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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第90話 約束

 もうすでに自分は死んでしまったのだろうか。


 そう考えるほどに、目の前の光景は現実離れしていた。それとも、自分は極度の恐怖で幻覚を見ているのだろうか。そうでもなければ、今、目の前で起こっている現象の説明がつかない。


「……レクス、なの?」


 目の前にいるのが幻かどうか確認する意味ではなく、ただ自然と言葉がついて出た。


「心配かけたね」


 優しく笑う姿は、まさしくレクスそのものだった。


 どうして、生きていたの、とか、あの状況でどうやって、とか、なぜここにいるのか、とか様々な疑問が頭をよぎったがそんなことは今はどうでもいい。


 それよりも大事なことは――


「よかった、生きてて」


 その一言に、ルカの思いが込められていた。


「俺もルカが無事でよかったよ。でも、今は積もる話はあとにしよう」


 レクスが顔を引き締めて、大剣を構える。その先にはキュクロスがいる。既に体制を整えたキュクロスは荒い呼吸を繰り返しながら、今にもこちらに襲いかかってきそうな雰囲気だ。


「そうね。まずはこいつを二人で倒しましょう」


 気が高ぶっているのか、左腕のマヒも忘れていた。不思議だった。今なら、どんな相手でもどうにかできる気がする。


「いや、こいつの相手は俺一人でやるよ」


「どうして!? まさか、足手まといだって言いたいの?」


「そうじゃなくて、その人を守る人が必要だと思うから」


 レクスが顔を向けた先――そこには、とうにいなくなったと思っていたガゼルの姿があった。


「ガゼルさん、どうしてここに?」


 疑問の声を上げるルカに、ガゼルはとてもバツの悪そうな顔をした。


「すまない、さっき足を痛めてしまった。どうも、動けそうにない」


「そういうことだから、誰かその人を守る必要があるんだ」


「でも、あいつは二人がかりでも倒せなくて、逃げるだけで精いっぱいだったんだよ! それを、レクス一人じゃ――」


 そのルカの言葉が言い終わる前にキュクロスは巨大斧を真上から一直線にレクスに向けて振り下ろす。それを大剣で受け止めて、弾き、横に大剣を一閃させる。それをキュクロスは床すれすれまで姿勢を低くしてよけて、再び距離をとる。


「グズグズしてる時間はないみたい。何とか俺一人で頑張ってみるよ。それに、ルカも本調子じゃないだろ?」


 どうやら、ルカが本調子じゃないことはもう見抜かれているらしい。それでも、レクスの言葉に従う気にはなれないでいた。


「もう二度と会えないと思って……それで、また別れるなんて。そんなの、わたし納得できない」


「俺はもう、死なない。絶対に生きて帰る。約束する」


 そう言って、レクスはルカの目を見た。とても強いまなざしだった。その目を見た瞬間、もう自分が何を言っても聞き入れてくれないのだ、と彼女は理解した。ふー、とルカは息を吐く。


「約束、だからね。二度も死なれるなんてごめんだから」


「守るよ。俺だって、死にたいわけじゃない。まだ、ルカと旅をしてみたいんだ」


「わたしも君と旅を続けたい。だから、ちゃんと守ってね。もし、帰ってきたら願い事を何でもかなえてあげる」


「それは楽しみだ。守る理由が一つ増えたな」


 その言葉を最後にルカは、レクスに背を向けた。決して納得したわけじゃない。本当なら一緒に戦いたい、と思う。が、今は彼の言葉を信じることにした。


 ルカはガゼルに背中を向けて、かがむ。足を痛めているのなら、自分がおぶっていくしかないだろう。しかし、一向にガゼルが身動きしない。そのことに疑問を覚えて後ろを見ると、


「……いや、その……若い女性の肌に触れるのは、その……恥ずかしい、というか……どきどきするんだ……。ほ、他に方法はないだろうか?」


 ぽっ、と顔をまるでゆでだこのように赤くして、ガゼルは童女のようにもじもじと身をよじらせている。それを見てルカはがっくりと、肩を落とす。


「乙女ですかっ!? ご希望にそえなくて悪いですけど、他に方法がないんです。というより、早くしてください」


 ガゼルを急かすが、抵抗があるのか悩んでいる。


 年上の男の人って、乙女な人が多いのかな。


 そんなどうでもいい考えを、ルカは振り払う。今はそんなことをしている状況ではない。


「ヤメクちゃんに会いたくないんですか?」


 はっとしたガゼルは迷わずにルカの背中に飛び込んできた。が、どうにも腕の力が弱く感じる。これでは振り落としてしまうかもしれない。


「ガゼルさん、わたし左腕が使えないからもっとぎゅっとしてください。抱き着かれても気にしないので、思いっきりお願いします」


 遠慮がちにガゼルが力を込めていく。これなら、振り落とす心配はないだろう。立ち上がって、ルカは走る。レクスの方は見なかった。またすぐに会える。そう、約束したのだから。


 立ち去っていく二人を見送って、ひとまずレクスは安堵の息を吐いた。そして、すぐに表情を引き締めて、キュクロスへと向き直る。


 あとは、こいつを倒すだけだ。


「さて、湿原での借りをここで返させてもらうよ」


 レクスは大剣をキュクロスに向かって、構えた。

 

 不思議と恐怖はなかった。


 レクスの頭の中にあるのはルカとの約束を果たすこと。そのためにも――


 俺は絶対にこいつを倒す。


 


 


 

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