ少し変だよね…。」
…微妙な表情でミニテ○リスをプレイするノミを残して、俺は部屋を出た。
「ノブさん?何かありましたか?」
「いや…、遊びとは何ぞや?みたいなことを考えさせられた…。」
「?」
あんなつまらなそうに遊ぶ子供、初めて見たわ…。
俺とチョウチョは店を出ると、アエオンの三階にある商店街に向かった。
チョウチョの案内で旅に最低限必要な物をそろえていく。
着替えや毛布は地下駐車場で大量に見つかった物から融通してもらえるそうなので、携帯食料や飲み物、登山用と思われる大きなバックパックを購入する。
…レジでチョウチョが支払いをしているのを見て、一瞬悪ふざけかと思った。
「え〜と…合計で32ナットね。今日はチョウチョちゃん沢山買ってくれたんで、おまけで30ナットで良いよ。」
「良いんですか?ありがとうございます!…10…20…はい、30ナット!」
紐でまとめられた、ナットの束を3つ手渡すチョウチョ。
ナットが通貨になっとった。
…今俺超面白い事言った?
…気のせいか…。
そういえば、昔やったゲームの世界だと、瓶コーラの王冠が通貨になってたな…。
…あ、そうか。
ナットが通貨なら、スクラップなんかを漁るってのは、そのまま現金収入になる場合もあるって事か。
…これは、当面の指針ができたかもしれないな。
俺には千里眼や透視がある。
このPSIを駆使して、高く売れそうな物やナットを見つけて、生活費を貯めるのだ。
正直、神様から言われた『遺伝子異常の無い人間の女性を探す』という目標が雲を掴むようで、どうやって探したものか全く思いつきもしないし。
…まずは金策。
それから身の安全を万全にして、余裕ができたら人探しだ。
…しかたないよね?
神様も、送り込んだ奴が無策で突っ走って速攻で死んだら悲しむだろうし。
チョウチョに購入してもらった品物を、とりあえずバックパックに詰め込む。
すぐに取り出せるように通勤バッグにも飲料などを入れた。
「あとは…武器と防具でしょうか。」
「武器…か。俺って基本的には逃げるが勝ちのスタンスなんで、武器は別に要らないんじゃないか?」
「う〜ん…。それでも、最終手段として持っていた方が良いと思います。アエオンには自警団がいるので比較的治安も安定していますが、他の町がみんなそうとは限りませんし。」
そう言われるとなぁ。
確かに俺みたいなヤツが武器も持たずに歩いてたら、良いカモだよなぁ。
…そう考えると、見えるように持っているだけで防犯効果があるかもしれない。
「…確かにそうか。分かった、武器と防具が手に入る店に連れてってくれ。」
「ちなみにどんなものが良いとか、要望はありますか?」
「…接近戦とか全く自信が無いんで、できれば遠距離から使えるものがいいな。銃とか。」
「…流石に人のお金で、そんな高額商品を購入しようとするのは正気を疑いますよぅ!そもそもこの町には売ってないですし、銃は弾薬も高額で割に合わないと聞きますよ?」
やっぱ無理か、元・日本だもんなぁ。
「じゃあさ、ヤスデじいさんが使ってたボーガンとかはどうなの?」
「ボーガンなんかは需要が高いので、あまり数が出回ってないんですよ…。店長のアレだって半分以上部品を手作りして組んだって聞きましたし。」
技術が有る人は強いねぇ。
…なんならじいちゃんに俺の武器も作ってもらおうかしら。
そんなことを話しているうちに店に到着した。
店頭に並んだ武器を眺めているうちに、チョウチョが何かを見つけて声をかけてくる。
「ノブさん、このスリングショットとかどうでしょうか?」
チョウチョが指差す先にあったのは、金属パイプで出来た篭手みたいな物だった。
「すりんぐ…?…ああ、パチンコか。…これって威力的にはどうなの?」
「十分実用に耐える品ですよ。小さな鉄球を飛ばすので、距離によっては小動物だって狩れますし、最悪球切れしても、そこらの小石だって打てます。予備のゴムも買っておけば修理も割と簡単ですよ。」
…思ったよりも良いかもしれないな。
子供の玩具かと思ってたけど、チョウチョのオススメ品は中々に頑丈そうで、正直少しカッコ良いと思ってしまった。
「じゃあそれにしようかな。」
「あ、あとはこのシャベルがオススメです。殴って良し、刺して良し、おまけに穴も掘れる万能武器ですよ!」
「…普通は掘るのがメインで、殴るだ刺すだがオマケじゃないのか?…あ〜、でも良いかもなシャベル。俺が刃物とか持ってても、逆に奪われて刺されそうだし。」
そんな訳で、スリングショットとパチンコ球を100球、予備のゴム、全長1m程の丈夫そうなシャベルを購入してもらう。
「あ、そうだ防具!すっかり忘れてた…。」
「それなんですが、よろしかったら店に置いてある店長の予備をお譲りしましょうか?」
「え!?そんな、良いの?」
「ええ。それに…正直言いますと…。」
「?」
「…お財布が、カラになっちゃいました。」
「…本当にスンマセン…。」
大量の荷物を抱えて、俺達は帰路についた。
じいちゃん達には悪いが、今夜も泊めてもらうことになりそうだ。