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甘い時間

甘々イチャイチャ回です


 オルフェノス家への挨拶が済んだ翌週、フラスティア家への挨拶も無事に済ませたアディルとカイザーは馬車で王都の中心地へと向かっていた。

 

「呼ばなくて良かったのか?」

「はい。折角なので、一緒にお出かけしたいです」

 

 そう頬を染めながら答えるアディルは、今日もカイザーの膝の上に乗せられている。いつの間にやら、カイザーにとってのアディルの定位置はそこに決定していた。何度下りても戻されるうちに、アディルもすっかり慣れてしまったのである。


 そんな二人の今日の目的は、アームレットの注文である。

 公爵家ともなれば、いくつものお店や何人もの商人を呼んでの買い物や注文が主流だが、アディルが街へ行きたいと言うのであれば、カイザーはそれに従うのみ。呼ぼうが向かおうが、アディルさえ喜ぶのであれば、どちらでも良いのだ。


「素敵なものができるといいですね」


 うっとりとアディルは言った。今日の目的品のアームレットは、ただのアームレットではない。婚約の証だ。


「どんなデザインが良いとかあるか?」

(たか)がいいです!!」


 両手をグッと握り、嬉しそうに言うアディルに、カイザーの眉間にはシワが寄った。


(何故、鷹なんだ? 花とか可愛らしいものがいいんじゃないのか?)


「鷹は縁起物ですから。かっこいいですし。それに……」

「それに?」

「オルフェノス公爵家の家紋のモチーフですよね? 鷹のデザインを身に着けたら、おそばにいられない時も、カイザー様と繋がっていられる気がして……」

「……そうか」


 カイザーの返事にアディルは笑う。ぶっきらぼうな返事だが、カイザーの目は優しい。それに、よくよく見れば耳が少し赤い。


「見るな」


 そう言われて、大きな手で目元を(おお)われた。いつもは冷たい指先も、何だか少し温かい。嬉しくて、くふくふと笑えば、頭上からも小さな笑い声がした。


(カイザー様の笑い顔!!)


 口角が少し上がることも、目元が優しくゆるむこともある。けれど、声を出しているのはレア中のレア。激レアだ。アディルは必死でカイザーの手を外そうとした。優しい力で覆われているはずなのに、何故か全く動かない。


(何で!!??)


「ふぎぎぎぎぎぎ……」

「……ふっ。はははははは……」


 耐えきれないように上がった笑い声。何が何でも見たい!! そんな欲求がアディルの中で膨らんでいく。


(こうなったら……)


「こちょこちょこちょこちょー……」


 アディルは全力でくすぐった。カイザーの脇のあたりを思いっきり。だが、反応はない。


(この世にくすぐりが効かない人が存在するの!?)


「くすぐるということは、やり返されても文句はないよな?」


 その言葉と共に再び明るくなった視界。そこにいたのは、悪い顔をしたカイザーであった。


「えっ? でも、カイザー様には効いてないですし、そもそもカイザー様が目を(ふさ)いだから……」

「うん?」


(んぁぁぁぁああ!! うん? の一言ですべてを語られるとか……。尊っっ!! 悪い顔とイタズラ顔の共存、良いぃぃぃぃい!! カイザー様からのくすぐり? ご褒美です!!!! よろこんでぇぇええ!!!!)


「どうぞっ!!」


 アディルはくすぐりやすいように、両手を上げた。まだくすぐられていないのに、体はモゾモゾ、口元はふよふよと動いている。


(くすぐられる前から、くすぐったがってるな……)


 冗談だと言うつもりが、膝の上では既に覚悟を決めている。


(どうしたものか……)


 くすぐってしまってもいい。だが、馬車という狭い空間でくすぐった場合、壁などにアディルの腕や足がぶつかってしまっては大変だ。そんなことは絶対に起こさないつもりだが、万が一ということもある。

 カイザーは悩んだ。強い魔物と対峙(たいじ)する時でさえ、こんなに迷ったことはない。くすぐられるのを期待されれば、叶えたくなる。だが、ほんの砂粒ほどでも、アディルが痛い思いをする可能性があるなら、やりたくない。

 必死に妥協案を探し、それは頭の中に舞い降りた。


 つんっ……。


「ふふっ……」


 つんつんっ……。


「あはははは……」


 つんつんつんっ……。


「きゃはははは……」


 人差し指で脇腹をつつかれる度にピクリと体を跳ねさせながら、逃げるようにアディルは体をねじった。だが、アディルの今いる場所はカイザーの膝の上。逃げようにも逃げ場はなく、アディルはきゃはきゃはと笑い続けた。


「参ったか?」

「ま、参り……参りましたぁ……」


 そう言って見上げれば、カイザーは楽しそうに笑っていた。


(うぁ……)


 いつもはあんなにも絶叫する心も、ドクドクと全速力で動くのみ。アディルは瞬きも忘れ、カイザーを見詰めた。


「アディル……」


 ゆっくりと近づいて来る顔。アディルはそっと瞳を閉じた。


(私もついにカイザー様とキスを……)


 もうこれ以上速くならないと思った心臓は、もっと速くなり、自分が心臓にでもなってしまったのではないかと思うほど、ドキドキしている。だが、いくら待っても唇に何も触れない。そのことを不思議に思って薄目を開ければ、カイザーの視線はおでこに集中していた。


「いつ、怪我した?」


 おでこと髪の生え際にある薄い薄い傷跡。よくよく見ないと分からないうえに、いつもは前髪で隠されている。それが、笑って動いたことで、おでこが全開になりカイザーの視線にさらされた。


「えっ……?」


(今、チューの流れだったよね? あれ? 気のせい? というか、結婚してって言ってもらったけど、好きとは言ってなかった。あのプロポーズって私のため? 嘘をつく方じゃないけど、可愛いも異性への可愛いじゃなくて……。もしかしなくても、私の勘違い?)


 気付けばいなくなってしまった甘い雰囲気。アディルは、恥ずかしくて叫び出したかった。


(カイザー様はいつも優しかったけど、好きな人に対する好きっていうより、やっぱり妹とか小さい子を可愛がる感じだったよね。婚約することになってからは、甘さ増し増しだから勘違いしてた。知り合いから婚約者への対応に変わっただけで……)


「アディル?」


 恋愛経験はカイザーにだけ。しかも、片思いが長かった。客観性など、カイザーに関することには持ち合わせていない。何より、自分に自信がなかった。人より小さい体も、幼い顔つきも、アディルにっとてはコンプレックスでしかない。

 勉強を頑張ったことでようやく生まれた少しの自信も、先日のオルフェノス家への挨拶で消え失せた。上手くできなかったからと、泣きじゃくるなんて子どものやることだと、アディルはあの日のことを後悔している。叶うなら、もう一度その日に戻ってやり直したい。そう願わずにはいられない。


「アディル、どうした? 嫌なことでも思い出したか?」

「いえ。傷は領地にいる時に枝に引っ掛けたものです」


 咄嗟(とっさ)に嘘をついた。それは、心配をかけたくないという気持ちからだ。


(目が泳いでいるな。俺と出会ってから、顔への傷はないはず。ということは、その前か……)


「なかなかお転婆(てんば)だったんだな」

「馬で遠乗りしたり、領民と農作業したりしていました。こっちでは、信じられないことですよね」

「いいんじゃないか? 遠乗りでも、今度するか。愛馬はいるのか?」

「はい。でも、領地でお留守番してます。ここじゃ窮屈(きゅうくつ)でしょうから」


 寂しそうにアディルは笑った。どんな時でも感情を隠しきれない。それは貴族女性としては欠点とも言える。だが、カイザーはアディルのその素直さを好ましく思っている。


「一緒に暮らすようになったら呼ぼう。馬の名は?」

「ルディです」

「アディルからとったのか? 良い名だな」


 頭を撫でられ、アディルは瞳を細めた。子ども扱いだと思うけれど、カイザーとの触れ合いは心が弾む。


(恋じゃなくてもいいじゃない。こんなに大切にしてもらっておいて、何が不満なの? そばにいることさえ、できなくなるような方だったんだから)


 アディルは嬉しそうに笑えば、カイザーの瞳も和らぐ。その瞬間がアディルはとても好きだ。


「そろそろ着くぞ」


 カイザーの声とともに、馬車の速度はゆっくりなものへと変わる。


(帰ったら、傷について調べないとな。必要なら、排除だな。時間はかかっても、必ず潰す)


「楽しみですね」

「そうだな」


 馬車は止まり、アディルとカイザーは宝飾店の扉を潜っていった。

 

 

甘々でしたか?

カイザー、やると決めたらやる男ですよ(о´∀`о)

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