聖獣になった猫は、もう一度家族に出会って、今度こそみんなを守ります
もう王家には従いません ~家族全員で転生した伯爵家と、うちの猫の物語~のミケの話になります。
猫のお母さんと、人間のお母さんをを区別する為、猫のお母さん→おかぁさん、人間のお母さん→お母さんで分けて書いています。
ミケ視点の話なので、ひらがな多くて読みにくかったらごめんなさい。
ある日、おかぁさんが「ご飯を探してくるから、ここでいい子にしてるのよ」と言って出て行った。
ぼくたちは、すぐに帰ってくると思ってた。
いつもみたいに、少ししたら「にゃあ」って鳴きながら戻ってきて、ぼくたちを舐めてくれると思ってた。
でも、なかなか帰ってこなかった。
空から水が降ってきて、体がどんどん冷たくなっていった。
それでも、外には怖い「にんげん」っていうのがいるから、草むらから出ちゃダメだよって、おかぁさんが言ってたから、ぼくたちは動けなかった。
「おかぁさん、早く帰ってきて」
みゃーみゃー鳴きながら、みんなで身を寄せ合って、震えながら待ってた。
おかぁさんの匂いがする方を何度も見た。
足音が聞こえるたびに、帰ってきたのかと思って顔を上げた。
でもそこに、おかぁさんはいなかった。
冷たい水だけが、ぼくたちの体を濡らしていった。
やがて、兄弟たちの鳴き声が、ひとつ、またひとつと消えていった。
さっきまで隣で鳴いていた子が、動かなくなった。
体を寄せても、もう温かくなかった。
何度呼んでも、返事をしてくれなかった。
ぼくは怖くて、寂しくて、何度も兄弟たちの体に顔を押しつけた。
でも、どんどん冷たくなっていった。
それでも、おかぁさんは帰ってこなかった。
そして、兄弟たちがみんな冷たくなって、ぼくだけになった。
静かだった。
あんなに鳴き声でいっぱいだった草むらが、嘘みたいに静かだった。
ぼくはひとりになった。
ひとりでいるのが怖くて、胸の奥がぎゅうっと苦しくなった。
でも、おかぁさんを探さなくちゃいけない。
ぼくは、震える足で立ち上がった。
おかぁさんなら、きっとどこかで待ってる。
そう思わないと、歩けなかった。
少し歩いて草むらから出ると、一面に黒い石が敷いてある広いところに出た。
その広い場所の真ん中で、おかぁさんが倒れてた。
見つけた、やっと見つけた。
嬉しくて、すぐに駆け寄りたかった。
でも、ヘンテコな四角い箱がすごい速さで走っていて、近寄ることができなかった。
怖かったけど、それよりも、おかぁさんのそばに行きたかった。
「おかぁさん!」
必死に鳴いた。
何度も何度も鳴いた。
いつもなら、ぼくの声を聞いたら、すぐに「にゃあ」って返してくれるのに。
いつもなら、優しく近寄ってきて、ぼくの体を舐めてくれるのに。
倒れているおかぁさんは動かなかった。
目も開けてくれなかった。
ぼくの声が聞こえていないみたいだった。
「おかぁさん、起きてよ……」
声がかすれて、涙が出た。
でも、どうして涙が出るのか、ぼくには分からなかった。
ただ、怖かった。
おかぁさんまでいなくなったら、ぼくは本当にひとりになってしまう。
ずっと鳴いていると、空から降ってきていた水は、白いふわふわした物に変わっていった。
おかぁさんの毛みたいにふわふわした物だった。
でも、触るととっても冷たかった。
体の中まで冷たくなっていく。
次第に足に力が入らなくなって、ぼくはその場にしゃがみ込んだ。
おかぁさんを呼びたかった。
もう一度だけでいいから、返事をしてほしかった。
でも、声がうまく出なかった。
意識もぼーっとしてきて、目の前が白くなっていった。最後に、おかぁさんを呼んで鳴き声をあげた。
その時「どうしたの? 大丈夫?」って、優しい声がして、暖かい何かに包まれた。
冷たかった体が、少しだけ温かくなった。
誰かがぼくを抱きしめてくれている。
でも、ぼくはもう目を開けていられなかった。
おかぁさんのところに戻りたかった。
兄弟たちのところにも戻りたかった。
それなのに、ぼくの意識は、暗いところへ沈んでいった。
◇
次に目を開けた時、暖かい風が吹いていて、体が温かくなってた。
冷たくて動かなかった体が、少しずつ戻ってくる。
後で知ったけど、ドライヤーって言うんだって。
周りを見渡すと、おかぁさんが「にんげん」って言ってたのが、何人もいた。
怖かった。
何か怖いことをされるかもしれないと思った。
ぼくは思わず「シャー」って怒った。
でも、そのにんげんたちは、怒らなかった。
優しく声をかけてくれて、そっと撫でてくれた。
その手は、冷たい雪よりずっと温かかった。
あったかいご飯もくれたよ。
お腹が空いていたはずなのに、最初は怖くて食べられなかった。
でも、優しい匂いがして、少しだけ口をつけた。
温かかった。
お腹の中にご飯が入ると、張りつめていたものが少しだけほどけた。
助けてくれたのは、美羽お姉ちゃんっていうんだって。他にも、美羽お姉ちゃんの妹の美紅お姉ちゃんと、ふたりのお母さんとお父さんがいた。
おかぁさんが、にんげんは怖いって言ってた。
だから、最初はみんなの顔を見るだけで体が震えた。
でも、この四人はとっても優しかった。
ぼくが逃げても追いかけてこなかった。
怖がって隠れても、無理に引っ張り出さなかった。
少しずつ近づいてきて、優しく名前を呼んでくれた。
全然怖くなかった。
「ミケ」っていう名前もくれたよ。
ぼくの体の色が、白と黒と茶色だからなんだって。
胸の辺りに、白い変わった模様があって、「これなら、すぐに見つけられるね」って言ってた。
その言葉を聞いた時、胸の奥が少しだけ温かくなった。
ぼくを見つけてくれる人がいる。
ぼくを呼んでくれる人がいる。
それが、とても嬉しかった。
みんな、いつも遊んでくれて、たまにこっそりおやつもくれた。
眠る時は、みんなの匂いが近くにあった。
目を覚ますと、誰かがぼくを撫でてくれた。
ぼくは、いつの間にか、この家が大好きになっていた。
みんなのことが、大好きだった。
机に上がって、晩ごはんのお刺身を食べたことがあったけど、美羽お姉ちゃんにとっても怒られた。
大きな声にびっくりして、耳を伏せた。
また、ひとりになってしまうのかと思った。
でも、お父さんがかばってくれて、お母さんが後でこっそりお刺身をくれたよ。
怒られたのに、最後にはみんなが笑っていた。
その笑い声を聞いて、ぼくも嬉しくなった。
こんな幸せが、ずっと続くんだと思ってた。
もう、誰もいなくならないと思ってた。
でも、急に地面が揺れた。
家中が大きな音を立てて、物が落ちてきた。
怖くて動けなくなっていたら、美羽お姉ちゃんがぼくを抱きしめてくれた。
強く、ぎゅっと抱きしめてくれた。
その腕の中は温かくて、ぼくはそこにいれば大丈夫だと思った。
でもその時、上からいっぱい物が落ちてきた。
大きな音がして、何も分からなくなった。
目が覚めたら、みんな、おかぁさんみたいに倒れてた。
「起きて」
必死に鳴いた。
お父さんも、お母さんも、美紅お姉ちゃんも動かなかった。
美羽お姉ちゃんも、目を閉じたままだった。
また、みんながいなくなる。そう思ったら、胸が張り裂けそうになった。
何度も体を揺すった。何度も鳴いた。
「起きてよ。お願いだから、起きてよ」って必死に鳴いた。
そしたら、美羽お姉ちゃんが目を覚まして、「ミケ、無事だったんだね。よかった」って、ぼくを撫でてくれた。
その声を聞いた時、嬉しくて、安心して、涙が出そうになった。
美羽お姉ちゃんは生きてた。
ぼくを見てくれた。
ぼくの名前を呼んでくれた。
でも、その後また目を閉じちゃった。
「起きて」って何度も鳴いても、目を覚ましてくれなかった。
ぼくは、美羽お姉ちゃんのそばから離れなかった。
お父さんのそばにも、お母さんのそばにも、美紅お姉ちゃんのそばにもいた。
みんな、兄弟たちみたいに体が冷たくなっていった。
ぼくは、何度も体を寄せた。
温めたかった。
起こしたかった。
また笑ってほしかった。
でも、誰も動かなかった。
ぼくは、ひとりになるのが嫌だった。
だから、ずっとみんなのそばにいた。
冷たくなっていく体に寄り添って、何度も名前を呼んだ。
そして、ぼくも体が冷たくなって、眠くなっていった。
もう、目を開けたくなかった。
目を開けたら、また誰もいなくなっている気がした。
◇
次に目を覚ました時、みんながいなくて、知らないところにいた。
どこを見ても、知っている匂いがなかった。
美羽お姉ちゃんの匂いも、お父さんの匂いも、お母さんの匂いも、美紅お姉ちゃんの匂いもなかった。
ぼくは、またひとりだった。
もしかして、ここが天国っていうところなのかな。
ここに行けば、みんなに会えると思っていたのに、どこにもみんなはいなかった。
何だか知らない記憶もあって、偉そうな知らないおじさんがいて、ぼくのことを「聖獣様」って呼んでた。
このおじさんのこと、他の人がおうさまって言ってたよ。
いろんな人が美味しいご飯とか持ってきてくれるけど、何だかおいしくなかった。
味がしないわけじゃない。
でも、みんなと食べていた時みたいに、胸が温かくならなかった。
ご飯を食べても、隣に誰もいない。
笑ってくれる人がいない。
眠っても、そばに誰もいない。
みんなと食べてる時は、ご飯がいつも楽しみだったのに…。
ぼくの体の色は、銀色になってた。体も前よりずっと大きくなってた。力も強くなっていた。でも、どれだけ大きくなっても、どれだけ強くなっても、みんながいない寂しさは消えなかった。
これじゃあ、みんなが探しにきても、見つけてもらえないかなぁ。
ぼくのこと、分からないかもしれない。
でも、胸の白い模様は同じだった。これを見たら、みんなはぼくだって分かってくれるかな。
早く会いたいなぁ。
早く、みんなの声が聞きたい。
早く、名前を呼んでほしい。
おうさまって言われていた人が、たまに来て、「盟約に従い、わが王家と契約を」って言うんだ。
今のぼくのお父さんと、おうさまのお父さんが「けいやく」してたんだって。だから、ぼくとも「けいやく」して欲しいみたい。「けいやく」って、ずっと一緒にいて守ることなんだって。
ぼく、それなら、お父さんとお母さんと美羽お姉ちゃんと美紅お姉ちゃんと「けいやく」したいなぁ。
みんなとなら、ずっと一緒にいたい。
今度は、ぼくがみんなを守りたい。
体もこんなに大きくて、力も強くなったし、今度はみんなを守れると思うんだ!
でも、何年も待ってたのに、みんなが見つけてくれなかったんだ……。
待っても、待っても、誰も来なかった。
扉が開くたびに期待した。誰かの足音が聞こえるたびに、みんなかもしれないと思った。でも、違った。寂しくて、悲しくて、胸の奥が空っぽになっていった。
たまに第二王子って人が来た時に、美羽お姉ちゃんの匂いが少しする時がある。
その匂いを感じると、嬉しくて近寄りたくなった。
でも、「さっさと王家と契約しろ」って偉そうに言うんだ。
その言い方は、美羽お姉ちゃんとは全然違った。美羽お姉ちゃんは、いつも優しくぼくの名前を呼んでくれた。だから、腹が立った。
「シャーーッ」って言ったら、二度と姿を現さなかったよ。
そんなある日、みんなの匂いがとっても強くなったんだ!
一瞬で分かった。
間違えるはずがなかった。
ずっと探していた匂い。
ずっと会いたかった匂い。
ぼくは急いで、匂いがする方に向かった。
足がもつれそうになっても、止まらなかった。胸がどきどきして、嬉しくて、怖くて、夢じゃないかと思った。そしたら、みんながいたんだ!!本当に、みんながいた。ぼくは鳴いた。大きな声で、何度も鳴いた。みんなのところへ駆け寄った。
みんな、ぼくのことを「ミケ」って呼んで、撫でてくれたよ。その声を聞いた瞬間、胸の奥に溜まっていた寂しさが、全部あふれ出した。嬉しくて、悲しくて、安心して、体が震えた。
もう離れたくない。
今度こそ、絶対に離れたくない。
ぼくはみんなと「契約」したんだ。
これで、ずっと一緒にいられるよね?
もう、誰もいなくならないよね?
◇
「ミケ! またつまみ食いしたでしょう!」って、また美羽お姉ちゃんに怒られちゃった。
今の美羽お姉ちゃんの名前は、アリシアって言うんだって。
「その顔は絶対に反省してない!」って怒った顔も、昔と同じだった。ぼくはそれが嬉しくて、尻尾を振った。
「ぼく、もう怒られても怖くないよ」
そう伝えたくて、アリシアお姉ちゃんのそばに近寄って、尻尾を振った。
でも、こっそり美羽お姉ちゃんのお皿のお魚を狙ってたら、「ほら、アリシアお姉ちゃん。ミケ、またお魚狙ってるよ」って、美紅お姉ちゃんにバレちゃったんだ。
「本当に食いしん坊なんだから」
「あなたたち、ミケばかり構ってないで、ご飯を食べなさい」
「ははは」
みんなの笑い声が聞こえた。
その声を聞いて、胸がいっぱいになった。
ずっと聞きたかった声。
ずっと戻りたかった場所。
ぼくは、怒ってる美羽お姉ちゃんのところに行って、スリスリした。
すると「仕方ないわね」って、ぼくを見て撫でてくれた。
その手は、あの日の冷たい雪とは違っていた。
最後に寄り添った時の、冷たい体でもなかった。
あったかい手だった。
優しくて、懐かしくて、ぼくがずっと待っていた手だった。
ぼくは目を閉じて、その手に頬を押しつけた。
もう、ひとりじゃない。
もう、誰も失いたくない。
今度こそ、ぼくはみんなを守るんだ。
わかりにくいと思う為、解説です。
黒い石の敷いてある広い場所→道路
ヘンテコ四角い箱→自動車
空から降ってきた水→雨
空から降ってくるふわふわ→雪
ちなみに、前世のミケはオスの三毛猫です。
なのでミケです。




