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凶獣の王(R15版)  作者: ナナシ
第二章 タパパ村の青年
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第84話 潜入 7

 ルカは端末を操作しながら、研究所の通路を走っていた。端末の地図の情報が正しいならば、もうそろそろ捕まっている人たちがいる場所へ着くはずだが、そう思ったところで鉄製の檻に入った人達が視界に入ってきた。


「大丈夫ですか!」


 ルカが声を張り上げると、人々はきょとんとしていた。ざっと見た感じでは、特に外傷などはないようだ。


 よかった、間に合ったようだ。


 安堵するルカだったが、早急に確認したいことがあった。


「この中に、娘がいる方はいらっしゃいませんか。ヤメクっていう子なんですけど」


 互いに顔を見合わせる人たち。名乗り出る者はいない。もしかして、ここにはいないのか。でも、だとすれば一体どこへ。ここ以外の場所となると、研究所を隈なく探し回ることになる。


 それだけは避けたい。


 そう考えているときであった。


「そういや、娘のためにとか、ぶつぶつ呟いている奴がいたな」


 一人の男がぼそり、と言った。


「本当ですか! その人はどこに」


「ついさっき、教団兵の方が連れて行ってたな」


 ぎり、とルカは歯噛みする。ほんの少しここへ来るのが遅かったらしい。


「方角はわかりますか」


「こっちの方だった」


 礼を言って、そこを立ち去ろうとして。


「なあ、あんた誰なんだ。教団の格好してるけど、ここの人間じゃないだろ」


 疑惑の眼差しを向ける人々。この人たちからすれば、いきなりやってきてこんなことを聞くのはあまりにも不審か。もうこの服に用はないだろう。ルカは着ていた服を脱ぎ捨てた。


「わたしは皆さんを助けに来ました」


「助け、に?」


「詳しい事情は後で話します。とにかく、ここは危険なので皆さんはここでじっとしていて下さい」


 もし、ヤメクの父がここにいれば他のハンターが来るまで、ここで時間稼ぎをしていればよかったが、そういうわけにはいかなくなった。ここで牢屋をぶち壊すのもいいが、この状況で逃走を発見された場合、この人たちは確実に教団兵に殺されてしまうに違いない。


 なので、ここでじっとしているのが一番安全だろう。


 ミストクリエイターに関しては、装置自体を破壊したから霧は消えているはずだ。外の状況がわかればいいが、それを確認する手段は今のルカにはない。


 人々はルカに不審な目つきをしていたが、とりあえずは牢屋から動く気配はない。自分の言葉を信用したというわけではないだろうが、今はそれでいい、と思った。


 ルカは男が指さした方へと、再び走っていく。


 運がいいのか、教団兵とすれ違うことはなかった。ただ、けっこうな距離を走っているにもかかわらず、未だにヤメクの父と思しき姿を見ていない。どうやら、まだ奥の方へいるらしい。


 ただ分岐路は少なく、一本道なことは幸いだった。これなら端末を見なくとも迷わずにすむ。そして、ルカは妙な匂いを感じた。例えるならば、それは病院でよく嗅ぐ匂い。

 

 薬の匂いかな、これ。


 見渡してみればこれまでのどこか無骨だった工場のような景色は消え去り、白を基調とした通路に入り込んでいた。この場所は今までと違い、まさに研究所と呼ぶにふさわしい景観をしている。


 そのまま走っていると、一つの扉が見えた。ルカが近づくと、自動で横にスライドされる。その部屋を突っ切ろうとして、ルカは視界に飛び込んできたものを見てぎょっとした。


 それは円筒の形をしており、透明な材質で覆われていた。その中は、緑色をした液体が円筒一杯に入っている。それは何かを浸す培養液のように思えた。それだけならば、まだ驚きは少なかっただろう。が、それよりも目を引くものが中にいたのだ。


 それは、異形の存在であった。


 大きさは人間ぐらいだろうか。緑色と紫が入り混じった皮膚に、赤い目。顔はトカゲに似ているだろうか。両方の手には鋭く長い爪が生えている。あれで刺し貫かれれば、普通の人間であれば即死だろう。


 凶獣、なのだろうか。しかし、ハンターとしてたくさんの凶獣を相手取ってきたルカであるが、こんな凶獣は見たことが――いや、似たような姿を見たことがある。カルハ山で遭遇した凶獣だ。


 あれは皮膚が腐り落ちていて、腐った死体が動いているような有様だったが、もし、あの凶獣の皮膚が腐り落ちていなかったら。目の前にいるこの凶獣に似た姿になるのではないか。


 ルカがそう思考していると、培養液の中にいる異形の目がこちらを、見た。


「……生きてる、の。これ?」


 彼女の疑問に肯定するように、異形は瞬きをした。そして、その口を裂けんばかりに歪めた。それはどこか笑っているようにも見えた。そのあまりの醜悪さに思わず一歩下がり、背中に何かが当たった。


 振り向くと、そこには培養液に浸った異形がいた。それは頭が蜘蛛の形をしていた。それもまたルカを見て口を歪めた。奥を見ると、異形が入った円筒が二十はあった。どれも彼女を見て、笑っている。


 ぞくり、と悪寒を覚えた。それは強い凶獣と相殺した時とはまた別の感覚で、得体の知れない薄気味の悪いものであった。


 たまらずに、ルカは逃げ足すようにその場から立ち去る。だが、部屋を出た後も頭には口を歪めた異形の姿がこびりついていた。


 それを振り払うかのように頭を振ったときだった。


「う……うう……」


 どこからかうめき声が聞こえてきた。


 



 

 


 

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