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4.悲劇! 改造少女

 研究施設とは別のエリアに設けてある居住区にレイは、怪我した少女を連れてきた。

 レイは助けた少女を丁寧にベッドの上に横にした。

 

「アルファ、彼女の診断を頼む」


 レイがそう言うと、部屋の隅で待機していた小型のタブレットが起動し、少女の姿のホログラムが現れた。アルファのイメージ体である。


「了解しました。スキャンを開始します」


 タブレットが青く光ると、怪我をした少女の身体をなぞるように走査をはじめた。


「足が一番ひどいようだが、大丈夫そうか?」


 検査が終わるとレイは、アルファに質問した。


「ええと、それは……」


 アルファは、AIらしくない感じで一度言いよどんでから、説明を始める。


「マスター。彼女の内蔵系に損傷はありません。ですが、どうやら彼女の両手両足は機械化処理が施されているようです」


「機械化処理……だと?」


 レイは、応急処理に足に巻いてやった包帯を剥がすと、皮膚の下を観察する。

 擬似皮膚の下には、ちぎれた配線が見えた。足から流れ出る赤い液体も血のように見えたが、実際はオイルのような別の液体のようだった。


「つまり、彼女はサイボーグか……」


 改造人間サイボーグとは、人間と機械人間の間に位置する。

 損傷してしまった肉体は、(ホムンクルス技術がなければ)復元することはない。

 なので、今では部分的に機械化し、補助を行うことはよく行われている。


 ただし、彼女の場合、内蔵の損傷がないのに両手両足すべてが入れ替えられている。

 事故で失ったとは、考えにくい。


 まるで、機械人間化する前段階のように、思えた。


「どうしますか?」


「さすがに俺も、改造人間の修理は経験がない、とりあえずは襲ってきた機械人間のパーツを転用するか」


 一人で研究しているので、設備の点検や維持管理はすべて自分でこなしている。

 機械の整備も、それなりにはできるが、レイの専門はあくまでホムンクルスの研究であり、機械人間や改造人間の最新のものまで、把握できているわけではない。


「さあ、腕が鳴るな。 アルファ、サポートをたのむ」


「任せてください!」


◇ ◇ ◇


 夜が明けて、最初の光が差し込んできたところ、エリーは再び目を覚ました。


 見慣れない部屋の窓からは、街路樹が見え、その枝には小鳥が止まっているのが見えた。 普通の朝の風景――しかし、エリーにとったは久しぶりにみた穏やかな自然の光景だった。


「気分はいかがですか?」


 どこからともなく、声が聞こえてきた。

 エリーはゆっくりあたりをみながら、体を起こした。


 すると目の前に、ちいさい妖精のようなホログラムがあらわれるとエリーににっこり微笑んだ。

 ホログラムのとても人間らしい仕草に、敵ではないと感じたエリーは落ち着いて回答した。


「はい……。大丈夫です」


 口に出すと、生きているという実感がエリーの胸の内に広がっていく。


「良かった。治療は成功ですね」


 ホログラムの少女が、安堵の表情を浮かべる。


「あなたは?」


「私は、マスター。つまり、レイ教授の支援型AI。アルファです。エリーさん」


「私の名前……どうして?」


「すみません。あなたを治療するため機械装置の制御データにアクセスさせてもらいました」


 エリーは、手を開いたり閉じたりしてみる。動かなくなっていた両手両足が、軽快に動くようになっていることを確認した。


「マスターを呼んできますね」


 しばらくして、レイが部屋に入ってきた。

 上に着ていた白衣は、まっしろで清潔そのものだが、下に着ている服が汚れていて、エリーを助けたときのままであることが窺えた。


「エリーだったか。よく眠れたか?」


「はい……ありがとうございます」

 

「あんまり、無理して話すことはない……といいたいところだが、お前に発信器がついていてな」

 

「発信器が……」


 エリーは驚いたが、心当たりがなかったわけではなかった。

 逃げても逃げても、どこに逃げても機械人間の両親は、追ってきた。

 地下の洞窟、夜の闇の中――どんな場所に隠れても彼女が見つからないことは一度もなかった。


「ここは、機械人間都市からそれなりに離れているが、すぐに追っ手が来るだろう。ほとぼりが冷めるまでは、身を潜めていた方がいいだろう」


「あのー」


「なんだ?」


「まるで一緒に逃げてくれるみたいですが?」


「お前、一度助けた人間が、しばらくしてすぐ機械人間にされていたら、さすがに寝覚めがわるすぎるだろう」


「マスターは計算上今はあなたとまだ一緒にいた方が合理的だといっています。でも私は、マスターはただのお人好しだと思っているので、甘えても大丈夫ですよ」


 ホログラムの少女――アルファが、クスクスと笑っている。


「とにかく、お前が知っている機械人間側の情報を教えてほしい」


 エリーは小さく息をすって話し始めた。


「全人類機械人間化計画……という言葉を、ご存知ですか?」


 その言葉に、レイはしかめっ面になった。


「機械人間の過激派の連中の思想だな。すべての人間は機械人間となり、幸せな社会をつくるという」レイは、言葉を続ける。「表向きは、説得して任意で進められているとされているが……」


「強制的に行われています」エリーは、言葉を継ぐ。「特に、私のように、親が機械人間になった子供達は……」


 レイは、エリーの言葉にため息をついた。 


「俺は、別に機械人間を否定する気はねぇよ。あれはあれで、人類に進化だとは思ってる」


 自分は、タンパク質。生物としての進化を目指し、ホムンクルスの研究をしているが、電子工学の究極である機械人間も人類として認めている。


「転生という名の進化は選択だ。本人が強く願うからこそ意味がある。俺はただ、機械人間かホムンクルスか、それとも別の何かに進化するのか。はたまた進化しないのかは、本人の意志に委ねるべきだと考えている」


 一度生を受けたのならば、どう全うするかは自分自身で決めるものだろう。


「子は親に従うべきだと言っていました。子供の判断は未熟で、親には子供をよりよくする責任があると」


「まあ、それはそれで、一理あるがな。だけど、おまえは俺に助けを求めて、俺は助けた」


「そうですね」


「それにしても、よく逃げ出せたものだ」


「人格をコピーするためには、脳波をある程度記録し続ける必要があります」


 エリーは、髪をかきあげ、額の手術痕をレイに見せた。


「額の装置がデータ収集を終えないと機械人間になることはできません。それまで、普通の腕と足では不便だろうからと私の両手両足を機械に改造しました。それで逃げ出すことができました」


「随分と皮肉な話だな」


 エリーは、悲しそうな顔をして、自分の手足を眺めた。


「そうですね。嫌いな手足ですが、このおかげで逃げ出すことができました」


 元の手足より少し伸びた機械の手足。

 交換されたものが、自分の母親を名乗っていた機械人間のものだとエリーは理解していた。


「もう私の手足は……」


「まあ、それについては心配するな。昨日治療したときに、遺伝子解析をかけておいた」


「遺伝子解析?」


 エリーは、聞き慣れない言葉に首をかしげる。


「お前の、体の設計図みたいなものだな。解析が終われば、元の手足の培養をできる」


「そんなことが!? 他にどんな臓器が培養できるのですか?」


「遺伝子の構造データから、どんな臓器でもほぼ復元可能だ」


「ほぼと言うことは、できない臓器が?」


「培養はできるが、遺伝構造だけでは、生前のものを完全にコピーできない臓器が一つだけある」


「それは、なんですか?」


「脳だ」


「脳?」


「他の臓器は、多少形が違っても、ちゃんと機能すれば問題ないが、脳だけは寸分も狂いなく再現できなければ、元の記憶や感情を再現することはできない。だが、培養はできるからな。脳みそを倍ぐらいに培養して、古い部分を死滅(アポトーシス)させてやれば、簡単に若返ることはできる」


 エリーにもなんとかレイの言っていることが理解できた。しかし、その内容は、とても現実離れしていて。


「……嘘ですよね」


 エリーは、そう言わざるを得なかった。


「嘘ついてどうするんだ。証拠は俺自身だ」


 レイは、自信満々に自分自身を指さした。


 エリーは、レイを観察する。

 自分より、少し年上にしか見えない青年。

 戦闘能力は達人級で、物言いは、年配の研究者のものとしか思えない。


 まるですでに人生を何度も送っているような貫禄だった。


「それにしても、全人類機械人間化計画……さすがに見過ごせないか。リナの蘇生を次の段階にすすめるためにも、そろそろ腹くくって、帰省しないといけないな」


「帰省?」


 レイは、口元に不敵な笑みを浮かべた。


「さて、そろそろ俺も覚悟を決める時だ。リナの蘇生のためにも、そして、お前を逃がした責任としてもな」

 

 レイは、白衣の襟を正しながら、エリーに向き直る。


「行くぞ、エリー。機械人間都市へ!」

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― 新着の感想 ―
コピーされていく自分が、自分自身と言えるか、怖い事も平然と行ってしまう常識にめまいを覚え、ワクワクしますね〜
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