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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第98話 新天地へ

 サガトの近くで、レクスは佇んでいた。しばらく空を見上げていると、なにやら声が聞こえてきた。見れば、トムソンとタチ、ガゼルとヤメクが手を振っていた。ルカが声をかけたのかもしれない。


 レクスが手を振り返していると、ルカが走ってきた。


「用事ってこのこと?」


「まあ、そんなところ。黙って出ていくのもなんだか味気ないでしょ」


 レクスとしては時間を使わせるのも悪い気がしたのだが、ルカの言う通りかもしれない。励ましの言葉を贈るトムソン達に手を振って、二人はサガトを背にして歩みを進めていく。それからしばらくして、


「ゲオタヤにはどうやって行くの?」


「……あきれた。そんなことも知らないで、世界を敵に回すつもり?」


 ジト目を向けるルカに、レクスは苦笑を返す。それに関しては何の弁解の余地もない。タパパ村から出たことのない彼としては、旅の目的地はすべて彼女に頼ることになる。


「テオにまずは向かうよ。それから船に何度か乗らないといけないから、結構な長旅になるね」


「船かー。乗ったことないから楽しみだな」


「遠足を楽しみにする子供みたいね。そんなに楽しいものじゃないよ」


 と、ルカが肩をすくめる。が、レクスとしてはまだ見ぬ未知の乗り物に興味津々だ。どんな乗り物なのだろう、と想像を膨らませて、はたと彼は足を止めた。重大なことを思い出したのだ。それは、


「村のみんなのこと、トムソンさんにお願いできないかな」


 タパパ村は教団兵に襲撃されて、ひどいありさまだ。おそらくはあの周囲にまだ生き残った村人がいるのだろうが、あそこには凶獣がたまに出る。今まではレクスが退治していたからどうにかなっていたが、今は誰もいない。


 サガトへ移動しようにもその道中を守る護衛が必要だろう。村が襲撃されたとき、自分は――ウキを村人を守れなかった。だから、せめて罪の償いをしなければ。くるり、と踵を返そうとして、


「それならもうわたしがトムソンさんに言っておいたよ。サガトへ来る人には護衛をつけて、村に残る人にも護衛プラス復興を支援してくれるってさ。快く引き受けてくれた」


 レクスはまじまじとルカを見た。もしかして、用事とはこのことだったのだろうか。それなら、ルカは自分のために。


「ごめん。俺のために迷惑かけたね」


「迷惑だなんて思ってないよ。レクスは自分を過小評価しすぎ。わたし、君に二回も助けられてるからね。まだまだ返し足りないぐらい。だから、気にしなくていいよ」


「ありがとう」


 礼を言うレクスにルカは気にしないで、というようにひらひらと手を振る。


「でも、トムソンさんに何て言ったの? 無料なわけないし」


「無料で引き受けてくれたよ。サガトをゲオタヤから救ってくれた礼じゃ、とか言って」


「本当に? それなら、お礼を言いにいかないと」


「大丈夫。わたしがその辺はうまく言っておいたから。逆に礼を言われると困るんじゃないかな」


 そういうものなのだろうか。レクスとしてはこれだけのことをしてもらって自分が礼を言わないというのはすっきりしないのだが。やはり、礼を言いたい。彼がサガトへ向かおうとすると、ルカがさっと進路を妨害するように前に立つ。


 進路を変えるとそこにさっとルカが立つ。どうやら、どうあっても彼女はレクスをサガトへ向かわせない気のようだ。


 これは諦めるしかないか。


 根負けしたレクスはサガトへ戻るのを諦めた。また、会う機会があればそのときに言おう。背を向けるレクスを見て、ルカは安心するように息を吐いた。


 ♢


「お願い。タパパ村の護衛と復興支援をしてくれないかな」


 サガトの街長室で、ルカは頭を下げていた。トムソンは机に手を組み合わせ、秘書は目を丸くし、タチは苦り切った顔をしていた。それから、数秒後、タチが口を開いた。


「もちろん、我々として君の言うことをかなえてあげたい。君がいなければサガトはゲオタヤの言うことをずっと聞かねばならなかったからな。だが……」


 と、タチはそこで言葉を詰まらせ、やがて、言いにくそうに言葉を吐き出す。


「護衛や復興支援をするとなると人材が必要になる。そのためには彼らにその間、生活できるだけの保障が必要になってくる」


「要するにお金が必要ってことね」


 重々しくタチが頷いた。沈黙が場を支配していた。トムソンもタチもルカの言うことを聞いてあげたいが、現実がそれを許さない、そういう葛藤が見て取れた。彼女はその沈黙を切り裂くように何かを取り出した。


 それは、魔核だった。


 が、ただの魔核ではない。まるで闇のような漆黒な輝きを放つ魔核は魔性の魅力を放っていた。それを見て、タチが目を見開く。


「こ、こんな純度の高い魔核は見たことないぞっ!?」


「でしょうね。Sランクの凶獣だったから」


「エッ、エスだとおおおおおお!!」


 素っ頓狂な声をタチが上げた。彼が驚くのも無理はない。Sランクの凶獣といえば滅多に遭遇することはない。存在自体が希少というのもあるが、遭遇した人間がほぼ確実に死ぬからである。


 そのため、一種の災害とも呼べる存在である。そのようなことから、ハンターの間では一度は遭遇し、倒したいと夢想を抱かせるほどの存在だ。タチもハンター歴は長いがSランクの凶獣の魔核なんて一生見ることはないと思っていた。それが目の前にある。


「き、君が倒しのか?」


「まさか。そのとき、組んでいた人がものすごく強いハンターで倒したらわたしにくれたのよ」


「く、くれた……?」


 理解できないというようにタチは額を手で押さえる。ハンターにとってランクも大事だが、魔核も大事だ。純度が高いほど一般的に強力な凶獣とされている。そんな純度の高い魔核を持つことはハンターにとってステータスであり栄誉でもある。


 それもSランクとなれば最高の栄誉であり、ハンターにとっては一生の栄誉と言ってもいいほどだ。それをあっさりあげるという感性が理解できない。


「変な人だったからね」


「……ちなみにそのハンターの階級は」


「赤、よ」


 やはり、というようにタチは何度も頷く。


「これだけじゃ足りないかもしれないから……」


 次々と魔核を置いていくルカ。輝きこそ最初に出した魔核にかなわないが、それでも十分な輝きを放つ魔核だ。


「わたしのほとんどの財産。これだけあれば、十分よね」


「ほほ。おつりが来るじゃろうな」


「なら、そのおつりは貧困者支援にでも回してください」


 これでこの街から貧困者が消えるわけではないが、多少のたしにはなるだろう。


「どうして、お主はそこまでする」


「わたしはレクスに命を二回救われました。彼がいなければ、わたしはここにいない。だから、わたしはレクスが望むことをしようと思ったんです」


 本人に言っても、何もしなくていいよ、と言うのは簡単に想像ができた。それなら、ルカはルカでレクスが望むであろうことを勝手にするだけだ。それに、と彼女は思う。


 一歩踏み出せばきっと何かが変わるって思うから。


 レクスが先ほど言った言葉。それは、かつて自分がノーマに言った言葉だ。それを聞いたからだろうか。柄にもなく感傷的になって何かをしたいと思ったのは。


「お主の気持ちはよくわかった。またここに来るがよい。そのときには、今よりもいい街になっておるからな」


「ええ、楽しみにしておきます」


「見送りをしよう」


 と、タチが言った。


「わしも付き合おうかの。しばらくはゲ――」


「ルカですっ!」


 食い気味で突っ込みを入れるルカに目をぱちぱちとしたトムソンは、やがて、口をにやりとゆがませる。


「やるのう、お主も」


「だいたいどのタイミングで言うかわかってきましたから」


 ルカもにやり、と口をゆがませて、二人で笑う。そんな二人を見てタチがほほ笑んでいる。三人で廊下を歩いていると、掃除をしているガゼルとヤメクに会った。どうやらここで働かせてもらうことになったらしい。


 よかった、とルカがガゼルに触れようとすると、ささっと、素早い動きで距離を取られた。うかがうようにルカを見る視線は、どこかびくついている。昨日のことで、完全に警戒されてしまったようだ。


 ルカがサガトを出ることを伝えると、ガゼルとヤメクも見送ってくれるという。なんだかうれしい気持ちで建物を出た。その瞬間、強い日差しが彼女を出迎えた。手で目を隠す。


 この世界は理不尽なんだ。それを受け入れていくしかない。


 ふいに、かつてダスティンが自分へ言った言葉を思い出した。


 幼い自分はその言葉が受け入れられずに街を飛び出した。でも、今はその言葉が理解できる。そう、この世界は確かに理不尽で残酷だ。きっと、彼の言った通り受けれいたほうが楽に、そして安全に生きられるだろう。


 だが、やはりそれを受け入れたくないと思う自分がいる。


 もし、受け入れなければ、世界は牙をむき、自分の存在を消そうとしてくるに違いない。仮にそうなるならば――ルカは宙に向かって握りこぶしを作る。


「世界に抗ってやるわよ」


 と、宙に向かって力強く言った。


 ♢


 ルカは自分が魔核をトムソン達に渡してタパパ村の支援と護衛を頼んだことはレクスに一生言うつもりはなかった。これは自分で勝手にやったこと。ゆえに彼は知らなくてもいいことだ。


 そんなことを彼女が考えていると、レクスが足を止めて口を開く。


「そういえば、研究所でルカは約束を守ったら何でも言うことを聞いてあげるっていてたよね? あれって今でもいい?」


 もちろん、ルカは覚えていた。しかし、レクスから言い出すとは少々意外に感じていた。もっとも、彼女としては願ったりかなったりなのだが。


「もちろん、いいよ。さあさあルカさんが何でもレクスの願いを叶えてあげちゃうよ。青少年の欲望だって満たしてあげちゃう。遠慮しないで何でも言って」


「じゃあ、エッチなことしてほしい」


 ルカの思考が、停止した。徐々に言われたことを反芻する。その意味を理解して――彼女の頬が真っ赤に染まる。


「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待って!? いい、いや、べべべ、別にレクスが望むならいいんだよ!? で、でも、わたし、ハンターでもてないから異性経験ないし、むしろ、わたしでいいのか、とか、もっといい女の子がいるんじゃないか、とか思っちゃったりして――」


 あたふたと手を振って混乱する頭で言葉を絞り出して――気づいた。レクスが顔を背けて、その肩が震えていることに。これって――


「レークースー?」


 ルカが疑いの声を上げると、レクスが噴き出した。どうやら、からかわれたらしい。


「こらっ! 女心をもてあそぶのはやめてよね!」


「ごめん、でもルカだってガゼルさんをからかってたじゃないか」


「それとこれとは別よ。ふふ、レクスはちょっと痛い目にあいたいみたいね」


 ぽきり、と指を鳴らすルカに背を向けてレクスは走り出す。


「待て!」


 それを追いかけるルカ。レクスは笑い声を上げながら、走っていく。二人はサガトへ離れてまた新たな町へと進む。


 凶獣の王種ウェスタと契約を結んだ青年レクス。


 レクスの冒険がここから始まる。


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