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もう王家には従いません

聖獣になった猫は、もう一度家族に出会って、今度こそみんなを守ります

掲載日:2026/09/24

もう王家には従いません ~家族全員で転生した伯爵家と、うちの猫の物語~のミケの話になります。


猫のお母さんと、人間のお母さんをを区別する為、猫のお母さん→おかぁさん、人間のお母さん→お母さんで分けて書いています。


ミケ視点の話なので、ひらがな多くて読みにくかったらごめんなさい。

ある日、おかぁさんが「ご飯を探してくるから、ここでいい子にしてるのよ」と言って出て行った。

ぼくたちは、すぐに帰ってくると思ってた。


いつもみたいに、少ししたら「にゃあ」って鳴きながら戻ってきて、ぼくたちを舐めてくれると思ってた。

でも、なかなか帰ってこなかった。


空から水が降ってきて、体がどんどん冷たくなっていった。


それでも、外には怖い「にんげん」っていうのがいるから、草むらから出ちゃダメだよって、おかぁさんが言ってたから、ぼくたちは動けなかった。


「おかぁさん、早く帰ってきて」


みゃーみゃー鳴きながら、みんなで身を寄せ合って、震えながら待ってた。

おかぁさんの匂いがする方を何度も見た。

足音が聞こえるたびに、帰ってきたのかと思って顔を上げた。

でもそこに、おかぁさんはいなかった。


冷たい水だけが、ぼくたちの体を濡らしていった。


やがて、兄弟たちの鳴き声が、ひとつ、またひとつと消えていった。

さっきまで隣で鳴いていた子が、動かなくなった。

体を寄せても、もう温かくなかった。

何度呼んでも、返事をしてくれなかった。


ぼくは怖くて、寂しくて、何度も兄弟たちの体に顔を押しつけた。

でも、どんどん冷たくなっていった。


それでも、おかぁさんは帰ってこなかった。

そして、兄弟たちがみんな冷たくなって、ぼくだけになった。


静かだった。


あんなに鳴き声でいっぱいだった草むらが、嘘みたいに静かだった。

ぼくはひとりになった。

ひとりでいるのが怖くて、胸の奥がぎゅうっと苦しくなった。


でも、おかぁさんを探さなくちゃいけない。

ぼくは、震える足で立ち上がった。

おかぁさんなら、きっとどこかで待ってる。

そう思わないと、歩けなかった。


少し歩いて草むらから出ると、一面に黒い石が敷いてある広いところに出た。

その広い場所の真ん中で、おかぁさんが倒れてた。


見つけた、やっと見つけた。

嬉しくて、すぐに駆け寄りたかった。


でも、ヘンテコな四角い箱がすごい速さで走っていて、近寄ることができなかった。

怖かったけど、それよりも、おかぁさんのそばに行きたかった。


「おかぁさん!」


必死に鳴いた。

何度も何度も鳴いた。

いつもなら、ぼくの声を聞いたら、すぐに「にゃあ」って返してくれるのに。

いつもなら、優しく近寄ってきて、ぼくの体を舐めてくれるのに。

倒れているおかぁさんは動かなかった。

目も開けてくれなかった。

ぼくの声が聞こえていないみたいだった。


「おかぁさん、起きてよ……」


声がかすれて、涙が出た。

でも、どうして涙が出るのか、ぼくには分からなかった。


ただ、怖かった。

おかぁさんまでいなくなったら、ぼくは本当にひとりになってしまう。


ずっと鳴いていると、空から降ってきていた水は、白いふわふわした物に変わっていった。


おかぁさんの毛みたいにふわふわした物だった。


でも、触るととっても冷たかった。

体の中まで冷たくなっていく。

次第に足に力が入らなくなって、ぼくはその場にしゃがみ込んだ。


おかぁさんを呼びたかった。

もう一度だけでいいから、返事をしてほしかった。

でも、声がうまく出なかった。

意識もぼーっとしてきて、目の前が白くなっていった。最後に、おかぁさんを呼んで鳴き声をあげた。


その時「どうしたの? 大丈夫?」って、優しい声がして、暖かい何かに包まれた。

冷たかった体が、少しだけ温かくなった。

誰かがぼくを抱きしめてくれている。

でも、ぼくはもう目を開けていられなかった。


おかぁさんのところに戻りたかった。


兄弟たちのところにも戻りたかった。


それなのに、ぼくの意識は、暗いところへ沈んでいった。


◇


次に目を開けた時、暖かい風が吹いていて、体が温かくなってた。

冷たくて動かなかった体が、少しずつ戻ってくる。

後で知ったけど、ドライヤーって言うんだって。


周りを見渡すと、おかぁさんが「にんげん」って言ってたのが、何人もいた。


怖かった。

何か怖いことをされるかもしれないと思った。


ぼくは思わず「シャー」って怒った。


でも、そのにんげんたちは、怒らなかった。

優しく声をかけてくれて、そっと撫でてくれた。

その手は、冷たい雪よりずっと温かかった。


あったかいご飯もくれたよ。

お腹が空いていたはずなのに、最初は怖くて食べられなかった。

でも、優しい匂いがして、少しだけ口をつけた。


温かかった。


お腹の中にご飯が入ると、張りつめていたものが少しだけほどけた。


助けてくれたのは、美羽お姉ちゃんっていうんだって。他にも、美羽お姉ちゃんの妹の美紅お姉ちゃんと、ふたりのお母さんとお父さんがいた。


おかぁさんが、にんげんは怖いって言ってた。

だから、最初はみんなの顔を見るだけで体が震えた。

でも、この四人はとっても優しかった。


ぼくが逃げても追いかけてこなかった。


怖がって隠れても、無理に引っ張り出さなかった。


少しずつ近づいてきて、優しく名前を呼んでくれた。


全然怖くなかった。

「ミケ」っていう名前もくれたよ。

ぼくの体の色が、白と黒と茶色だからなんだって。

胸の辺りに、白い変わった模様があって、「これなら、すぐに見つけられるね」って言ってた。

その言葉を聞いた時、胸の奥が少しだけ温かくなった。


ぼくを見つけてくれる人がいる。


ぼくを呼んでくれる人がいる。


それが、とても嬉しかった。


みんな、いつも遊んでくれて、たまにこっそりおやつもくれた。

眠る時は、みんなの匂いが近くにあった。

目を覚ますと、誰かがぼくを撫でてくれた。

ぼくは、いつの間にか、この家が大好きになっていた。

みんなのことが、大好きだった。


机に上がって、晩ごはんのお刺身を食べたことがあったけど、美羽お姉ちゃんにとっても怒られた。

大きな声にびっくりして、耳を伏せた。

また、ひとりになってしまうのかと思った。


でも、お父さんがかばってくれて、お母さんが後でこっそりお刺身をくれたよ。

怒られたのに、最後にはみんなが笑っていた。

その笑い声を聞いて、ぼくも嬉しくなった。


こんな幸せが、ずっと続くんだと思ってた。


もう、誰もいなくならないと思ってた。


でも、急に地面が揺れた。


家中が大きな音を立てて、物が落ちてきた。

怖くて動けなくなっていたら、美羽お姉ちゃんがぼくを抱きしめてくれた。

強く、ぎゅっと抱きしめてくれた。

その腕の中は温かくて、ぼくはそこにいれば大丈夫だと思った。


でもその時、上からいっぱい物が落ちてきた。

大きな音がして、何も分からなくなった。

目が覚めたら、みんな、おかぁさんみたいに倒れてた。


「起きて」


必死に鳴いた。


お父さんも、お母さんも、美紅お姉ちゃんも動かなかった。

美羽お姉ちゃんも、目を閉じたままだった。

また、みんながいなくなる。そう思ったら、胸が張り裂けそうになった。

何度も体を揺すった。何度も鳴いた。


「起きてよ。お願いだから、起きてよ」って必死に鳴いた。


そしたら、美羽お姉ちゃんが目を覚まして、「ミケ、無事だったんだね。よかった」って、ぼくを撫でてくれた。


その声を聞いた時、嬉しくて、安心して、涙が出そうになった。


美羽お姉ちゃんは生きてた。


ぼくを見てくれた。


ぼくの名前を呼んでくれた。


でも、その後また目を閉じちゃった。

「起きて」って何度も鳴いても、目を覚ましてくれなかった。


ぼくは、美羽お姉ちゃんのそばから離れなかった。

お父さんのそばにも、お母さんのそばにも、美紅お姉ちゃんのそばにもいた。


みんな、兄弟たちみたいに体が冷たくなっていった。


ぼくは、何度も体を寄せた。


温めたかった。


起こしたかった。


また笑ってほしかった。


でも、誰も動かなかった。

ぼくは、ひとりになるのが嫌だった。

だから、ずっとみんなのそばにいた。

冷たくなっていく体に寄り添って、何度も名前を呼んだ。


そして、ぼくも体が冷たくなって、眠くなっていった。

もう、目を開けたくなかった。

目を開けたら、また誰もいなくなっている気がした。


◇


次に目を覚ました時、みんながいなくて、知らないところにいた。

どこを見ても、知っている匂いがなかった。


美羽お姉ちゃんの匂いも、お父さんの匂いも、お母さんの匂いも、美紅お姉ちゃんの匂いもなかった。


ぼくは、またひとりだった。

もしかして、ここが天国っていうところなのかな。

ここに行けば、みんなに会えると思っていたのに、どこにもみんなはいなかった。


何だか知らない記憶もあって、偉そうな知らないおじさんがいて、ぼくのことを「聖獣様」って呼んでた。

このおじさんのこと、他の人がおうさまって言ってたよ。


いろんな人が美味しいご飯とか持ってきてくれるけど、何だかおいしくなかった。

味がしないわけじゃない。

でも、みんなと食べていた時みたいに、胸が温かくならなかった。


ご飯を食べても、隣に誰もいない。


笑ってくれる人がいない。


眠っても、そばに誰もいない。


みんなと食べてる時は、ご飯がいつも楽しみだったのに…。


ぼくの体の色は、銀色になってた。体も前よりずっと大きくなってた。力も強くなっていた。でも、どれだけ大きくなっても、どれだけ強くなっても、みんながいない寂しさは消えなかった。


これじゃあ、みんなが探しにきても、見つけてもらえないかなぁ。


ぼくのこと、分からないかもしれない。


でも、胸の白い模様は同じだった。これを見たら、みんなはぼくだって分かってくれるかな。


早く会いたいなぁ。


早く、みんなの声が聞きたい。


早く、名前を呼んでほしい。


おうさまって言われていた人が、たまに来て、「盟約に従い、わが王家と契約を」って言うんだ。


今のぼくのお父さんと、おうさまのお父さんが「けいやく」してたんだって。だから、ぼくとも「けいやく」して欲しいみたい。「けいやく」って、ずっと一緒にいて守ることなんだって。


ぼく、それなら、お父さんとお母さんと美羽お姉ちゃんと美紅お姉ちゃんと「けいやく」したいなぁ。

みんなとなら、ずっと一緒にいたい。


今度は、ぼくがみんなを守りたい。


体もこんなに大きくて、力も強くなったし、今度はみんなを守れると思うんだ!


でも、何年も待ってたのに、みんなが見つけてくれなかったんだ……。


待っても、待っても、誰も来なかった。


扉が開くたびに期待した。誰かの足音が聞こえるたびに、みんなかもしれないと思った。でも、違った。寂しくて、悲しくて、胸の奥が空っぽになっていった。


たまに第二王子って人が来た時に、美羽お姉ちゃんの匂いが少しする時がある。

その匂いを感じると、嬉しくて近寄りたくなった。


でも、「さっさと王家と契約しろ」って偉そうに言うんだ。


その言い方は、美羽お姉ちゃんとは全然違った。美羽お姉ちゃんは、いつも優しくぼくの名前を呼んでくれた。だから、腹が立った。

「シャーーッ」って言ったら、二度と姿を現さなかったよ。


そんなある日、みんなの匂いがとっても強くなったんだ!

一瞬で分かった。

間違えるはずがなかった。


ずっと探していた匂い。


ずっと会いたかった匂い。


ぼくは急いで、匂いがする方に向かった。


足がもつれそうになっても、止まらなかった。胸がどきどきして、嬉しくて、怖くて、夢じゃないかと思った。そしたら、みんながいたんだ!!本当に、みんながいた。ぼくは鳴いた。大きな声で、何度も鳴いた。みんなのところへ駆け寄った。


みんな、ぼくのことを「ミケ」って呼んで、撫でてくれたよ。その声を聞いた瞬間、胸の奥に溜まっていた寂しさが、全部あふれ出した。嬉しくて、悲しくて、安心して、体が震えた。


もう離れたくない。


今度こそ、絶対に離れたくない。


ぼくはみんなと「契約」したんだ。

これで、ずっと一緒にいられるよね?

もう、誰もいなくならないよね?


◇


「ミケ! またつまみ食いしたでしょう!」って、また美羽お姉ちゃんに怒られちゃった。


今の美羽お姉ちゃんの名前は、アリシアって言うんだって。


「その顔は絶対に反省してない!」って怒った顔も、昔と同じだった。ぼくはそれが嬉しくて、尻尾を振った。


「ぼく、もう怒られても怖くないよ」


そう伝えたくて、アリシアお姉ちゃんのそばに近寄って、尻尾を振った。


でも、こっそり美羽お姉ちゃんのお皿のお魚を狙ってたら、「ほら、アリシアお姉ちゃん。ミケ、またお魚狙ってるよ」って、美紅お姉ちゃんにバレちゃったんだ。


「本当に食いしん坊なんだから」


「あなたたち、ミケばかり構ってないで、ご飯を食べなさい」


「ははは」


みんなの笑い声が聞こえた。

その声を聞いて、胸がいっぱいになった。


ずっと聞きたかった声。


ずっと戻りたかった場所。


ぼくは、怒ってる美羽お姉ちゃんのところに行って、スリスリした。

すると「仕方ないわね」って、ぼくを見て撫でてくれた。


その手は、あの日の冷たい雪とは違っていた。


最後に寄り添った時の、冷たい体でもなかった。


あったかい手だった。


優しくて、懐かしくて、ぼくがずっと待っていた手だった。


ぼくは目を閉じて、その手に頬を押しつけた。


もう、ひとりじゃない。


もう、誰も失いたくない。


今度こそ、ぼくはみんなを守るんだ。

わかりにくいと思う為、解説です。


黒い石の敷いてある広い場所→道路

ヘンテコ四角い箱→自動車

空から降ってきた水→雨

空から降ってくるふわふわ→雪


ちなみに、前世のミケはオスの三毛猫です。

なのでミケです。

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