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 発見者であるリオンや学者は新しい素材をじっくり研究したいところだ。だが、ルシールが学生のうちに魔道具師見習いとしての道筋を得ておきたい。そのため、新素材の開発及び魔道具の発明は大車輪で行われた。


 アーロン工房とグレン工房の職人たちが協力し合って手袋とベルトの化合物を調整しながら数値を出していく。

【魔力変換装置】に<夜光珠>を用いることから、同じ属性の<夜を照らすラルネ>という貝の殻を加える。そして、80℃前後で数分間加熱してから常温に冷ますと、固くて非常に弾力性に富む<ゴム>状のゲルが出来上がる。これを成形する。

 新種の樹脂は耐水性のほか、<夢みる緑水晶>を加えると、驚異的な耐熱性を持つ。そして、魔力を通しやすい。


 そして、マーカスがそれら素材をもとに、魔力回路を作り上げ、魔道具に仕上げる。

 マーカスが引いた設計図により、必要な能力を備えた部品は形ができつつある。


 加工屋たちから受け取った試作品を、ワークボードを使って実験する。実際に魔力を流し動作確認を行って微調整を繰り返し、設計図を変更する。ちょっとしたことで作動しなくなることもあるので何度も繰り返さなければならない。


 実験に従って部品を組み立て、魔力を流す。

 魔力回路を魔力が駆け抜ける。

 迷路のように入り組んだ道筋を辿る魔力が描くのは世界の規則を示す紋様だ。まっすぐ走る魔力が回路に添って別れ、ときに螺旋を、波を描く。法則にのっとった紋様を描くことで、任意の事象を誘発させる。

 分かれ道に必要な装置が置かれる。それは魔力量を変化させるために流れの抵抗を起こすものだ。魔力流れが減少する。

 ふたたび、ワークボードに戻って実験を行う。その繰り返しだ。


 魔力回路設計には正解はない。「特定の場所から別の場所へ物を移動させる」という働きをする設計を複数の熟練者が行っても、人数分の設計になる。

 部品ひとつとっても、どんな素材、強度、大きさのものを使うか、といった多くの決め事を行うのが設計である。それら部品と使用魔力との兼ね合いもある。

 最も効率の良い規格品が市販品となり流通する。

 設計図の完成は地道な作業の先にある。


 マーカスはいつになく作業に没頭した。

 優れた魔道具師が作業を行うと、部品や配線が自ら動き、あるべき個所にはめ込まれたという話がある。大げさな作り話だと思われている。だが、実際の魔道具師はそうでないことを知っている。没頭するあまり、寝食を忘れてのめり込んだ結果、「そんな風に見えてくる」のだ。

 その領域を何度も経験した者こそ、優れた魔道具師になるという。そのくらいの努力が必要だということなのだろうが、デレクが言う通り、人間なのだから規則正しい生活をしなければ身体を壊す。

 なんでも、天才的な閃きひとつで特許出願する発明ができるというのではないのだ。

 マーカスはルシールに心配されて我に返り休息をとりつつ、魔道具作りに励んだ。




 十三歳の秋になり、ルシールは第四学年となった。大きな変化と言えば、その学年から専門科を選択する。

 ルシールは工学科を選んだ。専門科初年度の前期の授業はまだ概論や基本的なことしか取り扱わない。後期は実技も加わる。そして、どんなものづくりにしても、魔力が関わってくる。

 だから、最初、ルシールは専門科の選択を悩んだ。そんなとき、リオンに言われたのだ。

「実は、俺が発見した新素材で、みんなで魔道具を作ろうとしているんだ」


 マーカスらが協力し合って新しい取り組みをしているとは聞いていた。

 だが、それがルシールの魔力反発をなんとかする魔道具を作ろうとしているのだと聞いて驚いた。

「まだできていない。でも、必ず作って見せる。だから、ルシールは安心してやりたいことをすればいい」


 本当にできるのかとか、まだできてもいないのにとかは思わなかった。なぜなら、ルシールは多くの加工屋や素材屋、採取屋、学者、そして魔道具師が力を合せているのを見ていたからだ。その熱量はすさまじかった。熱はエネルギーというのは本当だ。さまざまな能力を持つ者たちが一丸となって成し遂げようとする様は確かな力を持っている。ルシールは肌でそれを感じていた。

 そうして、ルシールは工学科を選んだ。


 前期の初日に配られた教科書にざっと目を通した。あと半年後に魔力を扱う実技が登場する。

 リオンが発見した新素材は多くの者の手を経て、加工され、マーカスが引いた設計図の通りの動作をする部品となりつつある。魔道具が理論通りの働きをするかどうかはまだわからないという。

 でも、大丈夫。

 あんなにすごい人たちが力を合せて作ろうとしているのだ。

 ルシールは教科書を閉じてその上に手を置く。


「ルシール、ぼんやりして、どうしたの?」

 赤毛をポニーテイルにしたライラが声を掛けてくるのになんでもないと返す。

「んもう、そんなだから、妹なんかに良いようにされるんだからね!」

 専門が違うため、ジャネットとはほとんど別の授業となる。工学科では男女比は前者に偏っているが、女性もそこそこいる。


 そのころになると付き合い出す同級生もちらほら出始めた。男女ともに将来を考えるようになり、大人びてくる。

 ジャネットたちも違うクラスの異性のことまで噂するようになった。学校の外では年上の人とばかり接するルシールにはまだ幼く思えた。ルシールは気づかなかったが、第一線で働く素晴らしい技能と頭脳の持ち主に囲まれているため、どうかすると学校の教師よりも最先端の話題には事欠かないのだ。当然、それに見合う風格や振る舞いを身近にしている。


「ルシールはどんな人が好みなの?」

 そうジャネットに聞かれ、瑞々しく鮮やかな海の色の<海青石>の瞳を思い出す。

 リオンを思い出せばとろりと甘いハチミツの味と香り、舌触りを思い出す。いつもハチミツのお菓子をいっしょに食べていたからだ。甘いハチミツのお菓子とここではないどこかのわくわくする冒険の話とを楽しみにしていた。

 だから、ルシールはなんとなく、学校の友だちとお菓子を食べる機会があっても、ハチミツを使ったものは避けた。リオンと食べるものという意識があったのだ。


「海みたいな人」

「海?」

「それって、どんな?」

「温かくて広くてやさしくて、そして、」

 うつくしい青と緑が混じり合った海の色。どこまでも自由に流れていく海のように、彼もどこにでも行ける。ルシールとは違って。ほんのひととき、同じ場所にいるだけだ。





いつも、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

人物紹介を載せておきます。

よろしければ、ご参照ください。



●人物紹介

・ルシール・ステルリフェラ:翡翠色の瞳。茶色の髪。鳴き声シリーズの魔道具が好き。

・マーカス:魔道具師。ペルタータ島のカーディフで魔道具師工房を営む。

・リオン:採取屋。ルシールの六歳上。<海青石>のような色の瞳。金茶色の髪。

・デレク:素材屋。にこやかで物知りだが、周囲には恐れられている。

・アーロン:加工屋。腕がいい。無口。がっしりしている。

・ローマン:加工屋。アーロンの息子。がっしりしている。

・ドム:加工屋。大柄。太い指で繊細なものを生み出す。

・グレン:加工屋。ゴム素材の扱いに長けている。

・ネイサン:学者。北の大陸からやって来た。

・アラン:採取屋。デレクの息子。リオンと仲が良い。リオンの二歳上。

・ジャネット:ルシールの友人。麦わら色の髪をショートカットにしている。実家が飲食店を三店舗経営。

・ライラ:ルシールの友人。赤毛をポニーテイルに結っている。気が強い。実家が家具工房を営んでいる。

・ネリー:間延びしたしゃべりかたをする。おっとりしているがしっかりしている。


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