日の出
死期を悟った曽祖父の願いにより、人里離れた山中へ日の出を見に行くことになった。人工の灯りなどない未整備の山道ながら、草木は往くものの正体を察してみずから道を空けてくれる。
往きたい場所へ往くのだからと、曽祖父は二本の杖を支えに先頭を歩んだ。その後ろを血縁の皆でついてゆく。
誰そ彼時の迫る頃、視界が開け、目的地への到達を知った。はるかな稜線は雲と霧に挟まれ、水墨画を思わせる光景に雑念は洗い流されてゆく。
生涯で初めて見るであろう日の昇るさまに曽祖父は顔をほころばせ、歓喜のため息をついた。
人と交わる前の、より純粋な化生であった曽祖父の身には毒でしかない光の矢を一身に浴び、その身は静かに塵へと返っていく。
第7回 毎月300字小説企画、お題は「朝」でした。