コネクト 麦畑
北海道では農業が盛んだ。ジャガイモにトウモロコシ、ニンジンやタマネギ。食用ユリなんてものも全国でナンバーワンである。
夏も中頃、暑いことはあっても熱いとは無縁の地で、今日も僕は、家の畑のチェックを行っていた。辺り一面、巨大な黄金色の波が、風に煽られ、横一列に手を繋いで走っていく。このまま晴天が続けば明日にでも収穫できるだろう。
麦の出来栄えに手応えを感じ、昼食を取るためにトラックへ戻って行く。するとそこに、僕のトラックの裏にもう一台、トラックが駐車されていた。おじさんは僕に気づいたのか、降車して声を投げかけてきた。
「おーい! 遠藤さーん。小麦さ、良い按配でできちょるね。うちのジャガイモば、いるか?」
「いつもありがとうございます。今年はいい出来ですよ。あっ、小麦持っていきます?」
僕はいたずら的な笑みを浮かべる。それに対して、おじさんは苦笑し、顔の前で手を振った。
「えがってえがって。小麦さそのまま貰っても小麦粉な変えれん。その代わり、週末、いつもの頼むな」
「りょーかいです」
そう答えるとおじさんは満足気にうなずき、またなと言っておじさんはトラックによじ登り、独特のエンジン音とともに去っていった。
「おっと、僕も帰らないと」
家では妻が待っているはずだ。娘も学校で給食の時間だろう。そう思い、マイトラックに乗って家路を急いだ
週末の朝、出来たてのパンを持って役場の前にやってきた。少し冷めているけどしょうがない。数が数だ。
近所の人からは野菜をたくさん貰っているが、僕が作っているのは小麦だったから、パッとお返しができるわけではなかった。でもそれではあまりに忍びないので、何か出来無いかと考えた結果が手作りパンを渡すことだった。小麦農家兼パン屋。それが僕のお仕事である。
すでに楽しみに待っていてくれた人に加え、後からも一人二人とやって来てくれる。一軒ごとに回って動くのは、とてもじゃないが時間がかかって出来そうになかった。なので仕方なく足を運んでもらっているが、今ではこれが楽しい。北の人は表情が凍っていると言われることもあるけど、食べ物を食べてみんなでお喋りしていたら、誰だって表情は解けていく。そんな状況を作っていれることがたまらなく嬉しいのだ。
五人ほど配った所でジャガイモのおじさんがやって来た。
「美味そうな匂いじゃなあ! 遠藤さんや、今日のパンは何じゃけ?」
僕はその質問を待ってましたとばかりに、自信満々に笑顔で答えた。
「今日のメニューはカレーパンですよ! 隠し味にユリ根も加えてます!」