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魔道具師は免許制だ。
受験資格としては十八歳以上で、工房で一年働いた者だ。試験は筆記と実技、面接とがあり、すべてに合格したら免許が付与される。
以前はこの試験のほかに、十八歳以上で魔道具工房で三年働いた者でも取得資格があった。しかし、近年の魔道具普及による事故が多発したため、試験を受けることが必須となった。
大抵は卒業後、魔道具工房で一年間、見習いとして働いて受験する。
ルシールは婚約期間は魔道具関連から遠ざかっていたので、一年遅れの受験となる。
キャラハンに到着した翌日が筆記と実技があり、その翌日に面接を受ける日程だ。
受験者数が多いため、逆の日程の者もいる。
ペルタータ島の各地からキャラハンに集まって来るのは効率が悪く、また、受験者が年々増えているため、カーディフを始めとする主要都市でも受験できるようにしようとする向きもあるらしい。
これらの情報はすべて魔道具師協会が発刊する雑誌による情報だ。そこには試験概要も記載されている。試験概要については魔道具師協会へ行っても要項を知ることができる。
ルシールが受けた筆記試験の内容は、各種設問に答えることだった。実技試験は「組み立て」だ。
面接では主に受験者の人となりを見ると言われている。
「よからぬことを考えていないかどうかかしらねえ。ほら、魔道具師って危険物も扱うから」
シンシアはそんな風に言っていた。
過去問を繰り返し解いていたが、いざ、席について問題用紙を前にしたときには緊張した。
「魔道具に用いる素材のうち危険物の定義について、次のうち誤っているものはどれか」
「魔道具工房における安全措置への基準について、次のうち正しいものはどれか」
「加工素材の状態変化に関する記述として、次のうち誤っているものはどれか」
「ベルトとチェーンの違いについての記載において、次のうち誤っているものはどれか」
「各部品が行う働きを答えよ」
一見、難解な言葉に見えて、聞いたことがあるものばかりだ。
「たとえば、ベルトとチェーンだ。それぞれ良し悪しがある。耐久性と騒音だな」
用途と目的に寄ってどちらを使うか判断する。つまり、どちらを使うかはその性質を良く知っておく必要がある。
「ベルトは<ゴム>でできていて、チェーンは金属だ」
ベルトは歯車よりもなめらかな伝達ができ、騒音が少なく、耐久性はチェーンよりも低く、メンテナンスしやすい。
チェーンは伝達効率が良く、スプロケットの軸受けの摩耗が少なく、耐久性が高い。
マーカスに手を引かれて連れていかれた加工工房でそう教わった。
そして、マーカスからも様々な部品の役割の説明を受けた。
「ドーナツのようなワッシャー、のぞき穴がふたつついたクランク、オールみたいなボーン、そして、小さなお日さまの形をした歯車」
滑車、クランク、歯車はモーターの回転運動を上下の運動に変えたり、上下の運動を左右の運動に変えたりする。
「こういうものを動かす仕組みを機素と呼ぶんだよ」
それらを思い返して答案を埋めていく。
近年、豊かな七つ島では魔道具が広く普及し始めたからか、事故が頻発している。だからか、そういった際の判断や行動を問われる設問もあった。
緊急時において素材が不足した場合の対処などを記述する。
ルシールはすべて書き終えると二回見直した。
ペンを置いてため息をついたとき、終了の鐘が鳴った。
実技試験が始まるまで待機する試験会場の待合室はさざ波立つように会話がなされていた。
「なんであんなに難解な文章にするんだ?」
「だよな! 意味を読み取るのに時間がかかったよ」
「あんなにこねくり回した文章にしないで、もっとすべての人が分かるように書くべきじゃないか?」
デレクが聞いたら、「すべての人に分かるように書いたからこそあんな文章なのだ」と言っただろうか。
会場には学校卒業後一年間の見習いを経て、すぐに免許取得をしようという者や三十代に見える者までいた。ただ。
「女性の姿が少ないな」
「そりゃそうさ。免許試験はそう簡単には受からないからな。特に女が苦手とする問題がたくさん出て来るから」
まだまだ魔道具師という職業は女性向きではないという認識が根付いている。特に、加工や素材のことになると、忌避感を覚える者もいるのだという。
そんなことを考えながら臨んだ実技試験では誰よりも早く組み立て終わった。
試運転しても問題なく動く。
挙手して試験監督者に合図し、提出する。その間、あちこちから視線が突き刺さる。
女性なのに、あんなに早く終わるなんて後から不具合が出るのでは、という声なき主張に居心地が悪くなり、早々に退室することにした。
翌日の面接では、待機時間が長くて待つことにくたびれた。割り振られた番号群は大体どの時間帯に来るようにと指示されていたが、みんな余裕を持ってやって来る。だから、今日も試験会場の待合室には大勢いた。実技試験に早々に退室したことからか、好奇の視線にさらされた。
ようやく面接の順番がきたときには妙に気疲れしていた。
室内に入ると、窓を背にして何人かの面接者が横並びで座り、その前に一脚の椅子が向かい合うようにして置かれている。そこに座るように指示される。
質問されたことに答えていく。
「ほかになにかありますか?」
端に座った者がほかの面接者たちに問うと、ひとりが挙手した。中央に座る、白髪の快活そうな男性だ。
「ルシール君は【ウッキウキの手袋】の使用申請が出ているね」
「はい。それがなければ魔道具を扱うことができません」
事前に実技での使用申請を出していた。
「その魔道具をどう思うかね?」
「魔道具師だけでなく、加工屋、素材屋、採取屋、学者のような多種多様な人間の尽力によるこの魔道具のおかげで、わたしは魔道具師を目指すことができました」
ルシールはみなで試行錯誤することのすごさ、様々なものが影響し合うことの重要性を知ることを語った。
「各第一人者への尊敬の念を忘れてはいけないと思わせてくれる魔道具です」
魔道具は魔道具師だけでは作れない。なんでもそうだ。
成功者は自分ひとりがすごいと思いがちだ。でも見えないところでの尽力があることを知るべきだ。
「それを知っているのなら、君は立派な魔道具師だ」
白髪の面接者は満足そうに頷いた。
「まだ面接の途中ですよ」
隣に座る者がやんわり諫める。
「では、面接はこれにて終了です。結果に関しては追って通知します」
「ありがとうございました」
ルシールは席を立ち、一礼して退室した。
試験会場の廊下を歩きながら、一歩進むごとに解放感が生み出されてくる。
レアンドリィ総督の船の副操縦士が言っていたように、キャラハンを見物しようか。せっかくペルタータ島の第一の都市にやって来たのだ。
ここの素材工房は七つ島でも有名だ。最近ではカーディフが追い越さんとしているが。
そんな風に考えていると、声を掛けられた。
「ねえ、あなた、実技試験のときに【ウッキウキの手袋】を使っていなかった?」
短く整えた赤茶色の髪の女性が茶色の瞳を真っすぐにルシールに向けていた。




