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酒宴

 アエオンの町一階、元フードコートは熱気と歓声に溢れていた。

 町の備蓄食料の半分を持ち出して難民達にも振る舞うという、大宴会が開かれていたのだ。


「…こっちの世界でも酒が飲めるとは思わなかったなぁ。」


 俺は少し汚れたグラスに注がれた、茶色の液体をチビチビと舐めていた。

 仕事の付き合いで酒を飲む機会は多かったけど、こっちの世界の酒は異常に強く感じる。

 …ちゃんと飲める物なんだよな?

 ブランデーっぽいっちゃポイけど、酒って200年も保つものなのか?


 あれ?

 …そういえば、前世から考えると俺って225歳とかになるのか?

 …いやいや!流石に地上にいなかった200年はノーカンだよな。

 じゃなきゃ何処かの悪魔様みたいになってしまう…。


「おう、やってるか?…なんだお前、犬か?…そんな風に飲んだら酒造家が泣くぞ。」


 上機嫌のヤスデじいちゃんが絡んできた。

 …臭っ!酒臭っ!!

 すっかり出来上がってるじゃねーか!


「酒造家…やっぱこの酒って、どこかの町とかで造ってるのか?」


「この町じゃねえけどな。何ヶ月かに一度、アエオンに行商団が来るんだ。んで、色々発掘品を融通するかわりに、少しばかり物資を譲ってもらうのよ。」


 行商団!そんなのがあるのか!

 こんな危険な世界で行商って…。

 あ、そんな時こそ用心棒のしごと出番なのか。


 …そういえば、じいちゃんと話してて思い出したけど、俺って無一文なんだよな。

 じいちゃんは物々交換みたいなことをしてるみたいだけど、通貨みたいな物は流通してるんだろうか?

 もし存在しているのなら、この先のことを考えると手に入れておきたいなぁ…。


「…ノ〜ブ〜さんっ!なぁ〜に辛気くさい顔してるんですかぁ〜!!男が二人だけで飲んでるなんて、ごちそうさまですっ!!」


 …ベロッベロに酔っぱらったチョウチョが、千鳥足でやって来た。

 こいつ、見るたびにキャラが違う気がするけど、情緒不安定なの?

 …ごちそうさまって…まさかお前…。


「大体ね〜、おかしいじゃないですか〜!な〜んで他所から来たノブさんが、アエオンの地下にあんなお宝が眠ってるってしって分かったんですかぁ〜!?」


 俺の隣にガニ股で着座し、座った目で顔を近づけてくるチョウチョ。


 …こいつ、残念すぎるだろ…。

 普段ならドキドキな展開かもしれないが、目の前の泥酔女オッサンにはトキメキのカケラも感じない…。

 …つ−かコイツも酒臭ぇ!!


「…その話なんだがよ、ノブ。俺はなんとなくだが察しがついてるんだが…やっぱ詳しく聞いちゃあマズいか?」

「…そうだな。感が鋭いヤツ程度に思っててくれないか?色々と面倒な事情があるんだ。」


 発見された地下駐車場は、まさに宝の山だった。


 軽トラや中型トラックが合計で18台。

 流石に経年劣化が激しく、そのままの数が動かせるわけではないらしいが、ニコイチしたり修理すれば半分は動くようになるとヤスデじいちゃんは見立てている。


 しかも、地下にあったのはトラックだけでは無かった。


 キレイな状態で梱包された衣料品や毛布、薬や包帯などの医療品。

 …200年近く昔の薬って、使って平気なのか?

 …いや、たぶんアウトだよな…。


 それに携帯用の浄水装置やガスマスクなんかも。

 そんな物が結構な量。

 …ああ、駐車場の隅に削岩機が転がってたのを見つけた時は、流石に乾いた笑いしか出なかった。 


 そんなわけで、地下駐車場の発見はアエオンの町に大量の物資を供給する結果となった。

 一緒に見つかった大量の非常食は、残念ながら賞味期限が190年程過ぎてしまっていた為、破棄した。


「町で使う分以外を他所に売っぱらえば、何年かは食料にも困んねーだろう。その間に難民達も自立して生活できる環境が作れてりゃあいい。」


 じいちゃんに聞いたのだが、やはりこの世界で動く車両は大変高額になるらしい。

 その話を聞いて、やっぱ自分用に車を入手するのは難しいかなぁ、と思っていたのだが…。


「…ノブよぉ。お前に見つけてもらっておいて、こんな事を言うのは気が引けるんだがよ…。あのトラックは、できればアエオンの町で役立てたいんだ。本当なら発見者のお前にも一台くらい譲りたいんだが、こればっかりは…。元々、アエオンの地下にあった物だしな。…だから、代わりといっちゃあ何だがよ、グレードはだいぶ下がっちまうが、俺のカブを譲ってもいいと思ってるんだが…どうだ?」


 じいちゃんは申し訳なさそうに言うが、俺からすれば願っても無いプレゼントである。

 元々当ても無い一人旅。

 怪物から逃げるのに使えれば十分だ。


 ヤスデじいちゃんの申し出を、俺は快く受け入れることにした。


「…おいおい、今回の功労者が何で全然飲んでないんだよ!サイゴー!!こっちに来てジャンジャン飲んでくれ!」


 …自警団のダニとつるはしのヤツ(カマキリ)、あとキャッチャー(タガメ)に捕まってしまった…。


 俺は自警団連中に、こっちの世界の強烈な酒をたらふく飲まされ、フラフラになりながらヤスデじいちゃんの家に逃げ帰った。

 …俺もかなり酒臭い。

 流石にノミの部屋で寝るのは気が引けたので、誰もいなくなったリビングの机に突っ伏していた。

 

 襲い来る睡魔と戦いながら、なんとか自分に千里眼をかける。

 すると、ステータス画面に【状態:酩酊】とか書いてあった。

 そして力がまた1上がっていた。

 神様メッセージには、『この世界で主流になっている合成酒は、死にたくなる程二日酔いがヤバいらしいぞ!それでは、楽しい地獄を!』…と、書かれていた。


 ああ…もう無理だ眠い…。

 …あ…、今日の分の日記…。

 …。

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