表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

2.急襲! 機械人間

 少女は逃げていた。

 自分の幸せを願う親から。

 いや……その親が成り果てた存在から。


◇ ◇ ◇


 切れかけた電線が、バチリと紫電を放つ。

 まるで繁華街からおこぼれのように、寂れた路地裏をほんの一瞬だけ照らした。

 乾いた風が吹き荒ぶ中、幼い少女が懸命にかけていた。

 服はところどころ破け、生暖かい傷からは血が滲んでいた。

 

 少女を追う影は二つ。


 影は人の姿をしているものの、体からわずかにキュイーンキュイーンとモーター音を鳴り響かせている。


「エリー、なんで逃げるんだ」


「これは、あなたのためなのよ」


 合成された男と女の声に、エリーと呼ばれた少女は少しだけ振り向く。少女を見つめている瞳の奥には瞳孔ではなく、レンズがあった。


 機械人間(ヒューマロイド)

 そう呼ばれる者たち。


 ロボットではない。

 最新のAI技術によって、記憶、感情など脳に収まっているありとあらゆる情報――人の魂を宿したとされている機械の体を持つ新人類だ。

 彼らは有機体である本来の体を決別し、命のすべてを機械とすることによって、無限の命を得ていた。


「さあエリー、私たちと一緒に、無限の命を手に入れましょう」


 朗らかで理想的な女性の姿をした機械人間が、優しい女の声で少女に語りかける。

 少女は、真っ青な顔で震え上がると懸命に叫んだ。


「い、いや、そんな体にはなりたくないっ!」


 機械人間の二人は、そんな少女を不思議そうに見つめていた。


「何を言っているんだ?」


「どうしてなの?」


 その問いに、少女が答えるのは、酷だった。


 なぜなら、理由などない。

 本能の拒絶なのだから。


「ほらエリーみてごらん。パパの体はこんなに元気になったんだよ」


 機械人間は、自分を少女の父親だといっていた。

 

「ほら癌だったのに、こんなに元気に動くことができる」


 男は生身の頃、癌と宣告されていた。

 すでに末期であり、余命いくばくもなかった。しかし、


「病気は治ったんだよ」


 少女は、首を横に振る。


「そんなの、治ったなんていわないよ」


 手も、足も、肌も、内蔵も、顔も、頭も、脳みそすら入れ替えてしまえば確かに悪いところはどこにもない。

 そうだったとして、全部入れ替わってしまったものは、何をもって本人だと言えるのか?


「どうやって、あたしはあなたをパパだと思えばいいの?」


 すくなくとも少女には、よく分からなくなっていた。


 機械人間が、自分自身を人間だと名乗るためには、ルールがあった。


 それは、肉の体を処分すること。


 なぜなら機械人間は、限界を超えた究極の転生なのだから。


「エリーあなたも転生しましょう」


 肉体がすべて変わってしまったのなら、本人を証明するものは魂しかない。

 複製ではなく、魂を移したと――転生したのだとするならば、肉体は処分しなければならない。それは、まるでドッペルゲンガーに殺されるように。


 世界に同じものが存在することは許されない。


「パパ、ママ・・・・・・」


 少女の目から涙が流れる。


 両親自ら座った死をもたらす椅子。

 精神という名のデータを抜き取られ潰されて、動かなくなった両親の体。

 どうみても火葬のように焼却されていく両親の体を一人見送った。


 死がわからない歳でもない。

 もはや、この世に両親はいないのだと、少女の心が訴えている。


「私たちが、パパとママだよ」


 なのに、目の前の機械達は自分たちこそが両親であると語り続ける。


 そして、なにより自分にも同じ存在になることを強要する。


 あまりの恐怖に足が動かなくなってしまった。


 少女はペタンと尻を地面につけてしまう。


「誰か助けて」


 今日何度口にしたかわからない願いを小声で呟く。  


 伸ばされた機械の手が、少女の肩に触れようとした瞬間。

 何かの影が、間に割り込んできた。

 次の瞬間、エリーは抱きかかえられ宙を舞っていた。


 気づけば黒髪で、異様に白い服を着た男が大通りへと跳躍している。


「大丈夫か?」


 穏やかな声。

 しかし、彼の瞳は鋭く機械人間を見つめていた。

 

 男はエリーをおろすと、機械人間に相対する


「あなたは?」


 目の前にいたのは、黒髪で白衣をきた男だった。


「ただのしがない研究者だよ」


 そういいながら、男は銃を構えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ