1−(−1)=2の証明
中学校くらいで習いますよね?「マイナス」の引き算。
例えば、x−(−y)とか。
書き直すと答えはx+yという風に解釈できますけど、どうしてなんでしょうか?
この小説はまあそれを心理描写とかを使って表していこうみたいなものです。
ちなみに数学的に考えては行けません。
僕のイメージだけで書いたものです。
正しい証明に関してはプロにでも聞いてくださいね。
高校生にそんなの解る訳ありません(笑)
1+1は2である。
しかし、なぜ1−(−1)も答えは2になるのか。
それは――。
☆
「凛弥くん、遊ぼうよ!!」
俺の聴覚は、とても要らない声を拾ってきた。
声の主は分かっている。
でも、つい反射的に振り返ってしまった。そこに居たのは。
くるくると巻いた長い茶髪に、ぱちくりと開いた丸っこい目、とまあ客観的に見れば美少女なんだろうが、俺にとっての敵。
それが、優里矢理亜だ。
無論すぐに何事もなかったかのように前に向き直り、早歩きで去ろうとする。
たとえこいつが何て言おうと、俺は完全無視を決めると、一ヶ月前から心に決めていた。
こいつのせいで、一度死にかけたあの日から。
「凛弥く―ん?鈴野凛弥くん?聞こえてるでしょ?」
気安く俺の名を呼ぶな。
そう思った俺は、再び振り返って、一言。
「黙れ。俺はお前と関わらないって決めてるんだ」
それを聞いた理亜は、少し傷ついたような表情をした。
……いくら何でも、言い過ぎただろうか。
ふとそんな微かな罪悪感が過った。
「どうして……?まさか、まだあの日のこと恨んでるの……?」
理亜は沈痛の面持ちでそう呟くように問いかける。
"あの日のこと"というのは一つしかない。
「ああ」
俺は頷いた。
"あの日のこと"……それは……。
それは一ヶ月前のことだ。
先月の調理実習の授業の時。
俺、鈴野凛弥と優里矢理亜が高校二年生、同じクラスで、班も同じだったため、同じ調理台で料理を作っていた。
その時理亜は、湯を沸かしていたのだ。
そして、その後ろを俺が通り掛かろうとした時と。
理亜が湯を沸かしているやかんを運ぼうとするのは同時で――。
当然、ぶつかった。
理亜はその拍子にやかんを落とし、俺は驚きあろうことか、バランスを崩し尻餅をつく。その上に"熱いお湯の入ったやかん"が――。
その後は思い出したくない。
俺はこの日から理亜に関わるとろくなことがない、と思うようになった。
見事なトラウマの原因である。
以後、俺は理亜に話し掛けられても口を聞かず、一ヶ月無視し続けた。
――そして、現在に至る。
「だから、あれはタイミングが悪かったんだって!」
理亜は言い訳がましく言ったが、俺は淡々と、
「でも、あの時すぐに謝らないでその場から逃げたよな?」
「うっ……そ、それはつい……パニクっちゃって……」
痛い所を突いてやると、理亜は口を濁して黙ってしまった。
俺は、「話はこれで終わりだ」と言い、身を翻して立ち去ろうとしたが――。
「ちょっと待って!!」
いきなり叫びながら俺の服の襟を掴んでくる。
「あででででででででで……!!……って何すんだ!!」
襟を掴む理亜の手を振り払い、俺は理亜を睨み付けた。
すると理亜は俯き、
「あの……あの時はごめんね……許してくれなくていいからさ……」
「……なんだよ……?」
理亜の言葉に警戒心を高める俺。
だが、理亜は俺にとって驚愕の一言を発してきた。
「だから、今日一日だけ付き合って欲しいの。もう、それからは話し掛けないから……」
「は?」
つい聞き返してしまったが、そんなことをよそに理亜は言葉を紡ぎ続ける。
「今日だけでもいいから……前みたいに仲良くしたいの……」
そう言う彼女の頬は紅く染まっていた。
「……えぇっと……」
俺は、すぐに断ろうとしたが、理亜の言葉によってそれが出来ずにいる。
――前みたいに仲良くしたい――。
俺と理亜は幼馴染みで、あの日まではとても仲が良かった。
そして、それまでは理亜に、"友達"に対する感情とはまた異なる感情を抱いていたのだ――。
その思考に後押しされ、ついに言ってしまう。
「……ああ。……今日、だけだぞ……」
それを聞いた彼女の表情は、満開に咲いた花のようだった。
☆
それから、俺は理亜に連れられ、まずはゲーセンに行くことに。
ゲーセンに着くまで、俺はずっと物思いに耽っていた。
本当に、俺は理亜と二度と関わらなくていいのか。
確かにかつて、俺は理亜に友達に対する感情とは異なった感情を抱いていた。
――"好き"という感情を。
その感情を抱いたまま、俺は彼女から遠ざかろうとしている。
いつかに聞いたことがあるのだが、"好きな人には、つい嫌いみたいな態度を見せてしまう"。今まさに俺が抱いている感情はそれなのか。
好きという感情が辛いから、嫌いになってもらおうとする。
自分の"好き"という感情を意図的に"存在しない感情"という風に勝手に解釈し、変わりに"嫌い"という感情を埋め込んでいるだけなのか。
「着いたね!」
理亜は明るい声で言ったが、俺は物思いに耽っていたため反応に遅れた。
「ん、あ、ああ……」
歯切れが悪いみたいになってしまったな……。
しかし、理亜はそんなことは気にせず、
「凛弥くんとゲーセン行くのって……いつ以来かな?」
理亜は上目遣いに俺の顔を覗き込んでくる。
その理亜の行動に俺は心臓の鼓動が跳ね上がったのを感じた……気がした。
「なっ……さ、さあ……分からねぇよ……っ」
上手く呂律が回らない。
顔が火照るのを感じる。
どうしてなのかは……分からないが。
理亜は長い茶髪を揺らしながら、
「うん、まあいっか。今日を楽しもう……ね」
言葉の始めは垢抜けた声だったが、後半はどこか陰りのある表情でそう言った。
語尾が弱々しくなったのは、恐らく――。
――『今日一日だけ付き合って欲しいの。もう、それからは話し掛けないから……』
自分自身が言った台詞を思い出したからだろう。
俺は、それで満足なはずなんだ。
だって、前に理亜のせいで酷い目に合ったから。
距離を取って当然、なのに――
――この寂しさは何だろうか。
その思念の残滓を無理矢理振り払い、わざとらしく明るい声を出して理亜に語りかける。
「じゃあ、どこから行く?」
「UFOキャッチャー!!」
即答だった。
先ほどまでの陰りはどこへやら。
その表情には曇りのない純粋な笑顔。
俺は、溜め息をついた。
「分かった分かった、UFOキャッチャーだな」
「うん!!」
☆
この時、俺は気づいていたのだろうか。
――思念の残滓を無理矢理振り払い、わざとらしく明るい声を出して――。
どうして、わざとにせよ明るい声を出す必要があったのか。
理亜に何か考え事をしていることを気づかれたくないから?
理亜の不安の表情を見たくないから?
どうしてなんだろうか――。
☆
「うぅ―……取れないっ!!」
理亜は俺に突っ掛かってきたが、俺は関係ない。
「お前が下手なだけだろ。ほら、どう落ちるか予測をしながらやってみろよ」
「どう落ちるか?難しいよ―……う―ん……」
理亜は複雑そうな表情を浮かべている。
そして、ちらりと俺の方を見て、
「じゃあさ、凛弥くんがやってよ―!私無理だもん!!」
「え―……」
俺に頼ろうとしてきたので、わざと身を引いてみた。
そう、わざとだ。
理亜に頼られるのを、少し嬉しく思っている自分がいたから。
それと同時に、もしかしたら前のような関係に戻りたい、という感情を抱き始めていた。
彼女に頼られるのも悪くない。
――むしろ、それが本望だ――。
「あ―……はいはい、分かった分かった」
俺は諸手を挙げて理亜の意見を認めた。
「やったぁ!!」
理亜は俺に笑顔を振り撒く。
その純粋な表情に俺もつい頬を緩ましてしまう。
しかし、すぐに無理矢理表情を堅いものにして、理亜に話し掛ける。
「で、このぬいぐるみでいいか?」
俺が指差したのは、ちょっと大きめのクマのぬいぐるみだった。
そのぬいぐるみは、結構穴に近い位置にある、が……。
我ながら、チャレンジャーだなぁと思う。
「うんうん!頼んだよ!!」
……頼まれてしまった。
ここまできたらもう後には戻れない。
俺は100円を入れて、UFOキャッチャーを動かす。
そして、UFOキャッチャーに全神経を集中させる。
「まずは……左に……」
左に動かすボタンを押す。
それに応じて、クレーンが左に動いた。
結構良いポジションだ。
そして次に上へ動かすボタン(俺から見たら前へと動くのだが)をゆっくりと押す。
クレーンも前へと移動した。
すると、クレーンが勝手に開き、そのまま降りてぬいぐるみに触れる。
俺は、あえてクレーンの位置をぬいぐるみの少し出前にしていた。
なぜなら――。
クレーンの腕の片方がぬいぐるみに触れる。
そして、クレーンが閉じる時、腕がぬいぐるみに引っ掛かり、倒れた。
そのまま転がり、穴の中にホールインワン。
これが狙いだったのだ。
まさか上手くいくとは思わなかったが。
「……ま、こんなもんかな」
俺は高揚する気持ちを押さえつつ、さも当然といった様子を装って言う。
「わぁっ、凛弥くんすごい!!」
理亜は、垢抜けた笑顔で俺の手を握って跳び跳ねた。
「ん、ああ、これくらい……」
頬が熱くなるなのを感じる。
俺は照れ隠しするように、手を無理矢理に放し、UFOキャッチャーの中からぬいぐるみを取り出す。
そして、それを理亜に渡した。
「ありがとっ!大事にするね!」
「あ、ああ……」
理亜から感謝されたが、俺の心は曇ってしまう。
――もし、今日が終わると、彼女との思い出の形は、あのぬいぐるみしか残らない。
それだけは、嫌だった。
感情が否定しているのかもしれない。
俺の理性を、俺の上っ面な言葉を。
その後も、理亜と色々なところに行った。
一緒にプリクラを撮ったり、カラオケに行ったり。
もやもやした心を抱きながら。
☆
そして夕暮れになり、俺達は分かれ道の前にいた。
今日が、終わろうとしている。
「今日は、ありがとうね……」
理亜のその声には憂いの感情が含まれていた。
俺は、何も言えずにいる。
最初はあれだけ嫌がっていた理亜との行動に、今はとてつもない寂しさがあった。
そう、時々感じていた寂しさの正体。
理亜と接している時だけ感じていた寂しさの正体。
それが、やっと分かった。
――俺は、まだ彼女の事が好きなんだ。
好きという感情が辛くて、違う方向に勝手に解釈して、本当の気持ちから避けてきただけ。
「たとえこいつが何て言おうと、俺は完全無視を決める」というのも単なる意地。
本当は、もっと話したくて、一緒に居たくて、ずっと仲良くしたい。
だが、分かれ道で彼女と別れてしまえば、二度とすれ違うことが無くなってしまう。
それだけは、嫌だった。
「さよなら、凛弥くん――」
「待て、理亜!!」
もう、自分自身の感情からは逃げない――。「……?」
理亜は少し驚いた様子で俺を見る。
俺はそんな理亜の様子に構わず言葉を続けた。
「なあ……はじめに、俺が言ったこと、取り消せないのか?」
「……それは、どういう……」
理亜は思考すら働かないのか、虚ろな声で聞いてくる。
その時、俺は恥を覚悟して、思いをぶつけることに決めた。
「お前と、また一緒に居たいんだ!ずっとずっと二人仲良くしていたい!!最高の友達でいたい……!!」
その熱で目玉焼きが出来るんじゃないかと思うほど、顔が赤くなるのを感じた。
「……っ」
理亜の葛藤するような表情が一瞬見えたかと思うと――。
「――ぶっ!?」
いきなり、ぶん殴られた。
あまりの突然な行動に、異議を立てようとした……が、やめた。なぜなら――
――彼女が、辛そうな表情で泣いていたから。
「今更何……?私がどんな思いであの言葉を発したと思うの!?凛弥くんは……っ」
そこで言葉を切り、激しく流れ続ける涙を撒き散らしながら、彼女は叫んだ。
「凛弥くんは、女の子の気持ちなんて全く分かっちゃないっ!!」
長い茶髪を揺らしながら、理亜は叫んで、走り去ってしまった。
分かれ道の先へ、彼女は自ら進んでいく。
それを俺は止めることは出来ず、ただ立ち尽くしていた。
――私がどんな思いであの言葉を発したと思うの――……
頭の中で彼女の言葉がリピートされる。
彼女は、あの言葉をどんな思いで発したんだろう。
記憶を手繰り、思い出す。
『今日一日だけ付き合って欲しいの。もう、それからは話し掛けないから……』
……ひょっとすると、彼女も俺から距離を取ろうとしたのか。
もしそうなら……今の俺と同じような心情かもしれない。
「……よし!」
追おう。
俺には女の子の気持ちは分からないけれど。
俺と同じような心情だったなら、彼女のことも少しは理解できるかもしれない。
☆
私、優里矢理亜は走り続けていた。涙を流して、嗚咽を漏らしながら。
本当は凛弥くんのことが好きだった。友達としてじゃなく、一人の男の子として。
でも、あの事以来、彼は私を避けるようになってしまった。
どうにかしなきゃ、どうにかして彼と仲直りしなきゃ、と思ったけれど、そのまま一ヶ月が過ぎてしまう。
そして昨日、どうしても私は彼と一緒に居たいから、ある行動をすることにした。
それが、今日だけ前みたいに仲良くしてそれ以降は会わない、というものだ。
私はそれでも良かった。彼との思い出が作れるだけで。
けど、彼のあの言葉に私の心は激しく揺さぶられた。
『――お前と、また一緒に居たいんだ――』
その言葉に対して私は嬉しさよりもまず沸き出した感情は、怒りだった。
軽々しくそんなことを言う凛弥くんに対して、そして私自身に対しての、怒りを。
その怒りを抑えきれず、いけない、と思った時にはもう彼を殴ってしまっていた。
初めて。人を殴ったのは。
しかも、その相手が大好きだった人なんて。
最悪な、……別れ方。
もう二度と、会えないのかな。
……まあ、私が悪いんだけど、ね……。
そう思うと、さらに涙が溢れてきた。
「分かっ、んない……何で、こんな悲しい、んだろう……っ」
嗚咽を漏らしながら無理に言葉にしようとしたせいで、途切れ途切れに言葉が漏れる。
――悲しくても……もう、どうしようもない。
もしかしたら、さっき凛弥くんに言われた事を受け入れていたら関係も元通りになったかもしれないけれど。
所詮、過ぎた事なんだ。
「さよなら……凛弥くん」
私は走るのをやめて、ほとんど無意識に持っていたぬいぐるみを落とし、とぼとぼと歩き去る――
「理亜……!!」
――その時、声が聞こえた。
さっき全ての思い出を捨てようとした人の声が。
幼馴染みとしてずっとずっと聞いてきた声が。
大好きだった、彼の声が――。
「……どうして?」
私は、彼に問い掛ける。
凛弥くんは、私の問い掛けに戸惑うこともなく、芯の通った声音で言った。
「さっきは悪かったな。あんな浅はかな事言って……な。でもな、俺は気付いたんだ…………やっぱりお前と離れ離れになるなんて耐えられない。意地だったんだよな、あれは。否定してたんだ……自分自身の気持ちを。二人でずっと仲良くしてたはずなのに、あんな些細なことで距離を取るとか、有り得ないのにな」
「……どうして……」
私は、同じ言葉を呟く。先程とは違う意味を含めて。
「どうして……また、そんな事言うの……?」
枯れかけていた涙が再び零れる。
その涙は頬を伝い、アスファルトの地面に落ちて、その部分を湿らせていく。
「そんな事言われたら……私、君と離れられないじゃん…………」
私は、感情を抑えきれず、凛弥くんに抱きついた。
彼は、抱きついた私の頭を優しく撫でてくれて、そして言う。
「……ぬいぐるみ、忘れるなよ。俺、頑張って取ったんだから……」
「うん、忘れない……大切な思い出だもん……」
☆
1+1は2である。
しかし、なぜ1−(−1)も答えは2になるのか。
1という一つの存在を否定することで生まれる、−1。
もし、そのままにしておけば、答えは0になり、何も残らない……が。
−1という存在をさらに否定することで、1という存在に戻すことが出来る。
その1を元の1に取り込む。
そうすると答えは2となるのだ。
さらにその2は、1+1=2の方の2より強固なものとなり、離れる事はない。
これが、1−(−1)=2の証明。
〜END〜
後書きの存在意義って何だろう、と疑問に思ったことはあります?
それについては様々な小説家が自分の答えを出していますが、僕の答えはこうです。
「作者の違う一面を見るための文」
すなわち、僕逹の違う一面を見る場所な訳ですこれは!
……という訳で、小説とはまた別の証明をやってみようと思います。
皆さんは、「走れメロス」という小説を知ってますか?
それの最後のシーンとして、メロスをセリヌンティウスが殴るというシーンがあります。
殴った(殴られた)後、メロスとセリヌンティウスは両方とも笑っています。
これがどういうことを示しているか解りますか?
メロスはMでセリヌンティウスはSということなのです。
メロスはマ(M)行から始まっているし、セリヌンティウスはサ(S)行で始まっているし、太宰さん確信犯だな!!と思ってしまうのも仕方ないですよね!(笑)
はいごめんなさい。
ではでは、次作が出来ればまたそこで会いましょう〜(^^)b