【1】どこまでも平行線な同居人
【試作・仮掲載】
以前作った友人との共同世界の物語のB面です。
試作につき、大幅に変更するかもしれません。
(掲載の仕方とか試してみたいこともあり、纏めてザックリ掲載します。)
どうぞご容赦頂けますと幸いです。
「常識」とは所詮人間の作った枠組みであって、真理ではない。
地動説を唱えたコペルニクス、万有引力のニュートン、進化論のダーウィン、相対性理論を唱えたアインシュタイン。彼らの法則は、なかなか受け入られなかったが、あらたな「真実」という名の宝刀となり、かつての常識を打ち破り、「世界観」を変えてきた。
そう、「当たり前」という名のレッテルはいつしか剥がされる。この世に、変わらないものなど何もないのだ。
☆ ☆ ☆
月見里学園。小高い丘に位置するこの学園は、駅近の大学部から順に、山間へと向かって幼等部・初等部・中等部・高等部と続く、学びの苑である。中でも最も高台にある「高等部」は全寮制となっており、その人里を遠く望める風光明媚な景色から(さらにヒトによっては「あちら側」が見える程?の長距離煉獄坂の先にあることから)、天上界などと呼ばれていた。
春。厳しい冬を乗り越えた高等部の男子寮にも、遅咲き桜が春の香を運んでいた。黒い猫目の少年・月桂隼は、201号室の窓を開けた。柔らかな風が頬を撫で、桜の花弁が歓迎するように彼の掌に収まる。
「ん、ただいま」
小さく笑い、窓枠に凭れ外を眺めた。外は霞か雲か、満開の桜並木。
不思議なものである。この西陽のあたる日向くさい寮部屋も、都会の喧騒を忘れさせる自然に満ちた穏やかな景色も、非現実的すぎて絶対馴染めないと思った1年前。外部入学した時は「3年の辛抱」と飛び込んだはずだったのに。いつの間にかこの部屋が自分の居場所になってきている。この世に絶対などいうものはないのかもしれないと、自嘲気味に笑った時である。
ふいにぴゅうと風が吹き込んできて、烏羽色の癖毛を大いに乱していった。背後のドアが開き、風が部屋を通り抜けたのだ。長くなってきた前髪を掻きあげ、屋内を見ると、茶髪の少年が扉を開けたところだった。
同室者の初瀬椎那である。また眉間を寄せている。
隼は内心溜息をついた。この堅物はやたら小言をいう。今日も何かあったのだろう。廊下を走る輩がいてとか、歓迎会劇で生徒会が女装をとか。
生徒会書記である同居人は、無言で窓際に近づいてきて、隼を忌々しく睨みつけながら窓枠に手をかけた。
言いたいことがあれば言えばいいのに。人類は何のために言語という伝達手段を手に入れたのか。隼は相手を観察するほうだが、自ら理由を訊きだすほど世話を焼く必要はないと考えていた。だが沈黙への耐久性が低かった。
ゆえに、口火を切るのはいつも猫目の少年のほうだった。
「帰ってきたら、まず『ただいま』と挨拶しなさい、って習わなかったのか?」
その言葉で、椎那は更に眉間に皺を刻む。だが腫物に触るような態度をとらないところが隼である。
「……ただいま」
そして同居人が変な所で律儀なことも認識していた。
「はい、おかえり。まったく、うちの同居人はしょうがないよな」
とわざと独りごとをいってみたが、我ながら嫌味くさかったので付け加えるように言った。
「それよりさ。桜、綺麗だろ」
軽く流して窓際を離れる。言いたくないなら適当に流すに限ると思ったのだ、が。
「……君の気まぐれで部屋の中を花びらだらけにされたお陰様で、心の底から綺麗だとは言えないのが残念だよ。」
と、雲行きの怪しい言葉が返ってくる。八つ当たりされている感がぬぐえない。
「ちなみに、ここの掃除は隼がするんだろうね?」
「は?今日の当番は椎那だろ」
見れば、たしかに絨毯にもベッドにも、花びらが落ちている。だが、自然に満ちた立地ならば当たり前な事態といえる。だからわざわざ担当まで決めて毎日掃除しているのではないか?なぜ担当云々の話が敢えてここで出るのか、理解不能である。
隼は同居人を毛嫌いしているわけではないが、視点や考え方の相違から、どうにも反りが合わないところがあった。椎那も恐らくそうなのであろう。そのため、小さなことで口喧嘩になり、嫌味の応酬が日課となっていた。ツンドラ201号室なんて名がついたのもそのせいかもしれない。
今も、椎那のみるみるうちに吊り上がる眉を見れば、そんな反論が意味をなさないことはこの1年で学習済みである。半ば面倒くさくなってきた隼はそこで観察を打ち切り、背を向けた。あーもうどうでもいい(……)。きっとまたこの後あいつは癇癪を起こして口論になるのだろう。ヒステリーは女の特権って誰か言ってなかったっけ。ああ、いっそ消えてくれればいいのに。
と、心の中で毒吐いた時である。
なにか声が聞こえた気がした。
そして次の瞬間、背後からごぉっと突風が吹きこんできたのだ。
「?!」
強風に煽られ机の上に積んでいた雑誌がバサバサと音を立てる。頭に覆いかぶさってきた、ハンガー付きの自分の制服を引っ剥がし、何事かと窓を見る。
春の嵐ってやつか?否それよりも、早く窓締めないと。
これ以上掃除量を増やしたら、同居人は間違いなく怒り心頭、被害は一晩では済まないかもしれない。
直ちに振り返り、おい!と言いかけたところで、隼は声をなくした。
床に積もった大量の花びらが目に焼き付いた。
A面との分岐前のシーンです。
どんなふうにかいていたっけ。
文章の書き方をまず思い出さないと。とかいいつつな仮掲載です。