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【2】似て意なる現実主義な住人

 隼は、窓のほうを振り返ったまま、言葉をなくした。

 突風は止み、花弁が床やベッドにまばらな模様をつくっていた。

 それは、まあ仕方ない、後で掃除すればいい。それより。目の前で不思議な現象が起きていた。


 ――目の前に、制服姿の少女が立っていたのである。


 肩下まで伸びた茶色い髪、やや当惑の色が浮かぶ涼やかな目元。同居人がいたはずの場所に少女が立っている。窓を締め、肩越しにこちらを見て、誰もがわかる位に大きく戦慄いた。

……突っ込みどころが多すぎる。隼は開いた口からとりあえず声を絞り出した。

「……あんた、誰?」

 出た言葉は間抜けな一言だった。


 少女は目元を険しくして、両の二の腕を抱いたまま、窓際に後退った。

「誰って。あなたこそ。……早く出ていかなければ声を出します、ここは女子寮ですよ」

 警戒・威嚇。少女の全身から、そんな二文字が読み取ることができる。この展開はさすがの隼にもついていけない。

 つうか俺、変質者扱いされてないか、これ。

「……や、ちょっと待て。落ち着けよ。この部屋を見てそれをいうか」

 変質者の3文字を払うように、隼は癖のある頭髪を掻いた。そうだ、落ち着け俺。

「え?」

 少女は弾かれたようにあたりを見渡した。

 その部屋は、机やベッドなどが2セットづつ置かれている、ごく普通の2人部屋仕様だ。ただ機能重視で飾り気がない。デスクトップPCのある机、少年が坐したベッドの上には先程まで吊るしていたのだろう男子の制服が1組。その足元には卸したてのようなサッカーボールが転がっていた。

 ひとことでいうと、女子寮というより男子寮というべきであろう。


「そんな、嘘……」

 少女はあたりを見渡し、信じられないと両手で口元を覆う。窓を背にしたまま、ぺたりと床に座り込んだ。いろいろ考えを巡らせているようだが答えが見つからないのか、瞳は宙を泳いでいる。

「だって私、ただ窓を閉めようとしただけで、こんなこと……ありえない」

 当惑して、つい漏れた科白といったところかもしれない。

 ここまで驚かれると、見ず知らずの異邦人?に対して同情に似た感情がわいてこないでもない隼であったが、

「(……『窓を』って?)」

 ふと違和感も覚えていた。同居人もちょうど窓を閉めたところではなかったか。

 目線を合わすようにしゃがみ、少女を見てみる。

 あまり考えたくないが、この顔。……似ている。


「ん……でもなんというか。多分、これは『現実リアル』だぜ」

 お互いにまだ半信半疑で、正直認めたくない「現実」ではあるが。


 暫く相手の眼を見つめて、少女がふっと困ったように苦笑した。

「こんな状況なのに、あなたは随分と落ち着いているのね」

「さぁ、どうかな。取りあえず、コーヒーでも飲みながら話そうか」

 少女の表情がすこし柔らいだことを確認して、隼は腰をあげた。


 部屋の隅にある小型冷蔵庫の上にマグカップとコーヒーフィルターを準備し、ゆっくりとお湯を注ぐ。コポコポという音と共に、部屋はコーヒーの香りで満ちた。少女は目を閉じてその音を聞いているようだった。落ち着いてきたのかもしれない。その様子を肩越しに確認した隼は、少し考えてるから冷蔵庫を開けた。


 「どうぞ」

 床に座ったままの少女の前にマグカップを差出し、少し距離を置き、自分も向かって胡坐をかいた。

「ありがとう。……あら?これって」

 少女は受け取ったカップを不思議そうに見つめる。少年のカップはブラックだというのに、少女のものは、コーヒーというよりカフェオレ色をしていた。しかもカップの温度は手で包み込んでも大丈夫な位の暖かさ、恐らく猫舌でも飲むことができるだろう。

「あ……違うのか。悪い。それ、牛乳半分と角砂糖2個で作ったんだ」

 少女は訝しげにそれを飲み、やっぱりと口の中でつぶやいた。

「やっぱり、この味。……どうして、私の好みを知っているんですか?」

 それは一つの可能性を裏付けるには十分な答えだった。


「……それは、あんたも薄々わかってきているんじゃない?」

 隼はカップを床において、ゆっくり目を見て告げる。

「あんた女にみえるけど。『初瀬椎那』、なんだろ?」

 目の前の少女は震撼した、肯定と受け取ることができるくらいに。


「やっぱり……。じゃあ俺の知っている『事実』だけをいうけど。

 俺には髪の短いあんたみたいな顔をした同居人がいて、あんたが現れる直前に、そこで窓を閉めようとしていた。といえば解る?」

「ちょ、ちょっと待ってください。私は確かに初瀬椎那ですけれど。確かに窓を閉めましたけど。でもそんな……」

 少女は口早に言いかけ、口籠る。でも、その頭の回転の速さも、動揺の仕方もよく知っている癖だった。

「なんつうか、非科学的なことは正直あんまり信じたくねぇけど。こういうの、SFだと平行(パラレル)世界(ワールド)とかっていうんだっけか」


 この状況をありていにいえば、【性別が逆の似て意なる「世界」の住人】と定義づけることができなくもない。

「そうやって、すぐ断定する所もまるで……。あなたがハヤミちゃんだとでもいうの?」

「俺はハヤト。漢字で書くと鳥のはやぶさ。多分そのハヤミってやつと同位置の人物になるんだろうな」

 逢ったばかりなのに、なんだこの他人のような気がしない無駄な親近感。疑いようもない。

「つまり、あなたと私の世界がなんらかの偶然で重なって、『初瀬椎那』という存在が入れ替わった……ということになるのかしら」

「そういうことになるな。信じたくねーけど」


 自称リアリストな2人の顔に、どっと疲れの色が浮かんだことはいうまでもない。

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