Because 授業で恥をかかされたので、次のテストで無双します
「じゃあ、この問題を、靖端」
その余計な一言が、俺の優雅なる睡眠を妨げた。
「は……?」
うつ伏せの顔をゆっくり起き上がらせながら状況を確認する。
えー、現状確認しました。
『最悪』です。
俺は微睡んでいるのがバレて、どうやらこの難問の回答役へ抜擢されたらしい。
俺を選んだのは、俺に恥をかかせたかったからに違いない。
恐る恐る問題に目を通しても、全く回答は思い浮かばない。
『I don't mind waiting while you try to figure it out』
──全くわからん。
いや、でも、沈黙はまずい。何か喋らないと。
「えっと……私はあなたが……figure?数字?がわかるまで、待っていることを気にも留めない……?」
そう俺が俯きながら言い放った瞬間、俺を取り巻くように座る生徒どもが、一斉に吹き出した。
この瞬間、一つだけわかったことがある。
それは、俺の回答が間違いだったということ。
「惜しくないな、それは。完全な誤訳だな。……え?みんな、これは誤訳だよな?」
先生がわざとらしく生徒に聞き返す。
奴らが笑うのを必死に我慢しているのがわかる。
もう一度考えようともう一度問題用紙と向き合ったが、焦りと羞恥に溺れた脳内では、一向に新たな回答は生まれなかった。
体が暑い。
もういい、俺の負けだ。
「わかりません」
「ったく、ちゃんと授業は聞いてなさい。答えは、『私はあなたが理解できるまで待ってあげるのは全然構わない』だ」
その回答に、もう抑えきれなくなったのか、奴らはまた、一斉に笑いだした。
何がおもしろい……
そのとき、俺は胸に誓った。
必ず、この雪辱を果たすと。
もう一度視線を問題用紙に落とした俺は、その端を握りしめながらに誓った。
──────────
その日から俺は、死ぬ物狂いで勉強を続けた。
Because,この復讐を果たすためには、1週間後の学力テストで、英語で満点とるくらいしか方法はない。
そのために俺は何ヶ月も今のよりハイレベルな単語帳と、参考書を新調した。
あの一件、俺が悪かったのは理解している。
でも、あんな仕打ちはないだろう。
クラス全員で俺を笑いやがって。
アイツらは、何かに必死で打ち込んでいるやつのことを冷笑するのが大好きだ。
次の学力テストは、来年、特進コースに入りたい俺にとって、一番大事なテストなのだ。
このテストの成績で、来年のクラスが決まる。
だからこそ、俺はずっと前から必死に勉強した。
休み時間も、移動中も、昼食中も。
そんな俺が、あんな間違え方をして、心底メシウマだったのだろう。
許せない。
いくら俺が悪いからって、こんな仕打ちはあんまりだ。
証明してやる。
俺のこの努力が正しいと。
俺が学年一位をとって、俺がこの学校の王になって、俺の全てが正しかったと肯定させてやる。
胸にその覚悟を刻み、今日も単語帳片手にボッチ飯を完遂した。
『He travels the fastest who travels alone.』
(訳:最も速く旅をする者は、一人で旅をする者だ)
──────────
そしてついに、テスト当日。
英語は最終科目だ。
ここまで、得意な国語はいつもどおり、苦手な数学も今回はよくできた。
後は英語、お前だけだ。
「始め」
監督官の冷たい声を境に、皆が一斉に筆を走らせる。
そんな中でも俺は焦らない。
深呼吸し、ゆっくりとページを開く。
目に入り込む、無数の異国の言語達。
今までは暗号のように感じられたそれらも、今は母国語と変わりないほどに、スルスル頭に入ってくる。
周りは1文目で眉間にシワを寄せているのに対し、俺は顔色一つ変えずにシャープペンシルを操る。
これが、俺とお前らの差だ。
どうしてここまで差が広がったのか?
Needless to say,お前らが俺を嘲り笑っている間も、俺は信念を貫き通したからだ。
さぁ、結果が楽しみだ。
テスト開始から32分。
カチャンッと、ペンが机とぶつかる音を教室に響かせる。
残り28分を残して、早くも解き終わった。
今までの俺なら、睡眠不足を補うために、ここで昼寝でも初めていただろう。
However,今日の俺は一味違う。
残りの時間、みっしりと見直しを続ける。
確実に満点をとる。
そのためのこの一週間だったのだ。
これくらいの時間、振り絞ってでもやり尽くしてやる。
隈無く問題を見直してると、2問、凡ミスを発見。
見つけれとよかったと、そっと胸を撫で下ろす。
そうしている内に、テストの終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。
「止め」
止められたペン先と共に、奴らは心からの絶望を吐き出し始めた。
「マジむずくね?」
「いやマジそれなー」
確信。
勝利を確信する。
テスト返却が楽しみで仕方なく、胸の高鳴りが収まらない。
俺はあえて自信なさげにテストを提出し、薄ら笑いながら帰路に着いた。
──────────
待ちに待ったテスト返却当日。
天気は快晴。少し風が強いか。
いや、そんなことはどうでもいい。
早く、早く結果が知りたい。
「じゃあ、順番に取りに来ーい」
あぁ、こいつが採点中、俺の急激な進化に顔を顰めたところを想像するだけで笑いが止まらない。
「靖端……ッチ」
こいつ、舌打ちしやがった。
ま、悔しかったんだろう。
あの日、あれほど俺をコケにしておいて、満点を取られるとは、夢にも思わなかっただろう。
「ありがとうございます」
一ミリも持ち得ない感謝を投げ捨て、席に着く。
「フー」
まずは深呼吸。
止まらない手汗を染み渡らせながら、ゆっくり、かつ素早く、回答用紙をめくり上げた。
『──98──』
落胆。
その二文字を見た瞬間、膝から崩れ落ちた。
よく頑張ったさ、でも、満点しか視野になかった俺にとって、到底満足いく結果ではない。
悔しさが故に、今度は涙が回答用紙を濡らす。
たった一つの間違いは、まさかの時制間違い。
クソォ、あんなに見直ししたのに……
流れる涙を必死に堪え、模範解答と、俺の回答を見比べた。
──あれ?
別に間違えてなくね?
合ってるじゃん。
何度も確認し、4度目でついに確信する。
これは、採点間違いだ。
いつもは絶対に出せないスピードで奴のもとへ向かう。
「先生、これ、採点ミスです」
「……ッチ」
返事は舌打ちだけ。
だが、確かに俺の点数は、二桁から三桁へ成り上がった。
勝利、完全勝利だ。
拳を天高く突き上げる。
いつもなら、冷笑してくる奴らも、あまりにもテストの出来が悪いのかだんまりを決め込んでいる。
そいつらに、見せつけるように晒し上げる、我が栄光の証。
それに奴らは目を丸くし、ざわつき始める。
俺の復讐は果たされた。
でも、これだけでは満足しない。
ずっと高みを目指し続けろ。
たった一度の栄光で、この炎を燃やし尽くしてたまるか。
これっぽっちの幸せで、満足するなんてあまりにも愚かだ。
今日初めて、勝つ喜びを知れたんだ。
今日初めて、弱者に生まれてよかったと思った。
どれだけ笑われようが、俺は俺を信じ続ける。
そうすればいつか、俺を笑っていた奴らよりも、遥か高みへ登れるのだから。
この信念をなくさないように、俺は今日も一人、勉強ボッチ飯を遂行した。
『No guts, no story.』
信念が無ければ、語るべき物語は生まれない。
The end.




