2件目 とりあえずの棒倒し
このお話は。実在の人物や団体などとは関係ありません。きっと、妄想力が現実に近いだけなんだよ。
さんさんと照る太陽が輝き空の青さを際だてる、みずみずしい草原は風に揺られながら海原のように彼方まで続いている。振り向けば茂る木々が生命の力強さを示すように天へと延び、その下には森の中を隠すように藪が覆っている、まるでここではない世界との境界を塞ぐように……。
やぁ、豊山秋だよ。気付いたら、草原と森の境界の道の上にいた28歳、もうすぐヤラミソなんだ。え?何のことかって、ヤラハタの上級職だよ。
しかしこれはこまった、正直何から考えればいいかわからないんだよね。
配達してたら急に場所が変わった。これから導き出されるのは…。
配達中は夜だったが、今はどう見ても昼間だ。本人に気がつかないうちに地球の裏側に移動させることが出来るなら此処は地球のどこか。…ないな、気付かないわけない。
実は曲がった瞬間事故にあい負傷、現在は病院のベットで目覚めることを待っている。見てる夢がこの風景。これも無いな、無いとは言い切れないが無いと信じたい。
ゲームのように誰かに召喚されて来た、実は伝説の勇者的な何かで秘められたパワーで見敵必殺。一番ないな、呼ばれた感じも秘められた力も感じない。何より召喚した人間が一キロ圏内に居なさそうなこの現状が無いわ。
単純に事故、理由もないけど義務もなくこの世界に流れ着いた。最悪だな、だが一番ありそうな気がする。
さて、どうしよう。
セオリーで言えば。きっと歩いていると、悲鳴が聞こえて向かうと接敵。この世界のハウツーを教えてくれる美人でバインバインがゴートゥ町な流れだろう。ゲームじゃこんな感じだったしとりあえず移動しよう。
問題はどっちに行くべきか、おそらく居世界の第一歩だどっちに行っても先は分からない。ジャイロで行けるとこまで行くんだ。冒険の始まりだ、棒が倒れた方に行こう。
「よっし」
掛け声一つ、僕はジャイロを降りて棒を探す。さがす…探しているんだが、どうやら森に踏み込まなければちょうど良いのがなさそうだ。
短いのでやるのも何か嫌だ、しょうが無い。僕は手袋を取り、腰に付けたお財布バックから適当に硬貨を取り出す。お、500円玉だ幸先良いといいな、頼むよ。祈念して親指で弾く、高く高く飛んだ硬貨は日の光を受けながら道の先側へと落ちて行く。
「このまま、直進」
ジャイロの正面に落ちた硬貨を拾いながら、何だか無性に顔がゆるむ。
にんまりと顔が形づくのが分かる。楽しいのだ、降ってわいたこの奇妙な体験が。
思いがけない非日常に、僕は確かに興奮している。
jirujirujirujiru
着ていた、ヘビージャケットのジッパーを下ろし、防寒具を外していく。脱いだネックウォーマー、ヘビージャケット、手袋をとりあえずしまうおうとジャイロのキャノピーの蓋を開ける。
何故か蓋を開いた収納スペースは、黒い空間になっていた。
「はれ?」
原付きに許された積載スペースぎりぎりに作られているそこには、持っている衣服ぐらい余裕で入るスペースが有るはずだった。しかし、目の前には黒い幕のように蓋のすぐ内側に黒い何かがある。
「…これ、…入るのかな」
呆然としていると、突然黒い幕から、触手がの様な線が飛び出てきて防寒具に纏わりつく。すごい力で引っ張られ全て、黒い空間に入って行った。バタンッと蓋が閉じ。何事もなかったように風だけが吹いている。
「いやいやいや、おかしいよっ!」
あわてて、蓋を開けて中を見る。…幕。
「どうすんだこれ、出せるのか?だせるよね!?」
手を入れようとした、瞬間。
ペッ
防寒具が飛び出てくる、開いた蓋の上にトサッと落ちる。…え?まさか。
「収納」
べロンッと触手が飛び出てしまう。
「解放」
ぺッ
トサッ
「入れて」
ベロンッ
「出して」
ペッ
これは、もしかして。RPG的な?どうぐ的な?もちものでアイテムか?マジかっ、すげぇじゃん!
お財布バック
配達員の腰につけてる青いあれ。革っぽい素材に中は4つに仕切られている。この仕切りをどう活用するかで結構性格が出る。
ヘビージャケット
寒い冬の味方ギリギリ傘がいるかもな雨なら通さないタフさと温かさを保つ優しさを持つ。その形状から良くジッパーが壊れやすい。壊れたモノを着ると途端に隙間風が入り込むダメジャケットになる。
手袋
会社至急品もあるが、それは所謂軍手なのでけっこー冷える。秋は自前のモノを使用
ネックウォーマ―
これも支給してくれたら言うことなし。だが、持ち出し。ジャケットの兼ね合いであまり厚いものを選ぶと着用禁止を食らう。気をつけろ!