試してガッデム
部屋に戻ってから、俺は眠れないでいた。
…カッチカチのベッドもその一因ではあったが、原因はもちろん先程の一件だ。
折角こんなご時勢にもかかわらず屋根付きの個室をあてがわれたというのに、なんか色々と無駄にしている気がする…。
「あ、そうか。折角一人なんだから、今のうちに色々検証しとこう。」
大声での独り言も、一人部屋だったら別に怪しくもないよね!
…ないよね!!
俺のPSI、クレヤボヤンス。
透視、千里眼の能力を併せ持つ超能力である。
少なくともこの世界では。
まずはまだ未使用の透視の能力の検証から。
右手の小指にはまったサイコリングに透視と念じながら、自分の部屋の壁を見つめてみる。
すると、壁が消えた。
…いや、これは壁が透けて見えているのか?
壁の向こうでは、ベッドに腰をかけたヤスデじいちゃんが小さな紙片を見つめていた。
…なんとも言えない、悲しげな表情で。
…いかんなコレは。
プライバシーを完全に無視している。
俺は透視を一度解除して、細かい検証を続けることにした。
…しばらく検証を続けてみて分かった事。
・透視は自分の視界に入った物のみに有効である。
・ある程度の強弱はつけられる。例えば人間に使えば服だけ透かす、皮膚まで透かす、骨まで透かすなど状況に応じて使い分けできそう。
・厚みがそれなりにある物には制限がかかるっぽい。具体例をあげれば、地面を透かして見たら2m程下までしか透視できなかった。
こんな感じだった。
透視で服を透けさすとか…、思春期の夢か、企画物のAVか。
なんにせよポンポン使って良い能力じゃないな。
見知らぬ男がニヤけた顔で見つめてくるとか、事案発生である。
厚みの問題で思ったんだが、PSIって使い続けたらレベルアップ的なものはあるのだろうか?
それによっては今後、地面のもっと深い所まで透視できるようになるのか…?
ん?レベル?
そう言えば俺のステータスって、レベル表記とか無かった気がする。
もしかしてレベルアップとか無い?
…十分に有り得る…。
ステータスの件は、神様がおまけ程度でくれた能力だ。
現実世界で考えれば、RPGみたいにレベルが存在している方がおかしな話だし。
確認を兼ねて、俺は自分に千里眼を使ってみた。
【西郷信人】
(ノブ)
人間 25歳
生命力/10
力/6
体力/6
知力/6
敏捷/5
運/5
PSI/クレヤボヤンス
〈西郷くんへ〉
ステータス画面にはもう気がついてくれたかな?各種パラメータは鍛えたり、特定の条件をクリアすると上昇するようになってるよ!
死にたくなきゃ鍛えろ!
それでは、楽しい終末を!
…神様メッセージが変わってるし…。
何コレ?どのタイミングで変わったの?てか結構重要な事書いてあるし!
これは見逃さないように、ちょくちょく確認が必要だな…。
さて、他に気付いた点は…。
俺の名前の下に、渾名が追加されていた。
これって後々変わったりするのかな?あ、通り名みたいな!
…いやいや、俺はこの世界でバトル展開をする気は無いんだった。
PSIを駆使して逃げて逃げて逃げまくるのだ。
『脱兎のノブ』とか『エスケイパーエスパーサイゴー』とか呼ばれたら嫌だな…。
あ…生命力が1下がって、力が1上がってる…。
生命力が下がったのは、さっきチョウチョさんから攻撃をくらったから?
生命力って…やっぱHPなのか。これってちゃんと回復するんだろうな…?
力が上がったのは…まさか、じいちゃんとカブを引き上げたのが鍛錬扱いになったのか?
…この辺りは推測の域を出ないな…。
そういえば、PSIって使用回数とか無制限なんだろうか?
魔法とかみたいにMPの表記もないし、使った後に疲れも痛みも無いし。
…そう考えると、やっぱチート気味な能力だよなぁ。
クレヤボヤンスは戦闘に向いたPSIじゃないけど、今後他のPSIを手に入れる可能性もあるワケだし。
やはり、俺がこの世界で生き抜くには、PSIは生命線だ。
今後も力の研究や、的確な使用を心がけよう。
ついでなので、この流れで千里眼の検証もしておこう。
千里眼の能力は先日使用して判明している。
自分を中心とした約2kmを上空から探索する能力。
…これってイメージの問題なのかなぁ、レーダーみたいな使い方を思い浮かべてたから、ああいった能力になったんだろうか?
最初はイメージ通りに使えてはしゃいでたけど、よく考えると本来の千里眼ってもののイメージとちょっと違う様な気がするんだが…。
千里眼って、もっとこう、探し物とかをピンポイントで見つける能力な気がするんだよなぁ。
さんざん頼っておいて今更だけど。
物は試しと、千里眼で探し物ができないものか実験してみる。
対象は…何にしよう?
ただの実験だから何だって良いワケだけど、こういうのってパッと思いつかないよな。
どうせなら、こう…必要性のあるモノが良いな…。
…乗り物とかどうだろう?
じいちゃんのカブに乗ってて実感したけど、この世界で移動を考えたらやっぱ必要だよな。
某RPGでも乗り物が無きゃ話にならんし。
…そう言えば、この世界では燃料とかってどうしてるんだろう?
ガソリンを作る施設とか生きてるのか?
…それこそ某映画だな。
悪党に襲撃される展開しか思いつかない。
…まあいいや、とりあえず実験だ。
目を閉じて、サイコリングに『千里眼・乗り物』と念じてみる。
…ヤスデじいちゃんのカブが見えました。
そりゃそうだ。
店の中に停めてあるもんね。
…でもこれで一応、実験は成功だ。
千里眼は探し物に使える。
俺は続けて、同じ条件で千里眼を使用してみる。
見えたのはボロい原付。
これもアエオンの町の誰かの所有物っぽいな。
続けてもう一度。
壊れかけの自転車、錆だらけでタイヤが全て無い軽自動車、三輪車…。
…おお!ちゃんとした車もあるじゃん。
見えたのは暗い部屋に駐車されたトラック。
荷台にイ○ンのロゴ入りだ。
しかも周囲に似た様なトラックが何台もあるのが見える。
何気にすげえなこの町。
終末の世界だってのに、こんなに車を所有してるなんて…。
…こんなに有るなら、ボロでいいから一台位譲ってもらえないかな…。
…どのツラさげてって気もするが、明日起きたらじいちゃんに相談してみよう。
俺は日記をつけてベッドに入り、無理矢理に眠りについた。