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 その日、リオンがシンシアの工房にやって来、ちょっと外に出られないかと誘われた。

 ルシールは見習いとして入ったばかりではあったが、なんだかリオンの様子がおかしい気がして、シンシアに頼み込んだ。

「いいわよ、行ってらっしゃい」

 シンシアは気分よく送り出してくれた。


「どうかしたの?」

「実はさ、」

 祖父が亡くなったのだという。

「それは、———残念なことです」

 こんなとき、どんな言葉をかければ良いのか分からず、定型文を口にした。リオンは少し唇の端を釣り上げて笑った。


「気を遣わせてしまって悪いな。でも、ずいぶん前から調子が悪かったから、みんな覚悟はしていたんだ」

 そうは言うものの、リオンは沈んだ様子だ。気難しいとは言っていたが、それだけリオンにとって大きな存在だったのだろう。リオンもゆくゆくは素材屋になることを視野に入れていると言っていた。七つ島の中でも高名な素材屋である祖父のことを、常に意識させられたに違いない。


「実は、これを譲られたんだ」

「【ブヒヒンの荷車】ね」

 いつか、中型の【ミシン】をマーカスの魔道具工房に運んできた際、使っていた鳴き声シリーズの魔道具だ。

 積み荷を軽量化して運べる荷車で、たまにへそをまげられ、うんともすんとも動かなくなることがあるという。


「さすがは祖父さんの形見だよ。気難しいところが元の持ち主にそっくりだ。扱いに四苦八苦させられる」

 そんな風に言う声音はやわらかかった。

「【ブヒヒンの荷車】ってそうみたいね。なだめすかす必要があるので、いち早く傾向を掴んで対策を練る必要があるって聞いたわ」

 リオンに断ってそっと車体に触れる。ゆっくり指を滑らせながら眺めていると、ふと一部の軸のはめ込みが甘いような気がしてそう言うと、リオンはすぐにその部分をぐっと押し込んだ。

「お、良い感じだな」


 その後も、リオンはときおりルシールのいる時間帯にシンシアの工房にやって来た。

「参ったよ、採取に出かけたとき、坂道で急に止まってしまいやがって」

 カウンターに突っ伏して【ブヒヒンの荷車】の愚痴を言う。

 魔道具の癖の強さに苦戦するリオンにルシールは助言する。

「相性が合うと機嫌よく働いてくれるらしいわよ。たまにニンジンやリンゴをあげている?」

「鳴き声シリーズの魔道具をペットみたいに扱うのって、都市伝説じゃないの?」

「違うわ。魔力が動力源だから、頻繁にじゃない方が良いし、好みがあるの。もちろん、食べるわけではないわよ。ただ、好物の持つ魔力を吸収しているんじゃないかって言われているのよ」

 ルシールがそう言うと、リオンは馬鹿にしたり揶揄うことなく、検討し始める。

 ふたりでああでもないこうでもないと試してみた結果、ニンジン2に対し、リンゴ1の配分で置いておくと良いことが判明した。


「手入れの仕方も気を付けましょう」

「しているつもりなんだけれど」

「そうね。きれいに掃除しているけれど、ほら、かゆくて強めにかいてほしいとき、撫でられたら微妙な感じがするでしょう?」

 本人が言う通り、リオンはちゃんと手入れをしている。なのに文句をつけたような風に受け取られたかと慌てて言い添える。

「なるほど。本当に気難しいな」

 荷車はどの頻度で拭くか。その際、どの部分はそっとぬぐうようにするか。どこは強くこするようにするか。ふたりであれこれ試した。

 リオンの気難しい魔道具は劇的な変化を見せた。


「ルシールのおかげだよ。魔道具の反応をいち早く察することができるなんて、魔道具師ってみんなこんなことができるのか?」

【ブヒヒンの荷車】もリオンの癖を読み込んで、こういうときにはこうするというのを学習した。

「本物の馬みたいなんだ!」

 採取から帰ったリオンは嬉々としてルシールを訪ねてきた。

 足場が悪いところでは指示せずとも轍が取られないように巧みに動く。そして、急に飛び出てきた動物から積み荷を守るように機敏に移動したのだという。

 ルシールは手を握られ、思わずほほを赤らめた。

「ごめん、痛かった? つい興奮して」

 リオンはすぐに手を離したが、なぜだかちょっと残念な気持ちになった。


「ルシールは女の子だなあ。手が小さくてほっそりしている」

 そんな風に言うものだから、どうしていいのか分からず、両手を握り合せて俯くほかなかった。

 その後、イチゴとハチミツのゼリーを食べながら採取の話を聞いた。マーカスの魔道具工房にいたころと変わらない習慣に、安堵と懐かしさを同時に感じ、いつもの調子を取り戻すことができた。


 そのことがあったからか、リオンは後日、魔道具の癖や世話の仕方をいっしょに見つけ出してくれたお礼だと言ってハンドクリームをくれた。魔道具師は指先を酷使する。だから、手を握られた際、荒れているのに気づかれたのかと消沈したものの、やはり嬉しかった。

 マーカスがくれた魔道具や設計図などを、シンシアの工房に置かせてもらっている。そこに、宝物がもうひとつ加わった。

 家に置いておいて勝手に使われたり壊されたりしてはならない大切なものだ。


 



いつも、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

人物紹介を載せておきます。

よろしければ、ご参照ください。



●人物紹介

・ルシール・ステルリフェラ:翡翠色の瞳。茶色の髪。鳴き声シリーズの魔道具が好き。

・マーカス:魔道具師。ペルタータ島のカーディフで魔道具師工房を営む。

・リオン:採取屋。ルシールの六歳上。<海青石>のような色の瞳。金茶色の髪。

・トラヴィス:高名な素材屋。リオンの祖父。

・シンシア:魔道具師。ペルタータ島のカーディフで魔道具師工房を営む。

・デレク:素材屋。にこやかで物知りだが、周囲には恐れられている。

・アーロン:加工屋。腕がいい。無口。がっしりしている。

・ローマン:加工屋。アーロンの息子。がっしりしている。

・ドム:加工屋。大柄。太い指で繊細なものを生み出す。

・グレン:加工屋。ゴム素材の扱いに長けている。

・ネイサン:学者。北の大陸からやって来た。

・アラン:採取屋。デレクの息子。リオンと仲が良い。リオンの二歳上。

・ジャネット:ルシールの友人。麦わら色の髪をショートカットにしている。実家が飲食店を三店舗経営。

・ライラ:ルシールの友人。赤毛をポニーテイルに結っている。気が強い。実家が家具工房を営んでいる。

・ネリー:間延びしたしゃべりかたをする。おっとりしているがしっかりしている。


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