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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第89話 潜入 12

 あれから、八年。未だにルカは目的を果たせていない。ようやく見つけた研究所。そこにノーマがいるかも、と思ったが、おそらくここにはいない。ウェスタに会った時は死を覚悟したが、レクスのおかげで自分は生きている。


 だからこそ、まだ自分は死ねない。


 そんな思いとは逆に凶獣の刃が迫ってきて、


「うあああああああっ!」


 絶叫を上げて、ガゼルが凶獣の背中に向けて剣を振り下ろした。弾かれる、と思いきや、その剣は凶獣の背中を斬り裂いた。これには、斬りかかった本人も目を丸くしていた。


 まさか、傷をつけられるとは思っていなかったのだろう。


 が、そのおかげでルカは命拾いした。しかし、どうしてだろうか。ガゼルは一般人だ。普通の人が凶獣を傷つけるのは不可能に近い。ましてや、ガゼルはメリトですらない。なら、どうして傷をつけられた。


 もしかして。


 ルカの脳裏にある考えがよぎった。


「ガゼルさん、こっちに剣を投げてください!」


 言われたとおりに、ガゼルはルカに剣を放る。それを受け取り、彼女は凶獣に向けて袈裟懸けに振り下ろした。銃の扱いはともかく、剣の腕など素人同然だ。が、もし、自分の考えた通りなら。


 剣は凶獣を大きく斬り裂き、上半身が二つに分かれている。これで確信した。この凶獣は切断系の攻撃に弱いのだ。それなら、とルカは剣の切っ先を水平に構えて、凶獣に向けて体ごと突っ込んだ。


 狙うはあの大きな眼球だ。剣の切っ先が抵抗することなく吸い込まれて、眼球を串刺しにした。そのまま凶獣ごと、壁に突っ込んでいく。まるで断末魔のように体をうねうねとしていたが、やがて、それも勢いをなくしていき――


 凶獣の体は液状に溶けて、散らばっていく。なんとか倒せたらしい。そのことに安堵しつつ、ルカはガゼルを見た。


「ガゼルさん、わたしは確かにあなたほどお金に苦労はしてません」


 旅に出た当初は、その地域の凶獣が弱かったこともありさほど魔核の収集に苦労をしなかった。だから、ガゼルの気持ちは想像することしかできない。しかし、確実にわかることがある。


「でも、わたしはヤメクちゃんの気持ちはわかります」


 幼い自分はいつも、モレドが帰ってくる日を心待ちにしていた。そして、父の話を聞くのが好きだったし、豪快に笑う父の笑顔を見ていると心が和んだ。


 もっと一緒にいたかった。


 それがルカの本音だ。それはきっとヤメクも同じはずだ。


「確かにお金は大事です」


 生活するのには、お金が必要だ。それがなくなると、人は病んでいくのだ。ノーマの両親のように。そして、それは人によっては子供よりも大事だ。自分の母がそうだった。しかし、とルカは思う。


 そうじゃない人間もいる。


 お金より優先するものがある人間だってたくさんいるのだ。


「お金のために危険なことをするなんて、駄目ですよ。それでガゼルさんが死んだらヤメクちゃんはどうなるんですか? 人の命は戻ってこないんです。少なくとも、わたしはもっとお父さんと一緒にいたかった。きっとヤメクちゃんにとっては、ガゼルさんと一緒にいることが一番なんです。じゃなきゃ、わたしに頼み事なんてしないですよ」


 あのいかにも人見知りをしそうな子が、勇気を振り絞って自分に依頼をしてきた。その根底にはガゼルに会いたいという思いがあったはずだ。


「だから、もう帰りましょう。ヤメクちゃんがあなたを待ってます」


 ルカが尻もちをついたガゼルに手を差し出す。その手を見て、彼は首を振る。


「やれやれ、まさか、君のような子供に諭されるとは、な。そうだな、いかに苦しい生活でも死んでしまえば元も子もないか……金に目がくらんだな」


 ガゼルはルカの手を取って立ち上がる。彼女は頷き、ガゼルは決心したように頷きを返す。


 これであとはこの研究所を脱出するだけだ。


 通路に出て端末を確認する。ここからだと、元の道を戻った方が速そうだ。二人は通路を走り、扉が開かれる。そして、そのままそこを突っ切ろうとして、動きを止めた。


 二人とも、愕然と目を見開く。


 そこにはキュクロスが、いた。


 どうやら、ここに戻ってきたらしい。それは最悪の遭遇だった。逃げようにも、完全にキュクロスはルカたちを見ていた。おそらく逃がすつもりはないだろう。左腕のマヒはまだ残っていた。


 万全でも勝てない相手に、こちらは片手。しかも、ガゼルがいるので守りながらということになる。あまりにも絶望的な状況に、思わず乾いた笑いが漏れそうになった。


 ふー、と息を一つ吐いてルカは覚悟を決めた。


「ガゼルさん、こいつの相手はわたしがしますのでその隙に逃げてください」


「だが、君は」


「大丈夫です。逃げに徹すれば時間ぐらい稼げます。心配しなくても、わたしもタイミングを見て逃げますから」


 ガゼルはなおも迷っていたが、頷く。


 とはいえ、逃げ切れるだろうか。正直、自信はないがやるしかないだろう。ルカはキュクロスの動きに注視し――急にキュクロスは前傾の姿勢をとった。以前、交戦した時には見られなかった動きだ。


 よくよく見れば、前回よりも鎧のあちこちにヒビが入っている。顔などは醜悪な口の部分が露出している。そして、キュクロスがゆらり、と動いたと思った瞬間。


 すでにキュクロスはルカとの間合いを詰めて、攻撃の動作に入っていた。それを見て、目を見張る。


 以前、戦った時よりも速い!


 急いで距離をとるが、遅かった。もうキュクロスは巨大斧を横なぎにして、斧がルカの胴部に迫っていた。


 これは、かわせない。


 一秒後には、自分の上半身と下半身は真っ二つになっているだろう。


 脳裏に走馬灯のように記憶がよぎっていく。


 あーあ、何一つかなえられなかったな。


 研究所を潰すこと。ノーマのこと。モレドのこと。そして、あのダスティンという男がなぜあんな目をしていたのか。


 でも、一つだけかなえられたこともある。


 ガゼルを助けたことだ。このまま守れればよかったが、どうにもそれはできそうにない。もう自分ができることはガゼルが無事にサガトに帰れることを祈るだけだ。


 ちらり、とレクスの顔が思い浮かぶ。


 わたしも、そっちにいくよ。


 そんなことを思い――巨大斧が無情にもルカの胴部に迫っていき、があん、と刃の響く音が聞こえてきた。


 見れば、ルカの前に一人の男が立っていた。男はキュクロスの斧を手にした大剣で受け止めている。ふっ、と男が鋭い呼気を吐くとともに大剣を振り上げる。斧がはじかれて、キュクロスの体が吹っ飛んでいく。


「間一髪、ってところかな?」


 その声を聞いた瞬間、ルカは我が耳を疑った。聞いたことのある声だった。そして、二度と聞くはずのない声だ。


「ごめん、遅れた」


 男が振り返る、淡い笑みを浮かべてこちらを見ている。


 それは、もう二度と会うはずのない人の姿。


 そこに立っていたのは、砂丘でウェスタの攻撃で命を落としたはずの青年――レクスだった。

 

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