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 リオンは異性から秋波を送られるだけでなく、採取屋の腕も買われている。冬のオフシーズンだというのに、頼みごとをされている様子だ。

「なあ、リオン、考え直してくれないか?」

 以前もリオンに話しかけてきた年配の男性だ。

「あんたもいい加減、しつこいな」

 リオンは呆れたように眉を跳ね上げた。


「悪い話じゃないだろう?」

「いるかどうかも分からない鳥を探すなんて、俺には無理だ。ましてや、なにかの集団に属するつもりは今のところないな」

「そんなこと言わないでさ」

「悪いが、ほかを当たってくれ。俺くらいの採取屋なら大勢いる」

「君の腕を高く買っているんだ。新発見をした上、北の大陸でも採取したんだろう?」


 ルシールはずいぶん、リオンのことに詳しいのだなと思いながら、話が済むまで離れたところで待っていようかと思った。

 一歩後ろに下がったルシールはそれ以上動けなかった。リオンが手を繋いだからだ。

「ごめん、待たせたね」

「ううん、」

 年配の男性はまだ話そうとしていたが、リオンはらちが明かないとばかりに強引に切り上げた。


「こういうとき、デレクさんならあっさり話を打ち切ることができるんだろうな」

「デレクさんと言えば、来年もまた新年祭に参加させてもらえないかしら」

 今年はルシールが元婚約者の家を手伝うのに忙しく、毎年恒例となっていた友人たちとの新年祭や素材屋と加工屋、採取屋合同の新年祭に参加することができなかった。

 婚約破棄となった後、ペルタータ島に引っ越したにもかかわらず、合わせる顔がなくてなかなか会いに行けなかった。先日、リオンに手を引かれてようやく挨拶をしに行くことができた。


「みんなそのつもりだよ」

「実はね、」

 ルシールが考えていることを話すと、リオンは破顔した。

「喜ぶと思う」

 リオンに保証され、ルシールは安堵した。余計なことではないかという不安があったのだ。

「良かった。じゃあ、今度デレクさんに相談してみるわ」

「今度と言わず、今から行こうよ」

「え、うん。でも、リオンはいいの?」

「もちろん。俺もいつも設営を手伝っているし」

 そして今日もまた、リオンに手を引かれてデレクの工房へ向かった。思い立ってすぐに行くことができる距離なのに、今まで本当に不義理をしていたものだ。




 カウンターの向こうで設計図を広げていると、ドアベルが鳴り、ルシールは顔を上げた。

「いらっしゃいませ」

 その人は悠然とした動作で入って来た。


 黄金が太陽の光で溶けたような眩い輝きを放つ髪、神秘的な紫色の瞳、遠目からも分かる長いまつ毛、理知的に長く尾を引く眉。うつくしい容貌の持ち主だ。リオンよりも少し年上だろうか。

 仕草ひとつひとつに目を引かれる。人の意識を捉える。


「こんにちは。鳴き声シリーズの魔道具は置いていますか?」

 ひと目で島外の人間だと分かるが、艶のある声で流暢なグランディディエリ群島語を話した。


「ございますよ。どんなものをお探しですか?」

「鳥に関するものを」

「でしたら、【コケコッコの時計】や【ピーチュルルの録音機】、【クルッポの通信機】などがございますが」

 言いながら、ルシールは【警報装置】を解除し、棚から【コケコッコの時計】を手に取ってカウンターに置いた。


 それを撫でたのはいつもの癖であり、無意識のものだった。ルシールの指の動きに呼応するように、腹の部分に時計が組み込まれた木製のニワトリ、その羽がかすかにふるえる。

「動いた」

「はい。鳴き声シリーズの魔道具には稀にあることなんです」

「そうみたいですね。もう一度撫でてもらっても?」

 その人は鳴き声シリーズの魔道具の特性を知っていたらしい。不思議なリクエストをされ、ルシールはわずかに戸惑う。だが、無茶な依頼をされたのでもない。

 そっと触れると、今度は嘴が動いた。


「すごいな。君が触れるとよく動く。魔道具が喜んでいるようだ」

 ふわりとほどけるように笑った。高い身長だからか、屈むようにして覗き込んでいた。至近距離の美形の笑顔に思わずどきりとする。

 リオンという飛びぬけた容姿の持ち主をよくよく見知ったルシールでさえ、動揺する容貌だった。


「どうでしょうか」

 思えば、魔道具が抱える記憶を具現化させるのはいずれも鳴き声シリーズの魔道具だった。マーカス曰く、発明者が異なっても遊び心がある魔道具なので、そういうこともあるのかもしれない。


「君は鳴き声シリーズの魔道具は好き?」

「はい」

 今でも【ンメェェのノート】を愛用している。【ウッキウキの手袋】がなければ魔道具を扱うことができない。魔道具を作ったらそれに対応する鳴き声シリーズの魔道具も手掛けてみたいと思う。


「そうか。じゃあ、今度、鳴き声シリーズの魔道具を持ってくるから触れてみてほしいな」

 動くかどうか見てみたいのだという。


「それは構いませんが、」

「妙なお願いでごめんね。僕はエル。君は?」

 ルシールの戸惑いを読み取ったかのようにかすかに苦笑して名乗った。

「ルシールです」

「じゃあ、ルシール、また来るね」

 そう言ってエルは去って行った。


 そして、翌日、またやって来た。

「これなんだ」

 包みをほどくと、うつくしい木目調の小箱が現れた。

 蓋の部分に鮮やかな青い粒がいくつも連なって埋め込まれている。


 前面には鳥が刻まれており、昨日エルが鳥の魔道具を求めたことを思い出す。その鳥は見たことがない少しぽってりしたフォルムが愛らしく、どこかとぼけたような顔つきをしていた。

 側面にはスピーカーがついていた。


「これは木の実なんだ」

「こんなにうつくしい木の実があるんですね。

 五叉に裂けた(さや)の中に並ぶ青い粒は、まるで宝石のようだ。鮮やかなスターブルーの木の実だ。


「これはね無銘の魔道具なんだ」

「特許申請していないんですね」

 つまりは設計図番号ではなく専用番号が刻まれている魔道具だ。

「うん。音楽を奏でるんだけれど、特に変わった機能はついていないんだ」

 ということは、【録音機】ではないということか。


「触ってみてくれるかい?」

 エルはこれが鳴き声シリーズの魔道具ではないかと思っているのだという。

「よろしいのですか?」

「もちろん。そのために持って来たんだ」

 エルはその神秘的な色合いの瞳に決意を込めて頷いた。


 ルシールはそっと鳥を撫でた。と、鳥が瞬きした。まぶたが下から上に上がる。羽根がふるふると震える。


「ああ、」

 エルもしっかり見ていたらしい。

「鳥が動いた」

 ルシールはその万感が籠ったような声音が気にかかった。

「すごいね。本当に、すごい」


 その後、エルはスイッチを入れて、音楽を聞かせてくれた。まるで鳥が歌を歌っているかのように、愛らしい高音の旋律が軽やかに弾んだ。

「僕の故郷の歌なんだ」

「では、故郷の魔道具師がおつくりになったのでしょうか」

「たぶんね。その魔道具師を探しているんだ」

 ルシールは途方もない話に戸惑った。七つ島にいるのだろうか。群島諸島とはいえ、大勢の人間が暮らしている中、ひとりの魔道具師を探す。一体、どんな事情があって、砂粒にうずもれた木の実を探すようなことをしているのだろうか。


 エルは昨日見せた【コケコッコの時計】を買うと言った。

「あの、もしかして、この魔道具を触ったからというのでしたら、お気になさらず」

 ルシールが気を回すと、エルが少し笑った。

「ううん、妹が好きそうなものだから」

「そうなんですね」

「妹は幼いころに亡くなったんだけれどね。彼女が好きそうな魔道具を持っているのも良いかなと思って」


 さらりと告げられた言葉にルシールがなんと返せば良いか分からないでいると、エルは笑って言った。

「そんな顔をしないで。もう大分昔のことなんだ。でも、僕は妹のような人をもう出したくはないな」

 最後の方はひとり言のような呟きとなった。その表情は真剣で、幼い者の死というのは誰もが心を痛めるものなのだと思わずにはいられなかった。

 ルシールの気づかわしげな表情を見て、エルはふたたび柔和な顔つきに戻った。


「この島はとても暖かくて良いね。冬とは思えない」

 エルは暖かさだけでなく豊かさも素晴らしいと言った。その声音に強い羨望を感じた。

 やはり島外から来た人なのだ。

 南北の大陸では異常気象や凶作による飢饉、はやり病などで多くの人々が困窮することがあるという。


「冬なのに妹が好きだった花が咲いていたよ。シルセスの花が」

 シルセスはピンクや紫、白い花を咲かせる。

「妹はピンクが好きだったんだ。ハート形に見えるって」

「可愛らしい花ですよね。一面に咲くから遠目にも分かります」

 エルの故郷では春に咲く花だが、ここでは冬でも咲いているので驚いたという。

「日光を好む花なのに。いや、ここは冬でも眩しいくらいの日照がある」

 そんな風に言う本人こそが太陽の光を集めたような髪をしていた。

「じゃあ、またね」

 そう言ってエルは去って行った。





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