アエオン・アンダーグラウンド
「はぁ?トラック?…冗談は顔だけにしろよ、ノブ。」
朝食の席でヤスデじいちゃんに相談してみたら、いきなり罵倒された。
…そりゃそうですよね。
いきなり車くれとか何様だって話だ。
「そうだよな…、スンマセン。なんか沢山あるみたいだったんで、聞くだけ聞いてみようと思っただけなんだ。気にしないでくれ。」
「いや、だから、トラックなんてこの町には無いっての。」
…はぁ?
何言ってるのじいちゃん?
ああ、アレか。
他所者に町の情報とか、迂闊に漏らせないって事か。
「いやいや、いいんだよ本当に。ダメ元で言ってみただけだからさ。」
「…お前、やっぱ昨日の当たりどころが悪かったのか?」
…何だよ。
そこまでシラをきるのか。
…別にいいんだよ俺は。
元々ダメ元で聞いてみただけだし。
だけどさ、あまりにすっとぼけて知らぬ存ぜぬを通されると…。
…なんか、気分が良く無いよな。
「…知ってんだよ俺!アエオンの町のロゴが入ったトラックが何台もあるって!でも本気で貰えると思ってた訳じゃあ…。」
「ちょっと待て!!」
じいちゃんが突然大声をあげる。
な…何だよ…、先にシラを切ったのはそっちじゃん。
そんな怒らなくても…。
「…トラックが何台も有る、だと?どこで見た?…いや、場所は知ってんのか?」
「え…?いや、多分アエオンの町の中…だと思うけど。…まさか、本当に知らないの?」
「…知らねぇ。今アエオンにある乗り物って言えば、俺のカブと継ぎ接ぎだらけのおんぼろスクーターだけだ。」
…マジか?
あれ?俺もしかして重大な発見しちゃった?
「…ちょっと町の中を見て回ってきて良い?」
「…俺も行くわ。」
朝食を終えると、俺はじいちゃんと一緒に店を出た。
…チョウチョとノミは俺達二人の掛け合いに目を丸くして固まっていた。
俺達は一旦屋上まで登り、何度か千里眼を使用して位置を絞り込んでいった。
昨日の実験で、千里眼は近くにあるものから優先して反応することが分かっていた。
…じいちゃんにはPSIの事は話していない。
目をつぶって千里眼を使う俺を、隣でじいちゃんは無言で見つめていた。
段々と下の階へ下がって行き、一階。
…ここが一番反応が強い。
じいちゃんに聞いてみたが、一階部分や建物の外には車庫の様なものは無いらしい。
…と、なると…。
「…地下か。」
俺の透視は、地下を見れなかった。
そもそも、ここは元・ショッピングモールだ。
何処かに地下駐車場が存在していても、別におかしく無いんじゃないだろうか?
「じいさん、この町に地下は?」
「…聞いたことが無ぇな。つーかそんな物があるなら、とっくに見つかってるだろ。」
ですよね〜。
でも千里眼を使った時に見える場所は、広くて暗い部屋で…。
…住人が知らない地下駐車場が存在しているのか?
…そんな物、本当にあるんだろうか…?
俺とじいちゃんは屋上に上がり、警備に話をつけて町の外に出た。
建物の周囲で、千里眼と透視を試して行く。
…そして…。
「…ここだ…。」
建物の裏手。
地面に透視をかけてみたら、スロープが透けて見えた。
…地面は所々痛んではいるが、しっかりとコンクリートで舗装されている。
「じいさん、人手を集められるか?ここの地面をひっぺがしたいんだが。」
「…本当に、ここに有るんだな?」
黙って頷く。
実際、俺には見えてるからな。
「…そうか…。待ってろ。」
じいちゃんが町の中に戻って行く。
…それから20分程して、町からつるはしを担いだ男を筆頭に10名程の集団が出て来た。
「…昨日の余所者か。適当なことを言ってるんじゃないだろうな?」
「嘘じゃない。…少なくとも、この下に空洞があるのは確かだ。」
「…何も出なかったら袋叩きにしてやるからな!」
そう言うとつるはしの男が号令をかけ、集団がコンクリを掘り始める。
アエオンから一歩外に出れば、そこは草木もまともに拝めない荒野だ。
…炎天下の中、作業は3時間近くに及んだ。
掘り進める男達に苛立が見え始めた頃、…辺りに鈍い金属音が響いた。
「…なんだこりゃあ?コンクリの下に鉄板が敷いてあるぞ?」
コンクリートを剥がしていくと、徐々に見え始める巨大な鉄板。
全てのコンクリを剥がし終えた頃には、もう日が傾き始めていた。
「これは…蓋、なのか…?」
コンクリートの下から現れたのは、幾本かの太い鎖が繋がれた重厚な鉄板だった。
「…手を貸してくれ。引っ張るぞ。」
ヤスデじいちゃんがそう言うと、皆が鎖を手に取り一列に並び始める。
…連日の慣れない肉体労働でグロッキー状態の俺も、最後尾で鎖を握る。
「…一気に行くぞ…、良し、引っ張れ!!」
男達の体が仰け反る。
…鉄板はミシミシと音をたてるが、すぐには動かなかった。
そのまま全力で引っ張り続ける事3分程。
それは唐突に訪れた。
バリッ!!っと大きな音をたてて、跳ね上がる鉄板。
続いてガラガラと引き摺られ、ついに忘れられた地下駐車場は姿を現した。
「…。」
誰もが言葉を失っている。
「…本当に…、あったぞ…!!」
じいちゃんの一言を皮切りに、辺りは歓声に包まれた。
俺は今にもつりそうな両腕をだらしなく下げたまま、地面に腰を下ろした。