新部員と夢の過去を知るという話。その4
「ここ……か」
フルで走ったので、費やした時間は二分だった。
だが、この状況では一秒が命取りになる。
「部屋番号が……わからねぇ」
「「あ…………」」
俺は即座に携帯を開いた。 すると、メールを一件受信していた。
『差出人:永海@超絶ブリザード
件名:ドジな勇者へ
本文:部屋番号は952。
コードは26845よ。
早く助けてあげなさい。 走れ!』
永海さん、マジかっけー。 尊敬に値するわ。
夢のマンションは部屋番号でインターフォンを鳴らすタイプのロックではなく、部屋番号とコードで認証するタイプのものだった。
誘うときとか、どうするんだろ?
「開いたぞ! 行こうぜ?」
「ああ。 行こう!」「うん……」
◇◆◇
「メール、送ったわ。 よく思い出したわね」
「あいつら、すぐ行動するからね」
「そうね。 昔から……ずっと変わらない」
「あいつらなら、絶対助けるよね?」
「あなたの双子の兄と、私の彼氏よ? 大丈夫よ。 絶対に……ね」
◇◆◇
「さすが……九階だな」
「俺、高所恐怖症なんだよ……」
「天町……意外とビビり?」
「うん! 背中ザックリいかれた時、本当に心臓潰れるかと思ったよ! 今も潰れそうだよ!」
高級マンションのエレベーター。
まさかの全面ガラス張りで、常にひやひやする。
しかも上昇スピードが無駄に遅い。
◇◆◇
「はぁ……はぁ…………ここか」
952号室。
高雪の表札が掛かっているので、間違いない。
「ここに、コードを入力……と」
扉の液晶画面に、先程の数字を入力する。
微かにカチッと音がした。 解錠されたのだ。
俺は、静かに扉を開いた。
「これって、犯罪的な……ふごっ」
「仕方ないだろ? うん。 仕方ない」
部屋は、スッキリ片付いていた。
木の匂いがする、落ち着いた雰囲気の部屋だ。
何か……おしとやかすぎて、夢らしくない。
「あっ! あそこの窓が開いてるよ!」
「俺らはここで待つ。 香織……行ってこいよ。 サクッと解決してこい!」
◇◆◇
すうっ、はぁっ。 小さく深呼吸をした。
二人で話すのなんて、久々で緊張する。
ゆっくりとベランダに一歩踏み出すと、左隣から聴き慣れた声がした。
「夕焼け……綺麗でしょう?」
夢の……昔の声。 弾けていない頃の声。
「真っ赤……だね」
「小さい頃も、二人で見たよね」
「うん……」
「向こうに二人、いるんでしょ?」
「え?」
「優が気を使って、二人にしてくれた……違う?」
「……うん。 でも、自分の意志でここにいる!」
「知ってるよ。 私もね、いろいろ考えたよ」
「真似されたぐらいで、ねちねちして」
夢は息を吸い……
「お金持ちの娘なだけで偉そうなこと言って、弱いし、心狭いし、バカだし、本音も、ろくに言えないし!」
涙混じりに、全てを吐き出した。
「本音を言うと……仲直りしたいと思ってる」
「もちろん、私も思ってるよ!」
「でも、だめだよ」
「どうして……どうして?」
「香織……が、不幸になる……から」