少しの……
なんて、甘い話があればいいのに。
いやいや、ダメだろ。彼女いるもんね。
と言うか、そもそも甘い話もクソもない。俺の味覚を刺激するのは、得体の知れない〝苦味〟。唇にあるのはあたたかな感触ではなく、無駄に焼きたてほやほやの炭クッキー。
「……食え」
「うっ……」
突き刺さるような、光の消えた目で笑う夢。夢もこんな顔をするんだね。
俺だって好きでここにいるわけじゃない。死神ジョーカーが俺に微笑んでしまったのは、俺に運が無かったからだろう。でも、食べないのも失礼だよな。
「サク……」
「ど、どうかな?」
しっかりと味わって、感想を言う。
「あれ? 美味い」
「ほんと!? よかったぁ……」
◇◆◇
錬金部屋からの脱出に成功した俺は、今回の調査報告をするために部室へと向かっていた。体育館前のウォータークーラーでパサつく口の中を癒しているとき、体育館を使う部活……おそらくバスケ部の女子が話しているのが耳に入った。
「あの……なんだっけ? 最初はややこしい名前だったクラブあるじゃん?」
「あー、助け屋(仮)部でしょ?」
俺たち、そんなふうに呼ばれてたんだ。
考えたら、最近人助けなんて全然してないし、してても校内清掃ぐらいだもんな。
「噂だけど、あれ、消されるんだって」
「あって無いような部だもんね」
消される。廃部、ということなのか?
◇◆◇
「雷。食べて感想を聞かせてちょうだい」
「アドバイスとかも、お願い!」
「おぉ……ふ……」
「永海、夢、それはやめたほうが……」
「天町くんが死ん……危険だよぅ」
部室に戻ると、奇妙な風景が広がっていた。永海と夢が雷に炭クッキー(美味)を勧め、勧められた雷は断るに断れずに目を泳がせている。咲は雷を助けようと頑張り、香織は失礼極まりないことを言いかけた。
いつも通りの、見慣れた風景。
なのに、さっきバスケ部女子が話していたことが心のどこかに引っ掛かっている。
「久保っちゃん」
「久保っちゃんて呼ぶな。なんだ?」
「ちょっと……話があるんだ」