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星なき夜のアウロライズ  第一話 星なき夜に、剣は歌う


――リノン。今すぐ、その丘から降りろ。


夜の静寂を切り裂く、低く、鋼のように冷たい声。

丘の頂に立つあたしの背中へ、その声は矢のように突き刺さった。


振り返る。

黒い外套の男が、闇から切り出された彫像のように立っている。

夜よりも暗い、黒鉄色の瞳。


「ライル……」


かつて、この世界で数人だけ、『星守』(ほしのもり)と呼ばれた騎士のひとり。


「邪魔しに来たの?」


あたしは夜空から目を離さずに言った。

星が、ひとつもない空。

光を失い、ただ虚無だけが広がる天井。

人々がとうに見上げるのをやめた、絶望の空だ。


「邪魔……だと?」

ライルは嘲るように鼻を鳴らした。

「無駄死にを止めに来てやっただけだ。感謝しろ」


「無駄じゃないもの」


「星は堕ちた。もう戻らない」

ライルの声には、すべてを諦めた者の重さがあった。

「……いや、最初から、俺たちを裏切るために輝いていただけだ」


「それでも、あたしは行くよ」


腰の剣に手をかけ、力をこめる。


――チリリン。


澄んだ音。

歌う魔剣『アウロライズ』が、あたしの心に応えるように鳴いた。


「……まだ、その玩具(オモチャ)を信じているのか」


ライルが一歩、踏み出す。

それだけで、空気が重く沈んだ。


「玩具じゃない。これは『希望』の音なの」


「希望…だと?」

鞘に収まったままの剣の柄に、ライルの指がかかる。

「星のない夜に、希望などない。あるのは、終わらない夜だけだ」


「だから……探しに行くんでしょ!」


あたしは叫んだ。


「誰かが『夜明け』を連れてこないと、この世界は本当に喰われちゃう!」


風が丘を吹き抜ける。

『アウロライズ』が、祈りのような微かな音を返した。


それは、きっとライルにも届いた。


「……その剣、まだ『歌う』のか……?」

黒鉄の瞳が、わずかに揺れた。


「うん。あたしに『行け』って言ってる」

ザックを背負い直す。

「ライルが止めようと、あたしは行くよ。明日、東の空が白むころに」


「……待て」

行く手を塞ぐように、ライルが立つ。


「なにさ!!」


「東だと、正気なのか? そこは『夜の坩堝(るつぼ)』だ」


「正気だよ。星が堕ちたのは、東の果てなんでしょ?」


「……ああ。俺の仲間たちが、喰われた場所だ」


夜空と同じ色に、ライルの目が沈む。


「だから?」


長い沈黙。

そして、深いため息。


「フッ…いいだろう」

彼は、まっすぐにあたしを見た。

「その()()とやらが、どれだけ脆いか――俺が見届けてやる」


「え?」


「俺も行くって言ってんだよ。お前一人の無謀な旅に、夜道を照らす灯りくらいは必要だろ」


胸が、きゅっと鳴った。

「……止めるんじゃなかったの?」


「勘違いするな」

星のない空を、憎しげに睨みつける。

「あの夜に誓ったことを、忘れたわけじゃない」


その瞳の奥に、燃えかすのような小さな光。

あたしは、それを確かに見た。


「……ありがと、ライル」


「礼は、夜明けを見つけてからにしろ」


「うん。絶対、見つける!」


こうして、あたしたちの旅は始まる。

星を失った世界で、たったひとつの()()()を探すために。


――それが、本当に「旅の始まり」になると、

このときのあたしは、信じて疑わなかった。


しかし、運命は、あたしたちの旅立ちを祝福するどころか、

最悪の事態を起こして嘲笑った。カーンカーンカーン、高い音がけたたましく鳴り響いた。

「この鐘の音は…なんだ?」


「ライル、村が……?!」


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