ふわもちとの日常
『ふわもち』
その名の通り、ふわふわでもちもちな感触が特徴となる物体。見た目は何の変哲もないクッションだが、中身に特殊な技術を使用した綿が入っており、付属のリモコンを使用すれば大きさが調整できる。なんと、最大直径50mの大きさにもなれれば持ち運べるように最小直径10cm(0.1m)にもなるのだ。
そんな『ふわもち』は、この世に生まれ落ちた瞬間から全人類所持することを義務付けられている。
そんな『ふわもち』との日常を、少し覗いてみよう。
***
まずは1人目。とある小学生の女の子、池澤遥香だ。
「ただいま〜!」
ぴょこぴょことツインテールを跳ねさせながら、小学5年生の遥香は扉を開ける。靴を揃え、ランドセルや上着を元ある場所に置く。そして手洗いうがいを念入りに行ってから、母親の元へ駆け寄り学校から貰ったプリントを見せた。
「今日も学校が楽しかった」「テストがあって大変だった」などしばらく会話を楽しんだ後、自分の部屋へと向かう。少しぬいぐるみの方へ目を向けるが、ぶんぶんと首を振りながら机へ向かった。
「む……」
体を机に向けながらもぬいぐるみの方へちらちらと目を向けている。もどかしい気持ちを抑えているのか、口をもごもごと動かしながらも再び机と睨めっこした。
30分後、「よし!」と声を上げては立ち上がり、目を向けていたぬいぐるみに手をかける。『何か』を掴んだかと思えば床へ置き、スイッチを入れる。その『何か』は一瞬の内に遥香の身長と同じ程の大きさへと変化した。先程から遥香が目を向けていたのは『ふわもち』だったのだ。
「……終わっ、たぁ〜っ!!」
悲鳴のように声を上げては『ふわもち』へ飛び込んだ。
「あぁ〜……もふもふぅ……」
全身を『ふわもち』へ委ねるように寝そべると、気の抜けた状態になる。その証拠に話し方も脱力しているようだ。
「つかれたぁ〜……もう今日はごはんまでゲームするんだあ〜……」
重い足取りで携帯ゲーム機へ手を伸ばし、再び『ふわもち』へ座る。
これが彼女の日課だ。やるべき事をやり、後は『ふわもち』の上で趣味に没頭する。
遥香の『ふわもち』は、主にクッションとして使用しているのだ。
***
続いて2人目。とある会社員の佐原裕貴。
先程の遥香とは売って変わって顔色が悪く、足取りが重いように見える。
「はぁ……」
扉を開けると同時にため息が漏れ出る。靴を脱ぎ、目の前の『ふわもち』へそのまま倒れ込んだ。
「ふわ、ふわ……」
とても大きく、柔らかい感触に包まれる裕貴。そんな感触が彼の心をも包んでくれるようだ。裕貴の目から熱い物が零れ落ちる。その瞬間、『ふわもち』をぎっしりと抱き締めた。
「う〜!!聞いてくれよもちぃ〜!!」
ギャンッと吠えるように裕貴は今日の出来事を『ふわもち』に話す。どうやら彼にとって今日は散々な日だったらしい。なんとか我慢しながら乗り越えたが、『ふわもち』に包まれてほぐれたのだろう。誰の目も気にせず、ただ『ふわもち』へ気持ちを吐き出していた。
しばらくして、一息付きながらも仰向けになる。スマホを手に取ると、母親や友人からの通知が来ていた。
「…へへへ」
口元が緩む。目元は赤く腫れているが、表情は帰宅時も比べて晴れやかだ。
「…今日も聞いてくれてありがとな、もち」
そう言っては優しく『ふわもち』を撫でる。
どうやら彼は『ふわもち』のことを『もち』と呼んでいるらしい。何の意図があるか不明だが、彼は『ふわもち』のことを『友達』として接しているように感じる。まるで幼き頃に買ってもらったぬいぐるみのように。
背伸びをした後、立ち上がっては誰かに連絡をする。「…あ、もしもし?ごめんな、急に。ちょっと話したくなって_」
これが彼の日課だ。仕事の出来事を『ふわもち』に話し、誰かと連絡をしながら家事をしたり『ふわもち』に包まれている。
裕貴の『ふわもち』は、遥香同様クッションとして使用しているが、彼にとっては『友達』なのだ。
***
最後は、とある女子高生の三岐彩奈。
今までの2人は自宅だったが、今回は学校らしい。
各々が弁当やパンなどを取り出している辺り、昼休みなのだろう。
「ふふ……」
彩奈も同様に弁当を取り出すが、もう1つ『何か』を取り出しては気の緩んだ笑みを見せる。彼女の持っている『何か』こそ、彼女の『ふわもち』なのだ。『ふわもち』をスクイーズのようにとにかく握って、握って、握っている。握る度に彼女の表情は少しずつ変化し、最終的には多幸感溢れる笑みになった。
「彩奈、なにしてんの?」
「うわぁ!?」
夢中になるがあまり、友人の掛け声でつい声を上げてしまったようだ。教室内に響いたのか、すぐに席へ着いては顔を赤くする。
「ものすごい幸せオーラ出てたぞ〜。またふわもちスクイーズしてんの?」
「え、えへへ〜、そうなんだぁ〜」
『ふわもち』の名前を出されては、また顔を緩ませる。どうやら彩奈は『ふわもち』をスクイーズのように持ち歩いているらしい。元々『ふわもち』はクッションとして使用するのが一般的だが、手持ちサイズで持ち運びも可能というところで目をつけたようだ。これには開発者も目を丸くするだろう。
「スクイーズに夢中になるのも良いけど、まずはご飯食べよ!」
「触ってたら休み時間終わった〜ってなること多いもんね〜」
「そんな事ないよ!!移動教室に間に合わなかったことがあるくらいだし!」
「だからそれを言ってるんでしょうが!」
賑やかな掛け合いがテンポ良く流れる。
これが彼女の日課だ。学校や他の外出時には小さい『ふわもち』を持って行っては、隙間時間に癒される。
彩奈の『ふわもち』は、スクイーズのように持ち歩いて使用しているようだ。クッションとして使用しているのかは、またの機会に見てみるとしよう。
***
いかがだっただろうか。
『ふわもち』がどのような存在か、どのように使用されているのか、あなたにも少し理解できたのなら幸いだ。
しかし、『ふわもち』は全人類に与えられし存在で老若男女問わず使用されている。
今回紹介したのはほんのひと握りでしかないのだ。
また機会があれば、他の人たちも覗いてみよう。
『ふわもち』は、まだ謎多き存在のようだ。
閲覧ありがとうございました。
初投稿となります!これからよろしくお願いします。
でっっっかくて柔らかい物に包まれてぇな〜と常々思います。




