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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第87話 潜入 10

 凶獣がのっそりとした動きで、ルカに向かってくる。凶獣に向けて銃撃を放つ。弾は凶獣に触れた瞬間、燃え上がった。炎に包まれる凶獣だったが、構わずに走ってきて、剣を下から振り上げる。


 それを背後に飛んでかわす。近接した際の動きは速いが、移動速度はさほどではないのが救いだ。とはいえ――狙いすましたかのように、足、手、頭部、そして、一番の弱点であろう眼球部分を狙うがすべて銃弾は貫通することなく地に落ちた。


 ならば、とルカは銃撃を凶獣の胴体に向けて撃ち込んだ。すると、今度は凶獣の体が氷漬けになっていく。そして、氷塊となった凶獣へと片手で雨あられと弾丸を放っていく。


 が、ぱりんと氷が砕けるだけで凶獣自体にダメージは与えられていない。


 これも、駄目か。


 ルカのエレメントは銃弾を創造する力があり、弾丸に炎や氷といった属性を付与することができる。それならば、対処できるだろうと考えていたが、どうやら考えが甘かったらしい。


 物は試しと銃弾の硬度を上げて、銃を放つ。弾丸は凶獣の皮膚へとのめりこむが、それだけだった。やはり、貫通することはない。


 銃を扱うルカにとっては、最悪の相手だった。


 一体、どうすればいい。焦る気持ちでそんなことを考えていた時であった。凶獣がその動きを止めた。その動きをルカが訝しんでいると、次の瞬間、凶獣の右腕がゴポゴポと音を立てて――突如、腕が伸びた。


 目を大きく見開き、首をひねる。ルカの顔があった場所を通過し、背後の壁に凶獣の腕が衝突した。

 

 危なかった。間合いが離れていたから、完全に油断していた。こんな攻撃手段をもっているとは想像すらしていなかった。視線を凶獣へと戻して、息を呑んだ。


 ルカの目の前に凶獣がその左腕を鋭い刃へと変えて、立っていたからだ。完全に虚をつかれた。体を横へ移動させようにも、もうすでに刃はルカの頭上に迫っていた。


 もう、間に合わない。


 わたしは、こんなところで死ねないのに。


 ♢


「ルカちゃんて、すごい適応器の使い方うまいよねー。どうやったら、そんなにうまくなれるの?」


 学校からの帰り道、ルカの周囲を三人の女子が目を輝かせている。


「そんなことないって」


 謙遜するルカであったが、その表情はどこか誇らしげだ。


「すごいなー。あっ、じゃーね」


 女の子たちは別れの挨拶をかわして、帰ってゆく。家へと急ぐ少女たちの表情はとても嬉しそうに見えた。その背中を見送り、ルカは深々と息を吐いた。その表情は暗い。


 とぼとぼと歩いて、公園のベンチに座った。学校が終わったらこのベンチに座るのがルカの日課となっていた。十一歳のルカは学校へ行くのが楽しみだった。友達と話すのは楽しいし、何より適応器の授業は面白いと思っていた。


 この町、ツタンでは学校教育で適応器の扱いを教える授業がある。もとから才能があったかどうか定かではないが、ルカは学校でも上位となる成績を収めていた。これは未来のハンターか、と男子にからかわれるが悪い気はしなかった。


 学校にいるときはのびのびと過ごせた。だが――家に帰る時間が迫ると途端に気分が沈んでしまう。


 家には、母――リンダがいる。


 母といっても血はつながっておらず、まだ歳は二十代と若い。父であるモレドの話によると再婚のようだ。リンダとルカは折り合いが悪い。というより、ルカはリンダに嫌われている。


 すでに三年は口をまともに聞いていない。最近は顔を見るのも嫌なのか、家にいることは滅多にない。それでも一応親としての責任があるのか、テーブルにお金はいつも置いてある。


 それで夜は一人で食事をとっている。最後にモレドが帰ってきた三年前、ルカはモレドに話をねだった記憶がある。自慢げに話す父の横顔が好きだった。演技かどうかはわからないが、モレドがいるときのリンダはすこぶる機嫌がいい。


 父にリンダとの関係を話そうと思ったことはあるが、結局は言い出せなかった。たとえ、かりそめの時間であったとしても壊したくはないという思いがあったのだ。


 いつも、お父さんがいてくれたら。


 そうすれば、こんなに寂しい気持ちを味わわなくてすむのに。家で一人で食べる食事は味気ないし、リンダに無視されいないものとして扱われるのも辛い。


 はやく、明日が来ないかな。そしたら、学校でみんなとお話できるのに。


 学校だけが、ルカにとって心が安らげる場所だった。


 ぼんやりとしていると、外灯がついていることに気づいた。見上げれば、いつの間にか夜が暗くなっていた。そろそろ帰らなきゃ。溜息を吐いて、


「こんな時間まで、いけないんだ」


 すぐ近くで声がしたので、ルカは驚いて飛び上がった。見れば、見知らぬ少女がそこに座っていた。少女はルカの驚いた姿を見て淡い笑みを浮かべていた。


 少女の年齢はルカと同じぐらいだろうか。前髪は綺麗に切りそろえられており、肌は病的と思えるほど白かった。見たことがない子だ。違うクラスだろうか、と考えていると、


「子供は帰る時間ですよー。ほら、あれ見えないの?」


 からかうように少女が指さす先には、標識があった。そこには、不審者注意! 子供はさっさと家に帰ること! と書いてある。


 なんだか釈然としないものを感じて、ルカは唇を尖らせた。確かに自分は子供だ。が、それを同じぐらいの歳の子に言われるのはむっとする。


「あなただって、子供じゃない」


「わたしはノーマ。子供じゃありません」


「どう見たって子供じゃない……。人のこと言える立場? あなたこそさっさと帰ったら? 今頃、お父さんとお母さんが心配してるはずよ」


「心配してないよ」


「え? どういう意味?」


「あなたは何て名前なの?」


「わたしはルカだけど……」


「ここいい場所だね、気に入った。明日もここへ来ること、いい?」


 それはどういう意味、と質問する隙を与えずにノーマは立ち去っていった。変な子だな、とルカは思った。


 それがルカとノーマとの出会いだった。


 翌日、学校の帰りへ公園へ向かうと、ノーマの姿があった。ルカの姿に気づくと、にこり、とほほ笑んだ。どうやら、彼女はすっかりこの場所が気に入ったようだった。


 こうなると無視するわけにもいかないので、ルカはノーマと遊ぶようになった。ただ、どうにも彼女は体があまり強くないらしく運動をするとすぐにせき込んだ。なので、なるべく体を動かさない遊びを二人でした。


 話を聞いてみると、やはりノーマは病気であまり体を動かすことができないとのこと。そのため、学校はあまりいってないという。


 薬の影響で午前中は寝たきりらしいが、午後になると元気が湧いてくるらしい。何はともあれ、ルカとしては話し相手ができたことは喜ばしいことであった。家に帰っても一人か、いたとしてもリンダには煙たがられる。


 それなら、ここでこうしてノーマと遊んでいる方がずっと楽しい。


 ルカがノーマと仲良くなるのにさして時間はかからなかった。家に帰りたくないという思いと、この時間が続けばいいという思い。二つの思いが重なった結果、次第に帰宅時間は遅くなっていった。


 さすがのルカもだんだんノーマに対して申し訳ない気持ちが募っていった。自分は心配する存在がいないからいいものの、彼女には両親がいるのだ。


「いつもこんなに帰るの遅くなって、お父さんとお母さん心配しない?」


 ある日、何気なくルカが聞くと、ノーマは俯きながらこう言った。


「わたし、要らない子だから」


 それから彼女は寂しそうに、話し始めた。


「五歳ぐらいまではお父さんもお母さんもとっても優しかった。けど、そのころにわたしが病気にかかって……お薬代が必要になったんだ。二人とも最初はすごい心配してくれた。でも……」


 ノーマはベンチから立って、夜空を見上げる。


「お薬代、すごい高いみたいなの。それで……どんどん、家の中の雰囲気が悪くなって……あんなに仲が良かったのに、喧嘩ばかりするようになった。二人とも仕事から帰って顔を見るなり喧嘩して、そんな二人を見るのが嫌で……家に、いたく、なく、って……」


 最後の方は嗚咽が混じっていた。ルカはそれを黙って聞いていた。


 外灯に照らされたノーマがそんなルカを見ながら、諦観の混じった声で、


「ねえ、わたし、生まれないほうがよかったのかな?」


「――そんなこと、ない」


 ノーマの言葉を、ルカは即座に否定した。


 わたしと、ノーマちゃんは一緒だ。


 家に居場所がなくて、帰る場所がない。でも、きっとノーマは自分より辛いだろう、と思う。


 なぜなら、自分にが学校という場所があった。しかし、ノーマにはそれすらないのだ。それがどんなに辛いことかは、ルカには想像ができた。


 ともに親に疎まれている。それでも、一つだけ確かなことがある。


 それは――


「わたしはノーマちゃんと会えて、嬉しかったよ」


 これだけは断言できた。最初に出会ったときは戸惑ったが、今ではノーマと会う時間はルカにとってとても大切な時間となっていた。以前は学校が終わる時間になると憂鬱になったものだが、今はノーマに会えると心が躍るようになった。


「ノーマちゃんはわたしと一緒にいるの嫌?」


 ぶんぶん、とノーマは勢いよく頭を振る。


「そんなこと、絶対にない。わたしはルカちゃんと会うのが一日の楽しみだよ」


「ありがとう。なら、さ、もう生まれなきゃよかったなんて言わないでよ……わたしはノーマちゃんのこと好きだよ」


「ルカちゃん……うん、ありがとう」


 涙を拭いながら、ノーマは淡い笑顔を浮かべた。そんな彼女を元気づけるように、ルカは言う。


「もう少し大人になったらさ、二人でこの町を出ようよ」


 いきなりのルカの発言に、ノーマは目を丸くした。


「こう見えてさ、わたし、適応器の扱い上手いんだよ。だから、ハンターになる。そしたら、ノーマちゃんとわたしで一緒に生きていけるよ」


「で、でもお薬代が……」


「大丈夫! ハンターってすっごい稼げるらしいから、ノーマちゃんのお薬代なんて余裕で払えちゃうよ」


「ルカちゃんと二人暮らしか。うん、面白そう!」


「でしょー? きっと、このままこの町にいたって何も変わらない。それなら、一歩踏み出せばきっと何かが変わるよ。わたしも一人なら不安だけど……ノーマちゃんと一緒なら頑張れると思う!」


 鼻息を荒くしながら語るルカをノーマは楽しそうに見ていた。このときのルカはとにかく彼女を励まそうと必死だった。だが、ルカ自身もいつかそんな日がくるのではないかと疑いもなく信じていた。


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