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ふたりひと組みとなり、単独行動を避けた方が良いとなった。
リオンとルイスが部品の素材となるものを採取し、ディックとリックが食料と水を探しに行く。周辺で食べられるものの確保だ。特に果物は水分と糖分もとれる。
ルシールはリオンに、【クゥーンの採取セット】の中の折り畳み式ツルハシやスコップなどを渡した。
残ったジェフは実は教師をしており、しかも専門は工学科であるという。
「わたし、工学科を卒業しました」
「魔道具師になるのなら、そうでしょうね」
ジェフは少し話しただけでルシールの知識が桁外れだということに気づいた。採取屋のふたりに採取するよう指示したことからも、見習いではありえないことだとは思っていた。
テレンスとラナはけが人についている。
しばらくの間、手持ち無沙汰にしていたエリがルシールに近づく。
「ねえ、リオンさんって格好良いね」
「そうですね」
「恋人はいるの?」
ルシールは詰まった。自分です、というのがなんだか妙に気恥ずかしい気持ちになったのだ。
「エリさん、今はそういった話は」
ルシールは言い淀む。
「何よ。あたし、暇なんだもん」
「ルシールさんはとても忙しいのよ。見て分からないの?」
奥からラナの声が飛んでくる。手当もひと段落ついたから、こちらの会話を聞いていたのだろう。
「それにあなた、リックさんが恋人なんじゃないの?」
「そんなの、いつだってチャンスがあれば、もっと上等な男に乗り換えるわよ。当たり前じゃない」
エリが挑戦的に笑う。
そうなのだろうか。だから、元婚約者もルシールという婚約者を確保しながら、もっと良い相手を探していたのだろうか。
「リオンさんってあれでしょう? 新素材を発見した採取屋リオン。きっと高給取りよねえ。しかも、あんなに格好良いなんて。噂以上じゃない! それにこんなときなのに落ち着いていて頼りになるわあ」
「こんなときなのに、そんなくだらないことを言い出すなんて、呆れるわあ」
ラナがエリの言葉遣いを真似て返す。エリは鼻に皺を寄せる。
「何よ。なんだかんだ言って、あんただってお金持ちのイケメンが良いんでしょう?!」
「いっしょにしないで」
ラナはきっぱりと否定した。
「ふん。偉そうなことを言っているけれど、結局は自分だって狙っているんじゃないの?」
エリが馬鹿にしたような顔つきになる。
「勝手なことを言わないで」
ラナの唇の端がぴくぴくと震える。
「だって、あんなに格好良いのよ? しかもなんていうの? 動作が速いというか、なんであんな風に動けるのって、感じ。リックとは大違い! スマートだし。お金持ちだし」
エリは両手の拳を上下に振って熱意をこめて言い募る。
「あんたねえ! さっきから見た目とお金があるかどうかばかり!」
「だって、それが重要なんじゃない!」
分かっていない。それらはリオンを構成するひとつかもしれないが、もっといろんなものが複雑に組み合わさっている。なにより、容姿はともかく、採取屋としてのリオンは彼の努力によって成り立っているのだ。
「わたしはリオンのそんなところが好きなんじゃないわ」
思わずルシールは口を出した。リオンがそれだけの人間のようで我慢ならなかったのだ。視界の端にジェフが驚いた顔をしているのが見える。エリの向こうでラナも同じような表情になっている。
「はあ?」
エリがしり上がりの声を出す。
「リオンがすごいのはそんなことだけじゃないの」
「ああ、あんた、リオンさんのことが好きなのね?」
「ええ、そうよ」
わざと吹き出しそうなジェスチャーをとるエリに、ルシールは是と答える。
「あんたみたいな地味な子を、彼が相手にするわけがないじゃない! あの採取屋リオンよ?!」
エリがおかしくて仕方がないという歪んだ笑みを浮かべて言う。
「ただいま、ルシール」
リオンが小屋の中に入って来た。
実は、大分前からリオンもルイスも小屋の前にいた。正確に言うと、エリとラナの言い争う声が小屋の外に漏れていて、それを盗み聞きながらにやにやするディックと、泣きそうな顔になっているリックに合流したのだ。扉を薄く開けて聞き耳を立てるディックが邪魔で小屋に入ることができないでいた。
ルシールが貶められたことから我慢ならず、ディックを押しのけて、リオンは小屋に入った。
リオンは真っすぐにルシールに近づくと、いつもの調子で軽くハグする。座っているので頭頂部が目の下にある。屈んでそこにキスする。「ふたりでいるときのいつもの調子」で振る舞った。
「俺はルシールの恋人だ。彼女を不当に貶されては気分が悪い」
ルシールを腕の中に抱えたまま、顔を上げてエリを見て言い切る。
ルイスが口笛を吹き、ラナが両手で口元を覆い、なぜかテレンスが拍手していた。
「なによ、なによ、なんなのよ!」
エリはわなわなと震え、周囲を見渡す。誰か自分の味方はいないかと探し、見つけた。
「リック! この人たち、わたしをいじめるの!」
言いながら飛びつこうとしたが、リックはさっと避けた。ごん、と小屋の板壁にぶつかる。
「痛あ~! なにするのよ、リック!」
「それはこちらのセリフだよ。君、僕からリオンに乗り換えようとしたんだよ?」
エリに惚れているリックもさすがにこれはいただけない。
「やだ、盗み聞きしていたの?」
「ディックさんがね。僕は隣にいたから聞こえただけだ」
リックの冷たい表情と声に、エリは矛先を変える。
「なんてことしてくれんのよ、このオヤジ! あんたのせいよ!」
「はぁぁぁ?! お前の自業自得だろうが、尻軽女!」
三人でぎゃあぎゃあ喚くのを他所に、リオンはルシールに囁く。
「俺が好きだって、容姿と所持金だけじゃないって言ってくれて嬉しいよ」
「ど、どこから聞いていたの、リオン?」
ルシールはぎょっとしてどもる。
「ほぼ最初からかな?」
真っ赤になって俯くルシールにキスしたくなったがなんとか留まる。これ以上、彼女に羞恥を味わわせたくなかった。なかったが、「なんでここはこんなに人目が多いんだ」と、とても残念に思っていた。
ルシールに好かれていることは分かっていたが、改めて言われると嬉しい。しかもあんな風にリオンのために立ち向かってくれるなんて、とリオンが感動していると、ふたたび高い口笛が吹かれる。
「すげえ。あのだれにも靡かない「つれない男」「難攻不落」のリオンがメロメロじゃないか! アランに報告だ!」
ルイスはアランとも知り合いのようだ。採取屋どうし繋がりがあるのだろうとルシールは考えた。
「止せ。アランは知っている」
なんなら、付き合う前からのことまで知られてしまっている。
リオンは顔をしかめて目線だけルイスに送る。つまりはまだルシールに抱き着いたままだ。だが、それはルイスを喜ばせるだけだった。
「うっは。絶対、今度アランと飲みに行こうっと」
アランに余計なことを言うなと釘を刺したいところだが、そうすれば火に油を注ぐものだということは分かり切っている。なので、リオンは違う手札を切ることにした。
「ルイス、いいか? ルシールはデレクさんが可愛がっている魔道具師見習いだ」
ぴたりとルイスが動きを止める。
「ま、まさか、あの「お掃除妖精」?!」
愕然とするルイスに、リオンが無言で重々しく頷く。採取屋は情報収集能力を必要とされる。実力のあるルイスならばある程度は知っていると踏んだが、やはり情報を掴んでいたようで、効果てきめんだった。
「アランに詳しく話を聞きたいところだが、辛辣なデレクの秘蔵っ子をからかったって知られたら、俺、カーディフで採取屋なんてできないよ。そんなの、アランくらいなものだろう!」
アランがデレクの息子だということもあるが、彼はその立場でなくても危険回避することは可能だ。アランもまた、優れた採取屋だ。
「しかも、相手が「お掃除妖精」とあっちゃあ、カーディフの腕の良い加工屋のほとんどを敵に回すようなものじゃないか!」
「ルシールさんって一体どういう人なんですか?」
苦悩するルイスの言葉を聞いて、ジェフが不思議そうな顔をした。ルシールはなんと説明すれば良いものか見当もつかなかった。
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リオンは実はルイスが言っている通り、難攻不落です。ちょっと目を離したすきに恋人がちょっかいをかけられるので、自分が攻略されている場合じゃないです。
リオンはルシールには柔らかいけれど、アランやルイス、ディックなどには硬質な対応です。




