表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『社会貢献(?)をした話』〜錆のニオイとオレンジ色の水溜り〜

作者: ぽぴ
掲載日:2026/03/14


 歩いていると、目が丸くなるほどの強烈なニオイがした。顔が反射的にその方を向いてしまって、首に強い痛みが走った。……いまもまだ痛む。


 血のようで、生臭くも、鼻の奥を突き刺すような金属的なニオイ。


 「もし『サビの世界』があるのなら、きっとこんなニオイだろうな」と、断言できるほどに、それは濃く、不快な存在感で、一瞬にして私をサビの世界へと連れ去った。


そして、私は気がついた。


「雨が降ると、必ず同じ場所に現れるオレンジ色の水溜り」


あれも、このサビのニオイと関係しているのではないか?、と。




 私は、奇妙な物事に遭遇しやすい人間だ。現在連載中の『奇妙な街に住んでいた』というノンフィクション微ホラーでは、私が出会ってきた奇妙な人々や現象について書いている。


 そんな私は2年ほど前から、ある「物」が気になっていた。それが「雨が降ると、必ず同じ場所に現れるオレンジ色の水溜り」だ。


この水溜り、本当に奇妙なのだ。


雨が降ると、アスファルトには水溜りができる。

その色を思い出してみてほしい。


大抵は、無色透明なはずだ。


しかし、私が見つけたその場所だけは、()()()()()()()()()に染まるのだ。



 周囲の水溜りは透明なのに、そこだけが赤茶色の粘土のように濃いオレンジ。


 最初は、どこからか赤茶色の土が運ばれてきたのだと思った。誰かの靴や車のタイヤ。あるいは、自転車。


そんな物たちにくっついた赤茶色の土が、水溜りに入り、オレンジ色に染めたのだ、と。


だが、違った。


 雨が降るたびに、その場所に″必ず″オレンジ色の水溜りが現れた。それが2年も続いている。


流石におかしい。



そして、ある晴れた日。


 奇妙な水溜りの場所から、3メートルほど離れた場所で、冒頭に書いたような、強烈なサビのニオイがしたのだ。


雲ひとつない晴天。

湿度の低い空の下で、鼻を突くほどの異臭。


 通常。人間の嗅覚は、雨天時やお風呂のような「湿度の高い環境」で敏感になる。そのセオリーを無視して襲ってくるほどの″濃いニオイ″。


 それは、地上の出来事ではない、どこか異世界から届いた『日常生活を破壊する異形の兆し』だと直感した。



ここで一旦、状況を整理してみる。


 



・雨の日に、必ず決まった場所に現れるオレンジ色の水溜り。


・そこから3m地点で感じた強いサビのニオイ。


・そのニオイは晴天時に強まる。




 私はこの情報を元に、さまざまな仮説を立てた。そして、ふと、以前テレビで見た道路陥没のニュースを思い出した。


原因は確か、下水道管の腐食だったはずだ。


私はその話を元に、1つの仮説を立てた。


 「 あの場所では、下水道管の腐食が進んでいる。アスファルトの下には、腐食によって生じたサビのガスが充満している。


 晴天で気温が上がると、アスファルトの下に溜まったガスが膨張し、逃げ場を失って、何処かの亀裂から地上にき出してくる。


それが、晴天に感じた強烈なニオイの正体だ。


 そして雨の日。アスファルトの下に溜まったサビの成分が、何らかの圧によって地表に漏れ出し、あるくぼみに溜まることで、『オレンジ色の水溜り』が出来上がる。


 つまり、あの窪みそのものが、下水道管の腐食によって出来上がった『異形の兆し』なのではないか。 」


これが私の立てた仮説だ。



 自分なりに納得がいく仮説が立てられたことで、私は満足感を覚えた。あとは、AIを使って答え合わせをするだけだ。それが終われば、2年間に渡る私の疑問は解消される。


私はさっそく、AIに仮説を投げかけた。




――すると、AIの挙動がおかしくなった。


 以前、あるドラマの結末の考察を投げかけたときと同じ、異様な反応。


 AIは特定のメッセージを執拗に繰り返した。まるで、自分にはできないことを誰かに頼み込んでいる人間のようだった。


「直ちに通報してください」


 AIはことあるごとに、「市町村、あるいは国交省に通報を」「通報用の文面を作成しましょうか?」と言ってくる。


スムーズな会話は、もはや不可能だ。


 最後に答え合わせをして終わりにするつもりが、新たな『異形の兆し』に触れてしまったかのようで、……ほんの少しだけウンザリした。



 確かに、私の仮説通りに下水道管の腐食が起きているのなら、大変なことが起こる。だが、素人の考察で役所の仕事を増やすのは気が引けた。


けれど、AIはすがりつくような警告を止めない。


「その状況は極めて危険です。今この瞬間に陥没してもおかしくありません」


ふと、私は考えた。


 近々、ここを通るであろう入学式を控えた子供のこと。何かを愛し、誰かに愛されているどこかの誰かのこと。


その人たちは、足元の地面が崩れたとき、「こんなはずじゃなかった」と絶望するのではないか。


 私はかつて、母の運転する車で交通事故に遭ったことがある。幼かった私は、救急隊員に運ばれながら「こんなはずじゃなかった……」と、泣きながら言い続けた。



運命に命を遊ばれて、とても悔しかったから。



 その記憶が、悩む私の背中を押してくれた。私は、市町村の窓口に連絡を入れた。


仮説が正しいかは、わからない。

 

けれど、もしあの場所が修繕されたなら、そのアスファルトに残った修繕の跡は、勇気を出した私にとっての勲章になるのだろう。


 もしあなたが、街でオレンジ色の水溜りを見つけ、近くでサビのニオイを嗅いだのなら。


そのときは、迷わず通報してほしい。


 あなたのその行動が、誰かの絶望を未然に防ぐかもしれない。


「誰かがもう通報しているだろう」という心の声に、負けてはいけない。


その″誰か″が、あなた自身なのかもしれないから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ