第ⅩⅣ章 続・学園長の卑劣な罠
そんな当事者とは別に激怒している人物がいた。黄鞠の不倶戴天の敵、学園長である。
学園長はフェミニストである、しかも重篤なフェミフェミフェミニストである。一般的に良識のあるフェミニストというよりは男子を嫌う感じのフェミニスト。
本来であれば男子生徒を学園に入学させるなんて絶対にあってはならない。しかしそれでも黄鞠の内申点、そして潜在的魔力量はかなり優秀な素材だった。この人材を他校に流すわけにはいかなかった。
せめて大人しくしていればよかったのに度重なる問題行動を起こす黄鞠に対して激怒していたのだ。最近では特定の女子生徒を傷つけ、女子寮への入寮も果たしてしまった。しかもルームメイトがよりにもよってあのアンシェストのご令嬢。
面白いわけがなかった。せめてもの慈悲に与えた簡易テントを自ら放棄したことも面白くなかった。当然、学園長として女子寮への入寮を認めるわけにはいかない。これは決定事項だった。
とにかく調子に乗っている男と生き物を分からせなければならない。女子寮への入寮を認めないだけではない、調子に乗ったその男に恥を欠かせてやらなければ気が済まなかった。
そして、その両方を達成し傷つけられた女子へのフォローにもなる最善の手法を思いついている。
「見ていなさい、男。私を怒らせたことを後悔させてあげましょう」
学園長は黄鞠と胡桃子の個人情報を見ながら、不気味な笑みを浮かべていた。
決戦の時が来た。石動先生が俺に告げたのだ。『学園長がお呼びなので学園長室に来てください』つまりこれは俺を散々な目に合わせてきた学園長を裁くチャンスが来たということだ。
……まあ、大方女子寮への入寮はキャンセルだと言われるのだろう。黄鞠はそう推理する。出来れば穏便でない話し合いで片が付けばいいと思っている。放課後、いざ決戦の舞台へ足を運んだ。
黄鞠が学園長室に向かう途中、石動先生が対面から歩いてきた。しかも、どうやら石動先生も学園長室に用があるらしい。
軽く会釈をする。石動先生もこちらにひらひらと手を振る。そして、石動先生がコンコンと学園長室の扉を叩く。
「良く来ましたね、入りなさい」
学園長室から聞こえたその声は、抑揚のない声だったが静かな怒気を孕んだ声だった。とてもじゃないがお客様を迎え入れるような声ではない。明らかな敵意が見える。
これ絶対入ってくるの俺だって勘違いしてるゾ。しかも石動先生もその反応を見て察しているようで、すごく不安そうで気まずそうな表情でこっちを向いた。
正直、笑いを抑えられない。
「……あのー、学園長先生」
そしてその気まずさそのままに恐る恐る石動先生は学園長室に顔をのぞかせた。
「なっ! い、石動先生!?」
今のリアクションで黄鞠は自分の推理の正しさを確認した。弱みゲットだぜ!
しばらくして石動先生が学園長室から出てきた。石動先生はそそくさとその場を立ち去った。黄鞠は深呼吸して気分を高める。そして、意を決して学園長室の扉を叩く。
コンコン
「良く来ましたね、入りなさい」
学園長室から聞こえたその声は、抑揚のない声だったが静かな怒気を孕んだ声だった。とてもじゃないがお客様を迎え入れるような声ではない。黄鞠は必死で笑いをこらえる。まだだ、まだ笑うな、こらえるんだ。笑いそうな感情を鎮めるため、再度深呼吸をして学園長室に入る。
「失礼します」
学園長はまるで鎮座するラスボスのような風体だったが、もうそんな威厳ねーから。
「なぜあなたを呼んだのか、心当たりはありますか?」
「ありません」
「そうですか、では説明します。あなたが違法に女子寮への入寮をしたことについてです」
「許可は頂きました」
「貴方には常識というものが無いようですね、女子寮は言わずもがな女性だけの空間です。男性の存在が悪影響を及ぼすことなど容易に想像がつくでしょう。そしてあろうことか今は特定の女子生徒と一つ屋根の下で生活している。これを看過はできません」
レスホームを強要させるようなやつが常識を語るんじゃねーよ。黄鞠はそう思ったが、あえて怒りは表に出さず冷静なままであった。
「女子寮への入寮は許可いたしません」
やっぱりそうじゃないか。だがこちらとしても出ていく気など毛頭ない。
「と言いたいところですが、条件次第では特例を認めても構いません」
「……え?」
全くもって予想外の答えが帰ってくる。この婆、いったい何を企んでいるんだ。黄鞠はすごく嫌な予感を
感じでいた。
「聞けば、貴方は特定の女子生徒を傷つけたと噂されているではありませんか」
「それは誤解です。その女子生徒はポ○モンのデータが吹き飛んだ精神的なショックで傷ついただけで俺とは一切関係ありません」
「なっ! それは本当ですか! まさか……そんなことが」
嘘だよ。つーかこの婆、いい年して廃人の気持ちわかるのかよ。
「プレイ時間はカンストしていたそうです」
「……いえ、それでもあなたが原因でないとは限りません」
「そうですか、ではその条件とは何でしょうか」
「あなたはこの学園の実技試験のシステムについてご存知ですか?」
「いえ」
「ならば説明してあげましょう。この学園の実技試験は生徒同士による模擬戦闘によって試験を行います」
いつぞやの朝会で言っていたやつの延長か。
「これから貴方たち新入生も実践的な戦闘訓練を行います。そこで、今回貴方には全生徒対象のチュートリアルを兼ねての模擬戦闘を行っていただきます。もし、その模擬戦闘で貴方が勝利すれば、その優秀な学業成績を認め特例として女子寮への入寮を認めて差し上げましょう」
「……模擬戦闘ということは相手がいるということですよね」
「その通りです。そしてあなたのご想像の通り、対戦相手は細矢 胡桃子さんです。この模擬線を通して、あわよくば貴方たちの確執が無くなれば幸いだと思っています」
学園長の提案は想像をはるかに超えてまともな提案だった。だが、この学園長の考えることだ。絶対に何かがあるはずだ。踏んだら最後の奈落の落とし穴が仕掛けられているはずなのだ。
「……いくつか質問してもいいですか」
「どうぞ」
「まず、その模擬戦の日程についてです」
「一週間後の放課後を予定しています」
「場所は」
「多目的ホールに模擬戦闘の設備が備わっています、当日はその設備を使用します」
「試合の形式と主なルールについて」
「本学園の実技試験の形式で行います。詳しいルールは石動先生か羽藤先生に聞けばいいでしょう」
「もしどちらかがやだといったら?」
「細矢さんにその意思が無いというのならば、今回の模擬試合は見送りにしようと思いましたが、細矢さんからは承諾を得ています。あとは貴方次第ですが、もし嫌だというのならば敗北とみなし、女子寮への入寮は取り消しとさせていただきます」
だめだ、分からない。この学園長がどういう風な形で俺を嵌めようとしているのか想像がつかない。だが、目的は分かっている。女子寮への入寮など初めから認める気などないのだ。つまり、俺がこの提案を受けるしろ受けないにしろ女子寮への入寮を阻止できると考えているのだ。
俺がどうあがいても勝てない要因があるはずだ。しかしここでこの提案を断るメリットがない。断れば、女子寮退去は確定。受ければ、チャンスは考えてやるよ。ならば受けるしかないだろう。実は模擬戦闘とか少しワクワクしてる。
まあ……俺は負けようが何しようが退去なんかしないけどな。俺は……ゴネる。
「わかりました。受けます」
学園長はその言葉に笑ったような気がした。口元が微かに歪んだから。どこからどう見ても悪役のその顔には『かかったなアホが!』と顔に書いてあるようだった。
「いいでしょう。では一週間後、多目的ホールで会いましょう」
「ええ、わかりました。あと一言いいですか」
「どうぞ」
「さっき、石動先生がここに入ってきたとき、俺だと勘違いして堂々と『来ましたね、入りなさい』とか言いましたよね」
学園長は一瞬だけ動揺した表情を見せたが、流石に年の功かそれ以降はポーカーフェイスを崩さなかった。
「何のことでしょうか」
「恥ずかしくないんですか?」
学園長は黄鞠の言葉に何かを返すことはなかった。だけれども学園長は笑っていた。人間、どうしようもなくイラついて目の前の人物を頃したいと思っても、その感情を表に出せない時どうするのか?正解は笑うのだ。表面上は笑みを浮かべながら、その笑顔の裏は怒れる灰色熊になっているはずなのだ。
その表情がみたかったんだよ!!ねぇ、今どんな気持ち?
「……失礼します」
黄鞠は学園長室を去った。黄鞠が出ていって、2分くらいたった後だろうか、学園長は当り散らすように
自分の机を思い切り叩いた。、その表情は先ほどのポーカーフェイスとは対照的な怒りの形相であった。
唇を噛みしめ、黄鞠への憎悪を露わにしながら学園長はこう言った。
「……今に見ていなさい男!貴方が勝利する未来は万に一つもないのですから。一週間後を楽しみにするのですね、貴方には私が被った倍の屈辱を味あわせて差し上げましょう!!」
そう言った学園長の悪役っぽい台詞だが、その台詞を黄鞠は全部聞いていた。学園長室を離れた後、壁に耳を当てていたのだ。
笑いが止まらなかった。ああ今すっげー人生楽しい。しかし、黄鞠は思った。このままでは絶対に勝てない。その理由が存在するはずなのだ。じゃなければ、学園長のあの自信に説明がつかない。
だからまずその理由を突き止めなければならない。絶対にその悪の野望を阻止してやるぞ!




