1件目 ピザヒザピザ
「こんばんわ!ドミーラ・ハットです、ご注文のピザをお届けに……」
ピザの配達は、迅速、安全、親切が大事だ。ご注文いただいた商品を一秒でも早く、配達地域を安全に走り、お客様に対しては笑顔と気配りを忘れない。そんな仕事を僕はアルバイトながら10年続けている。
最初は、原付の免許を取って嬉しさと時給に惹かれ、次に仕事にやりがいを覚えて、今となっては小遣い稼ぎを兼ねた気晴らしになっている。昼間は別の仕事をしているが、どうにもこのデリバリーをやめるきっかけがつかめないのだ。
「秋くん、羽山東、富士見松、作平お願いね!」
帰店、して報告すると、店長から次のデリを支持される。店長は27歳の新人さんで、僕と同い年ということもあり良く話をする。忙しい中でもしっかりと指示を出せる頼れるひとだ。
土曜の夕方、三件連続は良くあることで、慣れない人がテンダーに入ると直ぐにBコールになってしまう。因みにBコールとは通常の30分配達から、A、B、Cと順にそれぞれ10分づつお時間を頂く時間だ。みんなも注文の時にいつもより長めに時間を言われたら察してほしい。
「ハトン、フジ、サク。サイド持ちました、安全運転で行ってきます!」
コールしながら、店を出てピザをジャイロに入れる。通称ドミーラジャイロ、ホンダのジャイロに屋根を付けデリバリー仕様にしたものである、最近では配達といえば三輪のバイクのイメージがあるがデリバリーの三輪バイクはドミーラハットの初期から活用していたためそのイメージの定着に一役買っていたのである。
そして今僕が乗っているこのジャイロはモデルチェンンジ前の1994年から現役の骨董品であるエンジンを変えるか廃車か危ぶまれているこいつは。
半ば、僕専用としてこの店の地位を得ている。人の出入りが激しいデリバリー業界、僕もコイツもずいぶんお古だなと変なシンパシーを持っているのである。僕がデリをやめるとすれば、こいつがおしゃかになるときかな何て思っていたりもする。
「本日26分で豊山がお届けしました。」
三件目の配達を終えて、帰店しようとバイクに跨り、ネックウォーマを引き上げ、ヘルメットをして手袋をする。真冬はジャイロのフロントスクリーンごしでも寒さが堪える。寒いのは嫌いではないが、体が冷えるとトイレに行きたくなってしまい配達がきつくなるし配達の時間も遅くなってしまうので無駄に体を冷やさないのはデリバリードライバーの矜持である。体の眼しか肌が見えなくなってもしょうがないのである。
鍵を差し捻り、パーキングロックを解除しエンジンをスタートする。周りを確認後なめらかに発進させ、最初の角を曲がるために体を斜めに沈ませた瞬間。
目の前が草原になっていた。
kyurukyurukyuru
あわてて、ブレーキを握りこみ停まる。
「…うぁーお」
何だこれは、後ろを見る森にそって道がゆるく曲がりながら続いている、左は森、右は地平線、正面も道と地平線。
あれぇ~?
どうしてこうなった。
ドミーラハット
ドミーラ!お届け!
ド、ミ、ラ、ハット!
ド・ミーラピザ!
何て言うCMが流れたり最近全世界10000店超えてみたりしている。