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「ほかにも鳥を探している集団がいましたが、関わりが?」

「どうかな。そちらはラヴィネン国から来たようだよ」

「ご存知でしたか」

 クリフォードは最近掴んだ情報を、すでにヒューバートが得ていたことに感嘆する。


「「彼」は姿を変えることなく動いているからね」

「ああ、目立つ容姿らしいですね」

「わたしの妖精や君ほどにもうつくしいらしいよ」

 ヒューバートの妖精というのは妻エスメラルダのことだ。とても身体が弱く、子供を得ることが難しいだろうということで、当時、次期レアンドリィ総督のヒューバートの伴侶には不適格だと目されていたという。クリフォードの父も応援し、少なからず手を貸したとことあるごとに聞かされてきた。


 父は目を輝かせて美男美女の恋物語を話した。特に、エスメラルダの容姿を褒め称えた。だから、そんなエスメラルダと並び称されると、自身の容姿をよくよく分かっていてもなんだか面はゆい気持ちになる。

 なお、クリフォードがすなおに気恥ずかしく思うのは父やヒューバートに言われたときくらいで、ほかの者に称賛されても鼻で笑って流す。

 ああ、けれど、あの翡翠に言われたら、素直に嬉しいかもしれないと内心思う。


「我らの鳥のことでしょうか?」

「まだ分からないね」


 内海はおだやかな海、温かい気候によって周辺諸国は栄えた。様々な文化が交流をしてきた。だが、その豊かさは常に平穏の中にあったのではない。豊かさゆえ、他国の侵略を受けることが多かった。群島諸島である七つ島も他国の手から免れなかった。


 総督たちは歴史から戦争を起こさないことが繁栄の道につながると学んだ。外交戦略に力を入れた。一国とだけ交流を図るのではなく、様々な国とつながりを持ち、パワーバランスの舵取りをする。

 おかげで、七つ島には穏やかな時代が続いた。


 豊かでのんびりした環境で生まれ育ったから、性質は良いものの、人の悪意に鈍感になりつつある。また、逆境で歯を食いしばって耐え忍んだ経験が後に才能を開花させることもあるが、そういったケースはあまり見られなくなった。


 次の段階に進むべきだ。

 もっと島外に目を向け、力で奪う者もいるのだということを知らしめなければならない。

 困窮していれば他者の物を掠め取る者もいるという危機感を覚えさせなければならない。そうすれば、自ずとそれに対抗する術を持とうとするだろう。

 適当にやってそれなりに暮らせればそれでいいという考えを持つものも増えた。

 それではなんともならない。いともあっさり奪われ、傷つけられ、死に至らしめられる。大切な人や物をことごとく壊される。穢され貶められる。

 そうなってから嘆いても遅いのだ。


「我ら七つ島の鳥。あれは外には出さない」

 泰然とした態度で言うヒューバートに、クリフォードは頷いた。

 クリフォードは早い段階で父に代わって総督となろうとした。それだけに、完璧であろうとしていた。

 ヒューバートは完璧である必要はないし、人間は不完全だという。そして、なんにでも価値や利益を見出そうとしなくても良いのだという。


 エスメラルダがルシールを気に入ったのは単に彼女のことを好きになっただけだという。

「それでいいんだ」

 穏やかに笑うヒューバートに、ああ、この人には敵わないなとクリフォードは実感する。


 邁進(まいしん)するがあまり、自分が好きな人間にも完璧を求めてしまう。そこから外れたら落胆したり失望する。けれど、それは自分の勝手な思惑だ。相手にはなんの瑕疵もない。それを分かっていない人間は多い。


「なんでも自分と同じレベルのものを要求してはいけないよ。第一、君、そんなことをしていたら、周囲に誰も残らなくなるじゃないか」

 呆れてみせるヒューバートに、誰よりも優れた人間だと言外に言われ、クリフォードは表情を取り繕う。


「猫なのだったら、いいかな」

 言って、ヒューバートはわざわざ立ち上がってクリフォードが座るソファの隣に腰かけ、頭を撫でた。

「……これ、猫扱いをされているんですか?」

 クリフォードはおとなしくされるがままになっていた。彼の側近が見たら顎が外れ、眼球が渇くほど目を見開くだろう。レプトカルパの若き総督はそんなことを両親のほかには誰にも許さないからだ。


「うん。それと、君はユージーンの息子だから、わたしの息子も同然だ」

 ヒューバートの言葉はクリフォードの心を温めた。


「では、「翡翠」はわたしの姉同然ということになりますね」

「ああ、そうだね。よろしく頼むよ」

「任されました」

 守り手は多いほど良い。ヒューバートの意図を汲んでクリフォードは無邪気にほほ笑んだ。

 後に、クリフォードはルシールにふたたび会いに行って、「ヒューバートおじ上の娘同然なら、わたしの姉同然です。よろしく、姉上」と傲然(ごうぜん)と笑んだ。

 その場面に居合わせたリオンは、ルシールに好意を寄せる見目麗しい異性がまた増えたことに、膝から崩れ落ちるのだった。




 素材屋デレクの下へレアンドリィ総督の側近が現れた。

「翡翠」を守るためなら、「レアンドリィ総督」の名前を存分に使えと言う。

「豪儀なことですね」

 総督が隣島の一介の素材屋に名を使うことを許可することの意味を、デレクは分かっていた。

「素材屋デレクならば、この名の使いどころを間違わないでしょう」

 すさまじい高評価である。

 ルシールからもレアンドリィ総督夫人のことを聞いていたデレクはすんなりと受け入れるのだった。




いいね、ブクマ、評価、ありがとうございます。


「傲然と笑んだ」です。

「婉然」ではありません。

※傲然は「尊大な」という意味です。


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