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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界で奴隷を押し売られました。クーリングオフ不可でした。

作者: 三毛きな粉

思い付き。メモ的な

 捨てられた。

 もういらないと、縋る目が煩わしいと、最後に目を抉られ捨てられた。

 誰か、…――――…。











 この度、見知らぬ星に来ました私、坂内優希と申します。

 19歳で、4月から希望の職場で働ける!と、うきうきしながら一人暮らしの部屋を開けたら、ここにいた。



 某映画で、地球の軍人さんやらを自分の星に集めてその人達を狩る宇宙人の話があったけど。

 私、戦闘能力皆無だしなぁ…サバイバルもした事無いのにどうしろと言うんだ……。

 確かあの映画は!最後宇宙船奪って地球に帰ったんだっけ?

 

 そんなことを思いながら、夜空に浮かぶ土星と月2つを眺めている。


 どこかに、一緒に来た人いないかな?あの映画では何人かいたよな。よし!


 誰か探そうと、森を歩き出す。

 

 ……ォォ…――ォァ…―


 何か聞こえる……声?

 獣の雄叫びの様な、人の慟哭の様な?

 どうしよう?野生の獣だったら即夜食にされる。けど、もし人だったら同じ状況で絶望して哭いてるのかも?

 

 う~ん…行ってみるか。


 武器にもならないとは分かってるけど、すりこぎ程の木の枝を持って声に向かって森に近付く。


 オォォォ…―ォ―…ウァアッァアア――アァ……


 声が近くなる。

 こ、こ怖い!


 大分近付いたと思うが、夜の森は暗くて見えない。

 木々よりこぼれる月明かりだけを頼りに、少しずつ歩いて行く。


 それにしても…この声、胸が締め付けられる。

 何があったら、こんな声出るの?

 私なんて、状況に心がついてこないのに。

 既に、私の中で一緒に連れてこられた人確定。

 カサッと落ち葉らしきもの踏んで、立ち止まる。

 少し拓けた木々に囲まれた場所にその人はいた。

 


 目隠しの様に布を巻かれ、それは涙ではない赤黒いものが染みて頬にも流れている。

 夜空に向かって慟哭している様は月に濡れ、胸が痛む程の哀しさと儚さがあり、何故か完成された絵画のように気圧されるほど美しかった。



 侵してはならない神聖なものの様に感じ、思わず足が後ろに下がり、ガサッと落ち葉を踏む音がして、しまった!と思う。

 どうか聞こえていませんようにと願いながら、その人の方を見ると、


「やば」


 こっちを見ていた。目は血濡れの包帯で巻かれているので見えてない筈なのに、心まで見透かされているような錯覚に陥る。


 見つかった事に何故か恐怖した。


「あの…」

「殺…して」

「……は?」

「魔物?魔族?…何でもいい…待ってた…早く殺して」


 口元をニィと引き上げ、その人は両手をこちらに広げる。

 その言葉もだが、雰囲気の異様さに少し寒気がした。それを振り払うように、強めに話す。


「いや殺さないよ!人だよ!」

「ひ……と?」

「そうですよ。あー、あなたはこの星の人?怪我は大丈夫ですか?」

「ひ、と」

「はい。地球産の人ですよ。それで、あなたもどこからか拉致られた?」

「見せて」

「さっきから血出てますけど大丈夫…ん?見せ?何を?」

「見せて?」

「うぉあ!?えっ?何を…え?何?」


 何の音もなかった。

 見せてと聞こえた後、聞き返すのに顔を向けると、もう息が触れる程側にいた。

 

 え?5mくらい離れてたよね?

 なんで、こんな近くにいるの?!

 

「やっ…」


 その人は、私の頬に触れる。

 カサついた固い掌と長い指。逃げようと首を振ると、後頭部を掴まれ動けない。


「動かないで?どこか取れちゃうかも」


 どこかってどこさ!?取れるって何さー!?

 

 その言葉に、カチと固まる私に気にもせず、後頭部を掴まえたまま、もう片方の手で顔を撫でる。


 怖い!代わりにお前の目を寄越せとか?


 ゆっくり掌全体で顔を撫で耳に頭に触れ、後頭部にあった手が、いつの間にか腰に回り、グッと引き寄せられる。

 儚げに見えたのに意外に固く広い胸板に抱き込まれ、腰を押し付けてくる。

 手は頭から肩へ背を降りて、私の形を確かめているようにゆっくりなぞり、私の頭に頬擦りしてくる。

 

 見えないから、触って確かめてる?

 近過ぎる気がしないでもないけど、見えないんじゃ不安か…。

 マモノ・マゾクなんて、二次元でしか聞かない単語出てきたしなぁ。

 

「これ、耳?」

「へ?はあ、耳ですけどぉっえぇ!?」

「耳、かあいい」


 その人は、私の耳を弄くり回した後、今度は唇と舌で形を確めてきた。


「や、やめっ!ひぃ!」

「ん~。これはかわいい」


 唇が耳朶から縁を辿り、更にはぬるっと舌で同じ様に耳を舐められる。。


「ぅひぃっ……や、やめって!この変態っ!」


 渾身の力を込めて、いまだ腰を押し付けてくるその身体を押し、数歩離れて耳をグシグシ擦る。


「なっ!こんなっ…何すんの、ったくもう。充分分かったでしょう?そんなことより、医者探しますよ!医者!」

「いーしゃ?」

「医者…あー何だろう。医療者?怪我や病気を治してくれる人ですよ」

「えっ?どこか痛いの?」

「わっ、違っ私ではなくて、あなたですよ!ちょっと離れて、嗅がないで~」


 折角確保した距離を一気に縮め、その人はまた私を掴まえ、胸元から首筋を通り米神まで匂いを嗅ぐ。


「良かった。血の匂いしないから怪我は無いと思ったから。これは、気にしないで?」


 いや、気になるよ?

 目隠しのせいで顔半分しか見えないのに、とても安心したように笑うその人が、血を流し続けているのに無頓着なその人が、何だか少し怖くなった。

 


 その人の名前は、モリ(敬称無しは本人が切望)。

 残念ながらこの星の人で、人と獣人のハーフ。

 そう、獣人!モリは白い髪に白い耳が、頭の上に付いている!柴犬っぽいフサフサピンとした耳が。

 マジマジと見てしまった。触りたいけど、我慢してみました…。ウズ…。


 モリは奴隷制度がある人間の国で、ずっと奴隷の様に働いてきたけど、上司に嫌われて目を抉られこの魔物の出る森に放置されたと話す。

 

「な、それ、どんな上司…」

「あの人のために生きようとしたのに、とても嫌われてしまったんだ。それで悲しくて泣いてたの」

「それ、え?何でそんなに…ってか、そこで泣くの?!周りの人は何してるのっ?!そんな馬鹿上司、とっととクビにして然るべき償いを…」

「僕は物だから。どれだけ傷付けられても、盗られても文句はないんだ。ただ、誰にも使ってもらえないのが悲しいの」

「っ!何それ!…私の世界の考えだけど…押し付けなのは分かってるけど、でも、それは、その考えが、私は悲しい…」


 奴隷制度。

 実際に耳にしただけ、物語になった映画を見ただけ。この世界やこの人の価値観に、完全な部外者が口出すのは筋違いだと分かるけど…でも、その考えは理解したくない。

 まるで自分を物みたいに。


「平和な所から来たんだねぇ…」


 嫌味でもなくただの感想なのに、罪悪感が胸をつく。そう感じることすら、筋違いなのに。


「だって、物は悲しいなんて感じて泣かない。モリは物じゃない。やっぱり、医者…目、治しましょう?せめて血を止めないと」

「…………僕を診る人はいないよ?大丈夫。痛くないし、特に不便じゃないから」


 さっきから、ポタリポタリと落ちる赤黒い雫が気になって仕方ない。

 あれで痛くないって…むしろ悪化してるのでは?


「それ、余計悪化してるんじゃ…」

「気にするの?」

「しますよ」

「じゃあ、止めるね」

「え?」


 風がさわりと頬に触れる。

 モリの顔を見ると、何も変わってないような?

 

「血は止めた~」


 …何故もっと早くに止めないんだよ~。


「ねぇ、僕と居てくれる?この世界を色々教えるから。お世話もするから」


 お世話って、逆じゃない?

 

 願ったり叶ったりの申し出にも関わらず、素直にうんと言えない何かがあった。

 でも世界に一人になった私には、今は目の前の人の手に縋るしか思い付かなくて、結局頷いた。


 後に、この選択は間違いと気付くけど。


「あ、そうだ、呼び名ね…」

「あっ!ごめんなさい。名乗るの遅くなって。坂内優希と言います。こちらでは優希坂内かな?」

「え?」

「え?」

「いいの?」

「何がでしょう?」

「……ううん。ユーイサャーウツ?」


 誰それ?


「ゆ、う、き、さ、か、う、ち、です」


 何度か練習して、完璧に言えるようになったモリは、宝物を見つけたような声で、何度も繰り返す。


「優希」

「はい」

「優希?」

「はい?」

「優希!」

「…うん、はい」

「えへへ~優希」

「はいはい……」


 何だろう?


「優希、僕は目が無いよね?」

「はい」

「はぐれると大変だから、魔法をかけたいんだ。優希が直ぐ分かるように!」


 GPSみたいなものかな?


「魔法!そんな魔法があるんですね!私もモリとはぐれると困るから、有り難いです」

「…もっと」

「もっと?」

「もっと言って?」

「困るから有り難い?」

「違う。名前」

「モリ?」

「うん」

「モリ」

「うん、もっと」

「モリモリ」

「…何か違う」


 じゃあ魔法をかけようとなり、モリは途中で止めると魔力が暴走するから決して止めないようにと念を押され、言葉の後に続く様に言われる。


「ワレ」

「ワレ」

「優希坂内ハ」

「優希坂内ハ」

「モリ」

「モリ」

「あ~ちょっと待って…そうだ!ニメイズ」

「ニメイズ」

「ミライエイゴウ」

「ミライエイゴウ」

「ソノミ」

「ソノミ」

「ソノココロ」

「ソノココ…ロ?」

「…ちゃんと続けて?ソノイノチ」

「ソノイノチ…?」

「タマシイヲモ」

「タマシイヲモ」

「ワレに」

「ワレに」

「捧げ尽くせ」

「捧げ尽くせ…あれ?」

「フフッ」


 最初、意味の分からない文言を話していたのに、最後、意味が通じた…?

 かなり不安になってきて、思わずモリを見る。

 何に不安になってるか分かっているけど、気にはしてなさそうでウキウキした声で話してくる。

 

「やっぱり、初めて聞く言葉は翻訳と理解されるのに時間が少しかかるんだね。古語にして良かった」

「は?」

「ウフフ…フフッ」

「な、何の魔法かけたの?!」

「これで、僕は、全部、優希の物」

「何だって?!」

「何でもします、ご主人様。僕は貴女の奴隷。貴女の物。たくさん使って?特技は、生き物なら何でも殺せる事。主に証拠を残さず人殺しが得意だよ。殺したいのがいたら言ってね?

 それから、もう真名は明かしちゃ駄目だよ?僕じゃなかったら、逆に隷属させられてたからね?」

「はあ?」



【 我、優希坂内は、モリに命ず。未来永劫、その身、その心、その命、魂をも我に捧げ尽くせ】



「は…はあぁぁ?!」


 自分から奴隷って…ドMかっ?!

 知らないよ、真名は名乗っちゃいけないなんて!

 支配するよりされたいと、のたまう変態なんて嫌だよ!

 しかもその特技、物騒過ぎるわ!






 絶対解除して、いつか帰ってやる!






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