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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第96話 帰還

 歓声を上げる人たちをレクスは見渡す。全員ペンダントをしていることからきっとハンターなのだろう。


「よかった、無事だったんだな」


 一人の男がレクスの前にやってきた。


「こうして話すのは初めてだな。タチだ」


「俺は――」


「レクス、だろう? ルカから聞いている。君のことを大層心配していてね、まさしく血相を変えてとはあのことを言うのだろうな」


「タチさん! それは言わなくていいから!」


 頬を赤らめて叫ぶルカ。それを見てタチが笑い、つられるようにして周囲から笑いの連鎖が起こった。


「わざわざ、俺を探してくれてありがとうございます。それで、怪我人とかは出たんですか?」


「いや、幸いにも死傷者はゼロだ。奇襲が功を奏したのか、教団兵はひどく慌てていてね、正直拍子抜けするぐらいだった」


「あの研究所での体たらくを見ると、それも当然て感じだけどね」


 ルカが肩をすくめる。それを見て、レクスは不思議に思った。


「脱出するの大変じゃなかった? 死にもの狂いで教団兵が向かってきたりとか……」


 ルカとタチは互いの顔を見合う。


「全然。むしろ、ハンターたちよりも我先にって感じで逃げてったよ。情けないと思ったけど、それで楽に脱出できたからこっちは助かったけどね」


 あはは、とルカが笑う。それなら、とレクスは思う。あの脱出の時に立ちはだかった教団兵が特別なのだろう。こういうのは敵ながらあっぱれ、というべきなのだろうか。改めて、冥福を祈った。


「そうだ、君はあの鎧型の凶獣と戦ったそうだが、勝ったのか?」


 タチの言葉に頷くとどよめきが起こった。そんな尊敬のまなざしを送るハンターたちとは別に、レクスの心は沈んでいた。


 勝った。そう、結果的に見ればそうなのだろう。だが、同時に助けられてもいるのだ。結局、あの凶獣は何だったのだろうか。もやもやした思いを抱いていると、


「よし、積もる話はサガトに帰ってからだ。帰るぞ、サガトへ!」


 タチが声を張り上げて、同調するようにハンターたちが叫んだ。


 サガトへ帰ると、すでに研究所を潰したという話が広まっていたのか、大勢の住民が集まっていた。魔動車で、ハンター協会にいるトムソンの元へ行く。トムソンはレクスらを出迎えて、破顔した。


「何となくお主が鍵になるのではないかと思っとったよ」


「いきなりのお願いを聞いてもらって、ありがとうございました」


「あれ、二人とも顔見知りなんだ?」


 と、ルカが言った。


「うん、ペタ山まで魔動車を出してもらった」


「ゲロ子ちゃ――」


「ルカですっ!」


 トムソンの言葉が言い終わらぬうちに、ルカが突っ込む。


「ゲロ子? どういう意味?」


「知らなくていいし、聞かないでっ!」


 くわっ、と目を見開くルカに、レクスは怯えた様に頷く。きっと聞いてはいけないことなのだろう、そう判断して深くは聞かないことにする。


「お父さんっ!」


 トムソンの陰に隠れていた、ヤメクがガゼルの姿を見つけてその胸に飛び込んだ。二人は互いの無事を確かめ合うように抱き合った。やがて、体を離し、


「ヤメク、すまない、心配をかけた」


「ううん、こうし、て、また会え、ただけで、いい、よ」


 と、ヤメクはとびきりの笑顔を浮かべると、感極まった様にガゼルの目が赤くなっている。そして、ヤメクはとことこ、とルカの前にやってきた。


「お父さ、ん、助けて、くれ、て、あ、ありがとう」


 丁寧に深くお辞儀をするヤメク。


「いいよ、お礼なんて。わたしは仕事をしただけだしね。それよりも、ヤメクちゃん。覚悟はできてるかな?」


 にやり、と口を歪めて笑うルカ。


「はい! わた、し、なんで、も、しま、すっ!」


 その表情にはかつての怯えは微塵もなく、覚悟を決めた強い光が目には宿っていた。それを見て、ルカは満足したように頷き、


「じゃあ、報酬はもうもらったからいいや」


 その言葉を聞いてきょとん、と首をかしげるヤメク。ルカの言っている意味が分からなかった。だって、まだ自分は何も。


「わたし自身が満足することが報酬って言ったよね? さっき、ガゼルさんと会った時ヤメクちゃん笑ったでしょう? だから、それがわたしへの報酬ってことで」


「で、でも、それじゃ、わた、し、なに、も、ルカさ、んに」


「もう決めたことなのでクレームは受け付けません。お父さんのこと大切にしてあげなよ、ヤメクちゃん。ガゼルさん、もううまい話に騙されないでくださいよ」


「ああ、それに関しては気を付ける」


 ルカがヤメクと話していると、いつの間にか、宴の準備が整っていた。ガゼルとヤメクはルカに頭を下げて、人の輪へと入っていく。それを満足そうに見ているルカにレクスは声をかけた。


「最初から、何も取る気はなかったんだろ?」


 レクスはルカとヤメクが一体どんな話を交わしたのかは知らない。が、彼女はそもそも最初からこうするつもりだったという気がしてならない。


「まだ小さいからね、わたしがただで頼みごとを聞いてあげるとそれで学習しちゃって、いずれ痛い目にあうかもしれないから。だから、人に何かを頼むときは対価が必要だってことを教えてあげたつもり……わたしもねー、昔、いろいろとひどい目にあったから……お節介とは思ったけど」


 ルカはどこか遠い目をしている。どうやら本人の実体験があるらしい。もし、自分が彼女の立場だったら、無償で助けただろう。ただ、その場合だとヤメクが困っているときは人に無償で助けてもらえるんだ、と考える可能性はゼロではない。


 そうなると、後々何らかのトラブルに発展することは考えられなことではない。この世の中は、そういう優しい人ばかりではないのだから。そこまでを考えてきっとルカは行動したのだろう。


 すごいな、と思う。自分ならそこまで先を見越すことなど思いつきもしない。


 こういう優しさもあるのだ、とレクスは目から鱗が落ちる気分だった。


「さっ、わたしたちもこんなところで突っ立ってないで、宴に参加しましょう。なんか豪勢な食事がいっぱいあるみたいだし。今日の主役が参加しなきゃだよ。ねえ、英雄さん?」


 からかうように片目をつむってルカはレクスの手を引いた。英雄なんて柄でもないが、お腹は減っているし、せっかくの祝いの席だ。楽しまなきゃ損だろう、そう考えて二人は宴の輪へと入っていく。


 レクスがテーブルに並べられている豪勢な食事に舌鼓を打っていると、いつの間にやらタチとハンターたちに囲まれていた。彼らはやたらにキュクロスをどうやって倒したのか、と気にしているようだった。


 それに多少の脚色を加えて、レクスは話す。ウェスタのこととなんて言っても理解はされないだろう、と思ったからだ。ただ、レクスが話をするたびに彼らが歓声を上げるのは聞いていて悪い気はしなかった。


 聞けば、ルカがハンター協会に乗り込んでハンターたちをまとめてミストクリエイターを一人で解除したのだという。英雄はどっちだよ、と心の中で思う。延々と話を聞きたがるハンターたちに話を続けていると、いきなり首に手を回された。


「いえーい、楽しんでるぅー、レクスぅ?」


 酒の入ったコップを片手に笑うルカの顔は、やや赤い。どうやら、酒が入っているらしい。にゃはは、と笑うルカはレクスにお前も飲めと言わんばかりに酒を飲まそうとしてくる。


 あまり酒をたしなむ方ではないが、こういう時ぐらいは飲むべきか。そう思って酒を飲もうとすると、


「楽しんでいるようだな」


 ガゼルが、声をかけてきた。その隣ではヤメクがとても幸せそうに食べ物をほおばっている。その姿が小動物的で、見ていると心が和む。


「この子にこんなにもいいものを食べさせられたのは初めてだ。君たちのおかげだ、改めて礼を言わせてもらう」


「いえ、そんなに大したことは」


「謙遜しなくてもいい。君たちがいなければ、わたしは死んでいただろう。この受けた恩は一生忘れない」


 そのガゼルの真摯な眼差しを受けて、レクスは自分が味わった苦しい出来事が報われるような思いだった。


「えへへ、一生忘れないだなんて、大袈裟ですよー。わたしの胸のことも忘れないでくださいね」


「ななななな、何を言って、言ってるるるるんだね、きききき、君は!?」


 ルカの突然の言葉に、ガゼルが大いに狼狽している。はた目から見ると気の毒なほどだ。何のことかはわからないが、とりあえず心の中でレクスは、ごめんなさい、と謝っておく。

 

 ヤメクは何のことかわからずに不思議そうに首をかしげている。そんなヤメクとレクスの視線が交わり、二人の顔から自然と笑顔がこぼれた。


 そうして、楽しい宴の席は過ぎていった。


 


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