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1.警報! 迫る機械人間の影

 世は転生時代。

 進化の限界の果てに、人間が人間をやめることができるようになっていた。


 自らを機械の体とした機械人間(ヒューマロイド)

 人と動物との複合体である亜人。

 人の成れの果てである魔族と呼ばれる者達。

 

 そして、ここに、人としての生命を捨て、

 新たな転生を得た者がいた。


 名をレイという。


 数多くある転生先から彼が選んだ道は、ホムンクルスだった。


◇ ◇ ◇


 その研究室は、地下にあった。

 暗く湿っぽい研究室の一角で、レイは黙々と実験器具を操作していた。

 薄暗い部屋には、彼の吐息とホログラムパネルが明滅する音だけが響いている。


 研究室の中央には、大きな水槽が鎮座していた。

 青白い液体がゆっくりと循環し、その中で黄金の髪を持つ女性のホムンクルス体が静かに眠っている。

 ガラス越しに見る彼女の顔は、凛とした美しさと儚さを併せ持ち、瞼は閉じられたままだった。


「リナ……」


 彼女の名前を呼んだ瞬間、レイは無力さを感じた。

 レイは操作を一旦止め、水槽に歩み寄る。

 静かにガラス越しに手を置くと、彼の顔には苦悩と決意が入り混じった表情が浮かんだ。


「……肉体の再現率は、100%、上出来だな」


 レイの研究は、遺伝子操作を駆使した肉体再生だ。

 クローンを超えたあらたな人類の創世。

 いわゆるホムンクルスの研究である。


「得意分野は、完璧なんだが……」


 問題は、心の再現方法である。

 レイは、再びリナの体に視線を送る。


 現状のままリナを目覚めさせれば、体が大人の赤ん坊として蘇ってしまうことはわかっていた。


「それでは、ダメなんだ……」


 レイは拳を握りしめ、歯を食いしばった。


 この眠る彼女に、心を吹き込めなければ、ただの空虚な殻でしかない。そんな想いが彼の心の奥にはあった。


 レイ自身がホムンクルスとして蘇った以上、心の再現が不可能なわけではない。


 だが、それは彼の元の体があったからこそ、今回の場合は……。


「機械人間たちは、元は普通の人間。脳から記憶と感情を電子化し、機械人間として転生している。この方法を逆利用すれば、電子人格データから『心』をホムンクルス体に移し替えることができるはず」


 という、仮説を元に研究を続けているが、突破口が見えていなかった。


「あと少し、きっかけがあれば閃きそうなんだが……」


 レイは、以前機械人間都市をハッキングしたときのことを思い出す。


「結局、ハッキング成功したのは、あの時一度だけだった……。さすがにそろそろ腹くくって機械人間都市に乗り込んでみるしかないか」


 そう呟きながら、エナドリを一口飲んだその時だった――

 研究施設に鋭い警報が鳴り響く。


「どうしたアルファ?」


 レイは、素早く端末から『アルファ』のホログラムを表示して、確認する。


「マスター、研究施設の周囲に機械人間の反応があります」


 鋭く耳をつんざく電子音が、レイの鼓膜を刺激しつづける。


「警報停止だ」


 レイの指示で、すぐさま警報が止まる。


「それで、逆探知されたのか?」


 レイはすぐさま手元のホログラム端末を操作し、警戒するように目を細めた。


「いえ、どうやら誰か他の人間を追っているようです」


「詳細情報を頼む」


「機械人間の反応は2名です。防犯カメラの映像をモニターに出力します」


 モニターが一瞬ノイズ混じりに明滅し、次の瞬間、映像が映し出された。

 カメラが、闇に沈む路地を駆ける影を追う。


「解像度をあげてくれ」


 レイの指示で、鮮明になったモニターに映し出されたのは、血で染まった少女だった。

 その瞳は必死に生きようとする強い意志を宿していた。だが、その奥底にはどうしようもない恐怖が浮かんでいる――今にも崩れ落ちそうな足取りが物語っていた。さらに赤い液体が、彼女の白い肌を無惨に染め、華奢な肩からは血が滴り落ちている。


「誰か助けて……!」


 必死で叫びながら、機械人間二人から逃げ続けている。

 彼女の少し赤みがかった茶色の髪は乱れ、顔の血は涙のように流れていたが、それでもどこか美しいものがあった。


「お願い…!誰か…」

 

 彼女の目がカメラの前でわずかに見開かれ、まるでレイを見ているかのように感じた。その瞬間、必死に生きようとする姿が、かつてのリナの姿に重なり、レイの胸が一瞬、締めつけられるような感覚に襲われた。


「……このままじゃ、巻き添えを食うな」


 レイは舌打ちしながら、白衣を正すと、近くに置いていたモンスター用の銃を手に取った。


「相変わらず、マスターはお人好しですね」


 アルファの無機質な声が響く。だがその声には、どこかからか無邪気な笑い声が混じっているような気がして、レイは思わず眉をひそめた。


「そんなんじゃねぇよ」


「でも、本当にいくんですよね?」


 その言葉に、少しだけ意地悪なニュアンスが感じられる。レイはアルファの仮想ホログラムを一瞥したが、表情を崩すことなく、短く答えた。


「行くさ」


「気を付けてくださいね。マスター」


「言われなくても、わかってる」


「では、マスター。いってらっしゃい」


 無機質なアルファの声を背中に聞きながら、レイは研究施設の階段を駆け上がりながら呟く。


「俺のホームで暴れた代償を、今すぐ思い知らせてやる」

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